少女は馬車を助ける
森の中を歩きながらわかったことがあった。
それはユリネ自身の防御力は高いが服や靴はそうではないということ。
当たり前といえば当たり前である。
『ん〜このままだと服も靴もボロボロになっちゃうな。
せっかく可愛いのに。』
ユリネの格好はというと、上半身が白で腰の部分から下が青といったツートンカラーのカジュアルドレスに茶色のブーツという出立ちである。
「コクヨウ、服をボロボロにしないためにはどうしたらいいと思う?」
「結界魔法でも服に施せばいいのではないか?」
コクヨウのアドバイスのもと結界魔法を服と靴にかける。
この魔法によりユリネの服は国宝級の鎧と同等の防御力を持ったのであった。
さらにもう1つわかったことがあった。
魔力操作スキル15のユリネは、膨大な魔力を有している割に、ほとんど魔力が体外に放出されていない。
それにより魔物がユリネの力を見誤って襲ってくるのであった。
「ユリネよ、森の中では魔力をもう少し放出していてもいいかもしれないのじゃ。」
「魔力の放出って上手くいくかな?」
そう言いながらユリネはおへそのあたりに力を入れてみる。
ゴゴゴゴゴー
空間が歪むかのような魔力放出に
「ユリネよ、魔力を抑えるのじゃ。早く魔力を抑えるのじゃ。」
とコクヨウが焦る。
深呼吸することで元の魔力放出量に戻るユリネ。
『魔力の放出量の制御は練習が必要かも…』
魔力を放出しながら森を歩くことを諦めたユリネとコクヨウではあったが、一瞬の規格外な魔力放出により、森の中の魔物の大半は気絶していた。
そんなことはつゆ知らず歩き続けるユリネたち。
そんなこんなでユリネたちは魔物に襲われることなく森を出ることに成功したのであった。
「やっと街道に出たね、コクヨウ。」
するとユリネのサーチスキルに反応があった。
『魔物の集団がこの先にいる。それに魔物ではない反応も。』
「人が魔物に襲われているかもしれない。
コクヨウ、助けに行こう。」
そう言うと剣型のコクヨウを片手に猛スピードで反応があった場所まで駆けていく。
遠目に馬車が見えたきた。
馬車を背に数人の護衛騎士とそれを囲う様に狼型の魔物の群があった。
シルバーファング
討伐難易度D
この護衛騎士たちにとって1頭1頭であれば問題ないシルバーファングでも、群で連携されるとかなりの脅威になる。
1人の騎士が足を滑らせ、そこに3頭のシルバーファングが同時に襲いかかる。
騎士が死を覚悟したその瞬間、急に風が通り過ぎるのを感じた。
シュ
騎士の目の前には襲いくるシルバーファングではなく、小柄な少女が体と同じくらいの大きさの漆黒の大剣を片手に立っていた。
次の瞬間、目の前の少女はシルバーファングの群の中心にいた。
シュ、シュ
襲いくるシルバーファングを目にも止まらぬ速さで切り伏せていく少女。
騎士たちはその美しく舞っているかのような剣技にただただ見惚れるしかできなかった。
「ふ〜終わった終わった。」
『何頭かは逃げっていったけど、とりあえずはこの人たちが守れたからいいよね。』
そう考えながらユリネは騎士たちのもとへ行く。
『騎士さんたち怪我してるじゃん。
怪我治してあげられないかな。』
そう思いながら、漫画の知識をもとに
「ヒール」
と小さくつぶやいてみた。
途端に、ユリネを中心に大きな魔法陣が地面に浮かび上がり、騎士たちを包むように眩しい光が放たれた。
「怪我が治っていく。」
「すごい。」
騎士たちは口々に驚きの言葉を口にする。
『あ、やりすぎたかも。』
ちょっと焦ったユリネは、
「皆さん、無事でよかったです。では、ご機嫌様。」
と言って、猛スピードでその場を離れるのであった。
「今の少女は誰だったんだ?」
「あんな剣技は今まで見たことない。」
「まるで聖女様の様な回復魔法ではないか。」
そう口々にする騎士たちとは別に
「なんて美しく強い方でしょう。」
と馬車の中の少女が言った。
『やっと街が見えてきた〜
これで今晩は野宿しなくて良さそうだな。』
猛スピードで街道を走ったことにより、ユリネとコクヨウはお昼前に街に着くことに成功した。