8、主は来ませり
世間一般がクリスマスに浮かれた頃合いに、堀江はSOC企画の入っている雑居ビルの会議室兼応接室で資料を整理していた。
あの後、山を下りたSOC企画の三名は警察を呼び、少女三名は警察に保護された。事情聴取を受けたが、正直に話したところで薬物の使用であったりを疑われるのは間違いない。しかし、各三人がそれぞれ別々の事を言うのも変なので、ありのままを警察には伝えた。
「あんたらねぇ……後でアルコール検査するから、飲酒運転とかしてないでしょうね」
年配の警察官からそんな反応が返ってきたくらいであるので、おそらくは、まともに取り合ってはもらえていないだろう。三人仲良くアルコールの検査を受け、また、別の薬物の検査を受けた後に解放された。その頃にはすっかりと夜が明けてしまっており、一泊、車で仮眠をとってから帰路についたのだった。
それから、しばらく経過し、堀江はこの一件をまとめるためにビデオカメラのデータや、音声データを整理していたのだった。
「お疲れ様です」
手に水のペットボトルを持った五条アシスタントが疲れた顔をして会議室の扉を開けて入ってきた。
「二日酔いですか?」
「昨日のバイト先で飲みすぎちゃって」
椅子に腰を下ろした五条アシスタントは、そう答えながら水を飲んだ。
そして、思いついたように堀江を見る。
「そういえば、結局、キアヌ、あの不審者は見つからなかったんですよね」
「はい。警察にも言っていたと思うんですけど、見つかったとか、逮捕されたとかの話は聞いてないです。僕も映像を提供したんですけど、全然で」
「全然なあ。そういえば、あの祠についてもそうですよね」
五条に言われて堀江は首肯する。
あの山の中にあった祠、あれが一体何を祀っていたものであるのか。郷土史などを紐解いてもまるで判明しない。そもそも、あそこに祠を建てたのが誰であるのかもわからず、誰が知っているのかすらもわからないのだ。
言ってしまえば、もはや、SOC企画の三名が建てたも同然である。
「全部の手がかりが手詰まりって感じですね」
「なら、これしてみるか?」
会議室の扉にもたれかかるように、高橋ディレクターが立っていた。
手には、プリントアウトされた紙きれがあり、堀江は嫌な予感が頭をよぎる。
「それなんですか」
「キリスト様だよ。さっき作ったんだ。これでキアヌの所在を聞くぞ」
がらりと会議室の上にキリスト様の紙を広げる。真新しいA4の印刷用紙にアルファベットが記されている。その上に前と変わって1セント硬貨を置くと、三人して硬貨に指を添えた。内心、堀江は信じていないが、付き合うだけ付き合うつもりである。
「キリスト様、キリスト様、おいでください。お越しくださいましたらYesの方へお進みください」
しばらくの停滞。
の、後に、ゆっくりと硬貨が動き始めた。
Yesの文字の方へと硬貨が滑っていく。
「何度見ても信じられないですね」
「静かにしろよ、五条。それで、キリスト様よ。キアヌはどこにいるんだ?」
硬貨が用紙の上を滑っていく。
H O K O R A
祠。
そう文字を示した後、それっきり、硬貨は動かなくなった。
1セント硬貨から指を離し、高橋ディレクターが大きく伸びをして、携帯端末を取り出す。
「まいったな。あ、そうだ。平尾ちゃんから連絡来てたんだよ」
五条アシスタントは首を回して、酔い覚ましにと水を再び口にした。おそらく、平尾からは家原知子や貫井陽子からの取材協力であったり、謝礼であったりと細かい色々の要件をメールしてもらうようにしていたのだろう。
平尾からどのようなメールが来ているか、高橋ディレクターが読み上げようとしたが、口が開いたままに固まった。
「どうかしたんですか」
「あ、いや、その、三人いただろ。祠の前に女の子」
「いましたね。えっと、平尾さん、家原さん、そして、貫井さん?」
「違うんだって」
「え?」
五条アシスタントは、高橋ディレクターへと顔を向ける。
高橋ディレクターは、堀江と五条アシスタントの顔を交互に見た。
「その貫井さん。恋人と隣町で見つかったんだってさ」
「じゃあ、あの場にいたもう一人の女の子。誰だったんですか?」
五条アシスタントが言うように、あの時、祠の前には、少女が三人いた。
一人は平尾。そして、もう一人は家原知子。
では、もう一人は一体、誰だったのか。
「それだよ。あの時いた女の子。いなくなったんだって」