夜会まであと2日
ラインハルトとヴィヴィアンは無言で執務室に戻った。
目線は合うが何も話さないまま仕事を始める。
ランチを食べていないのも忘れてひたすらペンを動かすうちに冬の弱い日差しが段々と弱々しくなりすっかり日が暮れてしまったのだが2人とも黙々とやるべき事をやっていた。
夜会前はいつもこんな感じなので誰も心配はしないが執事がそっと夕食を運んできて漸く何も食べていない事に気がつく。
「そうか、昼から何も食べていなかったな。どうりで茶ばかり飲む訳だ。休憩しよう。あと2時間もあれば終わるだろう。」
「はい、殿下。」
食べやすくワンプレートに盛られた夕食は時短で食べる事が出来て有り難い。
「なんなら私ずっとこれがいいわ。」
「同意。」
「仕事の時じゃなくてもこれが楽でいいと思うわ。」
「同意。」
「野菜もジュースにしてくれて有難いわ。」
「同意。」
「学生時代に孕ませたなんて陛下はどうかしてるわ。」
「同意。」
「女性関係がだらしないのかしら。」
「そうとも言える。」
「ちゃんと聞いてるんですね、で、どなたなんですか?」
「夜会の時に教えてやる。」
本当は陛下の事など1ミリも興味がないのでどうでもいいのだがお母様が結婚するなら聞いておきたいと思う。
それにしても王族の癖にどんな教育を受けているんだか、誰も止められなかったのか、などと考えてしまう。
「顰めっ面だな。考えている事はなんとなくわかるぞ。俺も聞いた時はそんな顔になっていた。母上は見て笑っていたからな。きっと母上も同じ気持ちなのだ。お祖母様が甘やかして育てたからだと思う。いまだに会えば幼子のように甘やかして甘い菓子を持たせたがる。柔和な兄上は可愛がられているが俺の事は苦手そうだ。」
「殿下は顔に出過ぎなんですよ。王族に向いていないのでは?世の中は好きと嫌いだけじゃないですからね。」
「ではあと何があるんだ?」
「好きと嫌いとどうでもいいで世の中は回っています。」
「ぶっ、お前の得意技だな。どうでもいい奴に対して空気の様に接する時の顔を思い出すと笑える。」
ラインハルトはお行儀悪くげらげら笑った。
「まぁいいわ、今回の夜会は平和に過ごせそうですしね。アイツの顔を見ずに済むと思うと食欲が増すわ。」
「あー、残念なお知らせなんだがな。義姉がお前の部屋から盗んだ安物ドレスを全部売った金で夜会用のドレスを買って行ったらしいぞ。」
「げっ」
あの義姉が行く店は限られる。
ラインハルトは幾つかの店主に伝えておいた。
ドレスの内側のタグにデザイナーの名前とヴィヴィアンの名が刺繍してある。
それを売りに来たら知らせて欲しい。
その主は新しいドレスと交換するかもしれないと。
「そりゃそうですね、国中の貴族が集まる1番盛大な夜会ですものね。何かやらかさなきゃいいけれどーー。エリザが喜んじゃうわ。」
「エリザベスだけではないぞ。やらかしは盛り盛り頭の娘達の大好物だからな。」
「忘れてたわ。エリザも盛るかしら。盛った髪に好きな物をチャームとして挿すんですって。りんごとか挿さってたら銃で撃ち抜いてやろうかしら。楽しみね、殿下。」
「あぁ、今日と明日で片付けよう。お前は盛るなよ。」




