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お母様

結局仕事が中々終わらずにヴィヴィアンが帰宅する事は叶わなかった。

王宮で与えられた自室で目が覚めたがまだ眠く肩も腕も痛い。


(あ、ペンだこが出来ちゃった。)


洗っても落ちないインクの跡や硬くなった指を触りながら働き者の手だわと思う。

だが何もしていない手よりもこうして荒れた手の方が好きなのだ。

マリスに貴族のお嬢様の手には見えないと何度も言われたが国中の殆どの貴族のお嬢様は働いている。

仕事があるのはそれだけ有能だと言える。

逆に働いて居ない方がおかしいのだがマリスは気が付かないほど阿呆だった。


(学生時代に何を学んだのかしら。学んでいないから仕事を選べなかったのかしら。性格的難ありで断られたの?阿呆丸出しで面接に落ちたのかも。)


支度をしていると朝食が運ばれてきた。


「殿下からのメッセージです。」

「ありがとう。すぐに読んでお返事した方がいいのかしら?」

「いえ、読んで頂いていつもの時間に執務室にくれば良いとの事です。」

「わかったわ。ありがとう。」


その手紙には陛下が今日の午後に母を王宮に呼び出したと書いてあった。

ヴィヴィアンはパンを食べながら午前中に出来るだけ仕事をやっつけなければと思った。






「おはようございます、殿下。」

「おはよ、ヴィヴィアン。まだ眠いな。」

「そうですね、日付が変わるまで働きましたからね。手紙を拝見しました。お母様が陛下に会われる前に話をしたいのですが席を外しても宜しいですか?」

「わかった。俺も同席しよう。」

「いえ、私だけで。お母様の気持ちを聞きたいだけですので。殿下がいたら言い難いのではないかと。」

「それもそうだな。」


静かに仕事は始まるがそわそわと落ち着かない。

そんなヴィヴィアンを見てラインハルトが気を遣ってやたら話しかけてくる。


「ちょっと、うるさいわね!」

「は?うるさいとは何だ!王子である俺が気を遣っているというのに。お前だって集中出来ていないだろう?」

「・・・申し訳ありません。お茶淹れましょうか?」


落ち着かないのはラインハルトも同じなのかもしれない。


「・・・殿下も一緒に行きますか?お母様に話したい事があるんでしょう?」

「ある、大ありだ。すまないが同席させてくれ。」




「あら、夜会前なのにこんな所に来ていてもいいの?また隈だらけの顔を厚塗りして行かなきゃいけなくなるわよ。ふふふ、陛下の前に私に話があるみたいね。何処で話しましょうか。ヴィヴィアンのお部屋?執務室へ行きましょうか?」

母親は何でもお見通しの顔をして朗らかに笑っている。

離縁が出来てさっぱりしたに違いない。


「離縁出来たのは殿下のお陰ですわね、改めてお礼をいわせてくださいな。ご尽力感謝します。ふふふっ、聞きたい事はそれじゃないわよね、陛下の事よね。」


ラインハルトが何かを言いかけたがヴィヴィアンが遮った。


「お母様は陛下と再々婚するの?受け入れるつもり?」

「そぉねぇー、再々婚って改めて口に出すと何だかねぇ、お父様のせいで再婚する羽目になったのに。陛下からは何も言われていないわ。私の再々婚に反対なんでしょう?」


反対ではない。母が望むなら心から応援するつもりだ。今まで気苦労した分幸せになってもらいたい。


「お母様の判断に任せるわ。侯爵家は私が守っていくから心配しないで。」


母が困った顔で笑った。

ラインハルトは俺たちも同席すると言い陛下の待つ部屋へ向かう。

いつもと違い明るい色のドレスを着た母は美しかった。

陛下とは同級生なので緊張もないのだろう。

足取りの軽い母を久しぶりに見た気がする。

ラインハルトはヴィヴィアンの手をぎゅっと握り指と指を絡ませた。

湿った掌はラインハルトだけが緊張しているのを物語っていた。

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