EX3.とくべつ
本編終了後〜溶融サテライト手前の話
自分以外の有翼種に初めて会った、という訳ではない。
一目見て彼女は特別なように思えた。
どこが、と突き詰めようとすると急に思考が霧散しておぼつかない。
ふんふん、と軽やかに鼻歌を響かせるリリーは機嫌良さそうだ。
緩やかな弧を描く銀の髪ふわふわと揺れ、陽光を浴びて輝く。
鼻歌は一旦途切れ、リリーはぴたと立ち止まるとくしゅん、と小さくくしゃみをした。
……盲目だの、病に薬なしだの、よく言ったものだ。
「まだ少し肌寒いな」
言いながら近寄ると、リリーはぱっと顔を明るくし自身の毛先を梳き、前髪に触れ、スカートの裾を正しと落ち着きなく体を動かす。
どうやらくしゃみをしたところを見られて照れているらしかった。
「あのー……私……」
忙しない手を絡めとって繋ぎ、ゆっくりと歩く。
リリーは言いかけてぴたと黙った。
長いまつ毛に彩られた夜闇色の瞳がじっとヴィントを捉えた。
何を考えているか分かり易い表情をたたえるこの顔もそうだ。
好きな所を数えればキリがなく、きっと夜が明けてしまう。
「3階に行こうか」
手を引いて城内に入る。
エライユ城が全壊して以来、立て直された城内はまだ物が少なく、3階は出窓に沿ってアルコーブソファーが設置されているだけだ。
リリーが言い淀んだ事は分かる。
何度も、何度も、悩んで、その都度話し合ってきた事だ。
ヴィントはソファーに浅く腰かけると壁に体を預ける形で背中をゆるく倒し、くだけた調子で座る。
リリーはにこにこと嬉しそうに、隙間を開けずにぴったりとヴィントに寄り添った。
実の所、ヴィントは背を正して隙がない…….とは聞こえがいいが、つまるところ格好つけていた方がリリーは好きなのではないか、と思っていたが、こう、少しだらけていた方が好みであるらしかった。
……どうも働き過ぎと思われている節がある。
肩口に頭を預けて幸せそうにしているリリーの、頭の先から足の先まで。
その、全てが欲しかった。
「やっぱり、ロマネストに留学しようかな、って、思っ…………て…………」
最後の方は自信なさげに声が小さくなり、リリーは目を伏せる。
身を預けるリリーの小さな肩をそっと包み込む。
「寂しくなって、すぐ帰ってきたくなるかも」
うん。
「ひとりだと思ったら、どこへだって行けるのに、ずっとそばにいてくれる人がいると思ったら、急にどこかへ行くのが怖くなるものなのね」
うん。
「寂しくなったら、すぐ会いに行くから」
「またそうやって甘やかして……今すぐ来て、やっぱり帰って、やっぱり来て、ってわがまま言っちゃうから」
むう、と唇を尖らせて抗議する姿も可愛らしく目に映る。
「じゃあどうする?閉じ込めて、もうどこにも行くなと言った方が良かったか?」
「そ、それは……」
えぇ、うぅんと唸るリリーは意外と?満更でもなさそうで。
でも今はまだ少し。
「ひとつ決めた事がある」
「何ですか?」
「ロマネストから帰ってきたら、教えようかな」
「ええーっ!どうしてもったいぶるんですか!?」
……閉じ込めておくより、振り回してくれた方が楽しそうだ。
教えてくださいよお、と膝に跨って肩を揺すりじゃれてくるリリーを抱きすくめて、何処へも行きたくないと言わせるにはまだまだ修行が足りないな、とヴィントは思った。
筆が乗ってきた!(気がする)のでそろそろ本編戻りますね!
短編にお付き合いいただき、ありがとうございました。




