EX.??? 今日も平和ですね
リリーが惑星エライユに移住してから住民たちは皆友好的で、特にメイド達は年頃も近いだけあってすぐに打ち解けた。
が。
少しだけ困った所がある。
「ヴィント様って、足も長いしまつ毛も長いしかっこいいんだー!特にね、」
さらっと。
「あー、分かる!」
わいわいきゃあきゃあと盛り上がりながら廊下を歩くメイド達の口から出るわ出るわ。
流れるような猥談の嵐。
飛び交う卑猥な単語の数々に、誰かに聞かれやしないかとリリーはひやひやしながら左右を見渡した。
日常でまず使用する事は無いであろうきわどい単語が夜の廊下を反響する。
ここで注意をすれば皆冷めてしまうだろうか?でも一緒になって盛り上がるにはちょっと。かなり。アレだ。
「ヴィント様あー!あたしたち、今から寝るの!一緒に寝る?お風呂も一緒でもいいよおっ!」
ノックひとつなくどばぁんと執務室の扉を無遠慮に開けながらフラーが、流れるように自然にお誘いした。
隣に並ぶリリーも何だかそのつもりで来たと思われたくなくて、ふるふるふると全力で首を横に振るう。
当のヴィントは眉ひとつ動かさず、分かった、と返事した。
分かった!?
「明日からおやつ抜きだな」
ええー!?ひどぉい!なんで!やだ!ごめんなさぁいとメイド達が口々に絶叫する。
……ほうほう、なるほど。
リリーも段々と分かってきた。
メイド達を執務室の外へと追いやりながら、
「明日もおやつあるよ。でも、虫歯にならないように歯磨きしてから今日は寝ようね」
とリリーは諭す。
はぁい!と返事するメイドたちはおやすみなさい、と挨拶をするとヴィントの元を後にした。
なるほどね、ふんふん、段々分かってきた。
メイド達は十六から十八歳くらいの少女でありながら、中身は子供のような所があるのだ。
優しく、時には厳しく諭す。
そうやってヴィントのように接すればいいのだ。うんうん。
リリーはひとりうなずきながら廊下を歩いていると、向かいから全裸のフラーがとことこと歩いてきた。
全裸!?
「ど、ど、どうしたの!?」
「……暑くてお洋服脱いだの」
「う、うん。それで?」
「意外と寒くて。また着たいんだけど、どこで脱いだか忘れちゃった……」
しゅん、と頭頂の白の毛並みが美しい三角獣耳をぺたりと下げ悲しそうな顔をするフラー。
なるほどね!?
しかしながら、全部脱がなければならないのは、や、ちょっと分からないかも!?
焦るリリーの後ろからヴィントがやってきて、またしても眉ひとつ動かさず、懐から取り出したバスタオルでフラーをぐるぐる巻きにしながら、
「……違う服に着替えてから無くした服を探したらどうだろうか?」
と提案した。
持ち歩いてるのかなバスタオル。
「たしかにー!!」
フラーはにこにこぴょんぴょんしながらじゃ着替えてくるー!と足取りも軽やかに去っていった。
「……今日も平和ですね?」
その場の空気を変えたくて、何とか絞り出した言葉の選択を誤った気がする、とリリーは思った。
「はははは!見ろ!!これが小型飛行機だ!!」
「きゃー!?」
突然やってきた王が小型飛行機なるおもちゃを勢いよく飛ばし、おもちゃの飛行機は廊下の石壁を破壊し突き刺さった。
たまらず叫んだリリーをヴィントがマントで庇い、小さな壁のかけらがばらばらとあたりを飛び散った。
……平和とは。
ヴィントは突き刺さった小型飛行機を引っこ抜き、王と一緒に窓から投げ捨てた。
「天気も良いしな」
……しっかり会話に乗ってくれている。
ぴーよぴーよちちち、と遠くで鳥の鳴き声が聞こえ、空は素晴らしく晴れていて、庭から「王様なにそれすごぉい!」「飛行機だ!」「飛ばして!飛ばして!」とメイドと王達の和やかな会話が聞こえた。
「……フラーの無くした服、探してきますね」
リリーはヴィントと別れてフラーの無くした服を探すことにした。
……今日が本当に平和だったかどうか、考えるのは今じゃないなあ。
廊下に飛び散った石壁の残骸は見なかった事にした。
SNS用に書き上げた小話でした。
ぜんぜん短話にならなくて絶望した思い出……
しばらく小説を書いていなかったので、リハビリ的に短いものを(本当に短いのか!?)いくつか書いていきたいと思います




