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EX2.たからもの


※最終話の後日談。

是非本編からお読みください。






ドン、ドンとまるで大砲でも打ち上げるかのような音が遠くで聞こえる。

城門前に集まっていたメイドたちにどうしたの?とリリーが聞くと、


「んー?ケンカ?」

「手合わせ!」

「遊んでるだけ!」


とよくわからない答えが返ってくる。


「ヴィント様と王様がなあ、」


こう、とシスカが腕を振り回して説明するのでリリーはああ、と納得した。

要は二人がじゃれ合いのような何かをしているのだが、とんでもなく強い二人なのでこう、なるのだろう。

轟音と共に激しい土煙が上がるのが城門からも見えた。


「そこら辺の山が平地になりますよ…」

「平地で済めば…盆地もありえます」


引き気味に言うのはヴィントの部下二人。


「そういえばリリーちゃん、ヴィント様が明日は一日リリーちゃんと二人で過ごしたいって言ってましたよ!」


トルカの屈託ない笑顔にリリーもぱっと表情を明るくする。

…二人きり!

なんだかんだ一緒にいる事は多いが、一日二人きりは初めてかもしれない。


「フタリキリ………フム…ワレワレハ、ウマレテクル、コドモノ、ナマエヲカンガエネバ」


思案顔のウサギに、


「やめろ段階すっ飛ばすな早いんだよ…」


呆れ気味のシスカの突っ込みが入る。


「ヤヤ…ココニ、ケッコンシキジョウヲ、タテヨウ!ガ、サキデシタカ」


ひらめいたと前脚をもふんと片前脚に乗せて相槌を打つウサギにそれも早…いやもう建てとくくらいならいいか…とシスカは自身の顎髭を撫でた。


一連の流れを黙って聞いていたメイドたちはひゅっと息を飲んで八人お互いがお互いを抱き合いぎゅうと固まって言った。


「こ、これは……一大事…!!」












「かっ、か、か、可愛い下着!?」


リリーは顔を真っ赤にして高い声で叫んだ。

はっと口を抑え、きょろきょろとあたりを見回してメイド達以外いないのを確認する。


「そうよ!一日中ヴィント様とふたりきりでしょ!いるわよ…」

「可愛い下着いるって絶対」

「取っ替え引っ替えいっぱいいるよ」


捲し立てるメイド達にちょっと待って、とリリーは制止をかける。


「そ、な、だって…そんな…そんな…」


ね?とメイド達は団結し、


「だって考えてみてよ?二人きりだよ?」

「可愛い彼女、一日中独り占めできるんだよ?」

「なのに彼女がえっちな下着一枚も持ってこなかったら…」


んねー!?と言い合う。


「今えっちな下着って言わなかった?」


まあまあ、とメイドの一人サーシャが紙に、えっちな下着がいる、いらない、と書いて真ん中に線を引く。


「んで、この線の上にペンを立てるでしょ?」

「今えっちな下着って書かなかった?」

「はいリリーペン持って」


ペンを持たされ、手を離すよう促される。

ペンが倒れた方の指示に従うのだ。

ぼとり、とペンは転がり、いらない、の方に倒れた。

リリーはほっと胸を撫で下ろすと、横から手が八本伸びてきてずっ…と紙をずらした。


「あーやっぱり、」

「これはいる流れ」

「今紙動かしたでしょ!?」

「ヘイ採寸係〜!」

「はいここに巻き尺!」


圧巻の連携プレー、流れるような動作でリリーを捕らえる。


「すごい…えっちな下着作ろうね」

「やっぱりえっちな下着って言ってるよね!?」


きゃー!いやっ!どたんばたん。

ちょっとだけ、さきっちょだけ!どう言う事なの!がたんばたん。


「何をしている」

「あっ」


大暴れの末リリーは手取り足取り…もみくちゃにされ掴まれ両足が宙に浮いている。

そこにヴィントがやってきたのだ。


「こ、これはー…あのぉ…し、身体測定を……」


足が宙に浮く身体測定があるか。

はぁ、とヴィントはため息をつき、


「降ろしなさい」


メイド達に指示を出す。

さすがの八人も押し黙りそっとリリーを降ろした。


「来なさい」


リリーはちょいちょいと手招きをされ、ヴィントの側に寄る。

と、すぐに腕を掴み抱き寄せると、移動魔法で瞬間移動した。


「あっ!逃げた!!」

「リリーを返せ!!」


でも末長くお幸せに〜!と謎の絶叫がこだました。







移動先はヴィントの自室で、リリーはソファーの上に降ろされた。

ヴィントはすぐに立ち上がり、はぁー、と重く長いため息をついた。

せっかく二人きりなのに、甘い雰囲気ではなくリリーはしゅんとして膝に目を落とした。


ソファーに戻ってきたヴィントはヘアブラシを持っている。

…ブラシ?

ヴィントはリリーの横に座り、リリーの頭からカチューシャ型のブリムとハーフアップに留めていたピンを引き抜くとそっと髪を梳った。

…そういえばメイドたちにもみくちゃにされ、ぐしゃぐしゃだ。

撫でるような微細な力で、毛先から丹念に梳いていく。


「…髪の毛一本、大切にしているのに、こんな、」


ふう、と息を吐いて一拍、


「…いや、何でもない。ただの嫉妬だ」


小さな声でそう言うとまたリリーの髪にブラシを入れた。


いつだったか、髪が傷まないように毛先からブラシをかけるのだ、とリリーが説明するとそれ以降丁寧に髪を梳ってくれるようになった。


目の荒いブラシで毛先から優しく埃を落とし、目の細いブラシで整える。

自分でやる時すらこんなに丁寧に梳かないですよ、と笑った。


それでも、大切に、大切に扱ってくれる。


込み上げる気持ちに胸がいっぱいになり、リリーはヴィントの胸元に頭を埋めた。


「や、やっぱり、今からにします…」

「今から?」

「今から……明日も……二人きりがいいです…」


ヴィントはブラシの手を止めてリリーの背に腕を回す。

密着して離れないように深く回し、頬と頬を擦り合わせるように戯れた。


「もっと、」


リリーの耳元に口付けて、もっと、大切にしたい、と言った。

びく、と体を震わせたリリーも深く抱きしめ返し、回した腕でヴィントの頬をちょんとついた。


「私もヴィント様のこと、大切にしたいなあ」


深く、優しく。

抱き合って、私の宝物、とリリーは言うとヴィントの首元に顔を埋め直した。


ヴィントは一日じゃなくて一週間くらいもらっとくんだった、と少し後悔した。









お読みいただきありがとうございました。








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