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3、裏山にて

 家原知子の家は、閑静な住宅街の一角というような場所にあった。

 いかにもな高所得者というような家には見えないが、家の内装は、いかにもという装いであった。というのも、家具の一つ一つが高そうな雰囲気を纏っており、傷一つでもつけてしまうのも躊躇われるようなピリッとした意識があった。

 もっとも、堀江と五条アシスタントは家原知子の家には入らずに、外で待っていた。家の近くに停められたバンの中でじっと家原知子の家へとカメラと目線を向けて監視しているのだった。平尾ゆうがお見舞いというように家原知子に会いに行くのは当然、自然な流れだろう。しかし、そこに部外者の高橋ディレクターや、五条アシスタント、堀江が同行するのは不自然だ。

 強いていうならば、付き添いとして高橋ディレクターがいくくらいなものだ。流石に、刺青まみれの五条アシスタントは不適切ということで、同じく不適切認定を食らった堀江とともにバンで待機する事になったのだ。


「五条アシスタントはどう思います」


 堀江はすっとそう五条アシスタントに質問を向けた。

 どう思っているか聞いてみたかったのだ。

 んー、と五条アシスタントは呻くように息を吐き、頭へと両手を回しゆっくりと口を開く。


「あんま言いたくないけど、年頃の子供ですし、家出とかありえる話だからねぇ。あとは、勘違いとかもあり得る。毎晩何か来ているとは言うけど、別に何かはわからない。そして、もっと言うと、俺、さ」


 五条アシスタントはぐるりと堀江へと顔を向けた。

 その瞳には冷たい色が浮かんでいた。


「祠とかそういうのを冗談でも壊すの嫌いなんだよね」

「じゃあ、あの平尾さんとかが死んでも問題は」

「ない、と言い切れるほどに冷たくはないよ。でも、犯罪はいけないじゃないですか」

「それは、そうですね」

「だから、まぁ、この案件がどういう形で終わるにしても、彼女たちは責任をとってもらわないとね」


 確かに五条アシスタントの言う通りである。

 祠を壊す、という事は歴とした犯罪だ。器物損壊罪にも該当するだろうし、それ以外にも、礼拝場不敬罪という特別法にも該当する事になるだろう。そうでなくとも、道徳的に見て許される事ではない。いくら遊びの気分で行った事であったとしても、その罪の責任はとらなければならない。

 そして、だからと言って放置するのも出来ない。

 自分として思う所を口にして満足したのか、五条アシスタントは顔を家原知子の家へと向けた。


「だいたい、おおかた、何もないでしょ。今までが変だっただけで」

「そう、ですかね」

「そうに決まってるよ。お、出てきた」


 五条アシスタントの言葉に、堀江も顔をそちらへと向ける。確かに言う通り、家原知子の家から高橋ディレクターと、平尾が出てくる姿があった。勢いよく後部座席のスライドドアをぐっと引き開けると、どやどやと乗り込んでくる。


「収穫はあったぞ」


 開口一番に、高橋ディレクターは言った。


「家原知子の家にも何かが来ている。毎晩、毎晩だ」

「じゃあ、それは」

「ラッキーな事にな、防犯カメラがあって、そこに写ってたんだよ」

「は? マジですか?」


 五条アシスタントがぐいと体を後部座席へと向き、身を乗り出す。

 高橋ディレクターは首を縦に振り、懐から携帯端末を取り出した。ぱっと点けられた画面には、高橋ディレクターの言うように、防犯カメラの画像だろうかが映されており、そこには家の前、確かに家原知子の家の前に立つ一人の人影が写っていた。


「男、ですかね」


 五条アシスタントが言うように、背格好から見ると男のように見える。かなり背の高い男だ。とはいっても、五条ほどではない。おおよそ平均身長を少しばかり上回る痩せた男というくらいだろう。その人物はじっと家の様子を見つめているのだった。


「静止画しかないけど、たぶん、こいつだよ。こいつがこの平尾さんの家にも来てる」

「んー、わかんないっすけどね。でも、可能性はありますね。平尾さんはこの人に見覚えは?」

「ないです」


 平尾は確信した様子で首を横に振る。

 間違いなく、見覚えも顔見知りというのでもないのだろう。


「じゃあ、なんで来ているのかが謎ですね」

「そんなもん、本人に聞くしかないだろ。だから、張り込みだ」

「あの、一つ提案なんですけど。もう一つの調べるべきことがあると思うんですよ」

「なんだ?」

「祠についてですよ。平尾さん達が壊した祠について、何も調べてないじゃないですか」


 五条アシスタントの言葉通りであった。

 壊したという祠について何も調べていない。何を祀っていた祠だったのか。管理している人はいたのか。

 そのあたりの事について何一つ情報が無い。


「確かにな。平尾ちゃんは何か知ってる?」


 平尾は高橋ディレクターの質問に、またしても首を横に振る。当然の反応だった。

 そうなると、高橋ディレクターは平尾から祠の場所を聞くと、五条アシスタントにその場所へと向かうように伝えた。なるほど、確かに平尾の言った山は、学校からほど近い場所にあった。その近くに車を停めると、四人でぞろぞろと山を登っていく。昼間の日のある時間とは言え、山道とはとても呼べない獣道を歩いていく。

 空気が冷えているが、歩き始めるとだんだんと温かくなり、息が白くなっていくのだった。

 ここです、としばらく歩いた時に平尾が足を止めて言った。

 広場のような空間があった。人の出入りがあるのか草が茂っておらず、土がむき出しになった空間だ。その奥には石の台座があった。ちょうど腰のほどの高さ、つまり、1メートルはいかない程度の高さの台座だ。その台座の周りには、木片が散らばっているのだった。


「マジで壊したんだな」


 五条アシスタントが、木片を拾い上げながら言う。あたりに散らばっている木片をいくつか集めるが、何かしらの手がかりになりそうなものが見当たらなかった。おそらく、祠の中には、祀っている物があっただろうに、そういう御神体もなかった。

 あらかた、検めて一息つこうとした。

 その時だった。

 がさっという音と共に一人の老人が現れた。


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