第97話 岩場へ
「とりあえず、岩場に行って立入禁止になったところを探して入っていけば良いんだね。思ったよりも簡単に分かって良かった」
フロリアはトパーズと話しながら、街道を戻っていく。
「岩場にいくのなら、村を抜けるか、迂回する必要があるぞ」
「うん。村の人達がまだ見てるから、一旦、町に帰るように思わせるの。暗くなったら、戻ってこよう」
「そうか」
気にせずに村を抜けていけば良いのに、と思うトパーズだが、フロリアに反論することは無い。
それよりも、
「フロリアは亜空間に籠もっていろ。私はちょっと狩りに行ってくる」
「この辺、あまり魔物も動物も居ないらしいよ」
「判っている。最近、サボリ気味だったからな。走りたいのだ」
そこで、日が暮れる頃にその場所で待ち合わせを約束して、フロリアは亜空間に籠もった。
時間の感覚がやや人間とは違うトパーズに1時間ほど待たされてから、フロリアはモリア村を大きく迂回して、岩場を目指した。
「獲物は獲れた?」
「ツノウサギが5匹。ああ、2匹は食べたが、残りをフロリアにやろう」
そう言うと、首輪に付与した収納からフロリアの収納にツノウサギを移す。
「ありがとう。あとで血抜きしとかなきゃ」
日は落ちているが、月が太っている時期であったし、探知魔法を使っているフロリアの足元がおぼつかないということは無い。
ライトの魔法は、村から見えるかも知れないので使わなかった。
程なく、迂回し終えて、村から岩場に繋がる道に出て、数分も歩かないうちに道を木のバリケードで塞いだ箇所についた。
「これが立入禁止の合図かな」
フロリアはよっこらしょ、とバリケードを乗り越えてから、シルフィードとノームを召喚すると、先行して岩場に入って、遺跡の入り口を探すように頼んだ。
「遺跡ってなあに?」
「昔の建物とか生活していた場所の跡だよ。多分、地面に穴が開いていると思うから、その場所を探してほしいんだよ」
「判ったああ」
シルフィードは風に乗って上空に舞い上がり、ノームは「岩だ、岩だ、とても良い岩だ」と歌いながら、地面を走っていく。
「私達も行こうか」
トパーズを促して、フロリアは岩山のようになった大きな岩場を登っていく。
思ったよりも厳しい岩場で尖った岩があちこちに突き出ていて、足場も悪い。
フロリアは諦めて、光魔法で、足元を照らしながら、ゆっくりと登っていく。確かに、こんな場所で遊んでいたら、大きな怪我をする子どもも出たことであろう。
トパーズは軽々と登っていくが、フロリアを引き離すことはなく、時折、後ろを振り返って、フロリアが追いつくのを待っている。
「やっぱり人間とはひ弱なものだ。この程度の山も登れぬとはな」
「登っているじゃない。少し遅れているだけだよ」
「ふん。そんなのは登っているとは言わぬわ」
口喧嘩しながら、それでも登っていくと、すぐにシルフィードが戻ってきた。
「フロリア、フロリア、あったよ、見つけたよ」
あっさりと見つけたようであった。
これだったら、最初から岩場に遺跡の入り口はあると判っていたのだから、モリア村で聞かずに直接捜索すれば良かったかな、とフロリアは考えた。
いやいや。かなり大きな岩山だし、いくら精霊達でも闇雲に探すのはけっこう大変だろうから、やっぱりヒントをもらえて良かったのだろうと思い直す。
そして、シルフィードに場所を聞くと、1時間程度は登らなくてはならないと判り、げんなりしたのだった。
***
2時間掛かってようやく坂の中腹に穴が開いている場所までたどり着いた。穴の前はちょっと広い平地になっていて、この急峻な岩山の中では珍しく一休みできそうな広場になっている。アシュレイのノートに書かれている通りである。
「遅いぞ、フロリア。弛んでるんじゃないのか」
トパーズはそこに寝そべって、息を切らしながらやってくるフロリアをからかう。
「落ちたら死にかねないような崖を暗がりで登ったりしたんだから、このぐらいは掛かるよ。トパーズが早すぎるんだよ」
そしてシルフィードの案内で、広場の端が壁のようになった崖になっていて、その壁の亀裂のようになった洞窟の入り口がぽっかりと穴を開けている。
長く人が立ち入った形跡が無い。
「早速、入ってみるか」
「そうね。どうせ中は暗闇だろうから、夜でも昼でも関係なさそう」
探知で探ってみると、フロリアの能力が届く範囲では特に動物が入り込んで巣穴にしているということはなさそうである。
もう村から視認されることはないので、光魔法で前方と足元を照らし、さらに久しぶりに精霊のライトを召喚して、前を探らせることにした。
地面は乾いた岩なのだが、平坦でゴツゴツしたところが全くない。
アオモリに住んでいた頃にはゴブリンの巣穴を見つけて潜って全滅させたことも何度かあるが、あの時はジメジメしているし臭いしで、とても何度も潜りたいような穴では無かった。
しかし、この遺跡の穴は、入り口にところが狭くなっているだけで中に入ると、多分大柄な大人の男性でも立って歩けるだけの広さがあり、それが奥深くまで均一に続いていて、地面も大きな突起などはなく、歩きやすい。
これもアシュレイの研究ノートにあった通りである。
ところどころに、壁にナンバーがペンキのようなモノで描かれているが、これはどうやらアシュレイが潜る前に、帝国の調査隊が数ヶ月に亘って念入りに調べたそうだが、その時に目印に付けたものだろうと研究ノートに書かれていた。
雨風があたらない場所なのに、20数年程度で風化して、良く読めなくなっているのだが……。
「お師匠様は何かの予感に導かれていたそうだけど」
「フロリアは何か感じるか?」
「全然」
「フロリアは鈍いからな」
「うるさい」
軽口を叩きながら、奥に進むと、壁がさらに平滑になり、地面も地面と呼ぶよりも床と呼んだ方がよさそうなぐらい平坦になった箇所にたどり着いた。
確かにここは人工物のようである。
「壊れたツルハシが放置された場所だったっけ?」
探すともなく、すぐにその場所は見つかった。ただ、周囲の壁はどこも平坦でわずかに調査隊が付けたと思しき引っかき傷のような跡が残るだけで、他と質感や色の違う部分など無い。
手を触れたら判るのだろうか?
いつも読んでくださってありがとうございます。




