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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第6章 遺跡
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第96話 モリア村へ2

 自己評価では思慮深い方だと思っているが、他人が見たらずいぶんと隙が多くて危ういのがフロリアである。この時も、単純に尾行者3名は撒けば済むと簡単に考え、町の外に小さな雑木林を見つけると、すぐに中に入る。

 

「ちょうどいい。中でとっ捕まえるぞ」


 男たちはすぐにフロリアの跡を追って、雑木林に入ったのだが「……どこに消えやがったんだ」「そんな遠くに行ける筈は無いのに」と慌てることになる。

 せっかく掴んだ手がかりを無駄にしたとなると、それを簡単に許してくれるオラツィオではない。

 男たちは焦りの表情を浮かべて、探し回るが、1時間後には諦めて町にるしか無かった。

 

 常識はずれの魔法とスキルのお陰で、迂闊な行動をしていてもなんとかなってしまうのがフロリアであった。


***


 鉱山都市アルジェントビルと、工房都市アルティフェクスは、元々は1つのアルジェントビルであったのだが、その中で職人が集住している地域を分けて、アルティフェクスが作られたという歴史を持つ、双子の町であった。

 分けた理由は、ゴンドワナ大陸一の魔法金属の産出地と、やはりゴンドワナ大陸有数のゴーレム工房や魔道具工房が同時に存在する町となると、その町を治める代官の権力が強くなりすぎる。

 それを怖れた教皇皇帝が、町を2つに割って、それぞれの代官を政治的に対立する派閥から選んだのであった。


 その伝統は現在でも続いていて、アルティフェクスのパレルモ工房のパトロンであるマルケス伯爵家は、アルティフェクス側の派閥の一員であり、その私兵団はアルジェントビルの大門の門番に鼻薬を嗅がせるルートは無かった。

 アルジェントビル側の露店や屋台で目立たないように聞き込みをする程度なら可能であるし、リベリオ団長は部下にやらせてもいたのだが、流石に代官直属の衛士隊の管轄である大門の門番には接触する危険は冒せなかったのである。


 それで、フロリアと思しき少女が、5月11日の朝に短時間に大門を出入りしたという情報は、マルケス伯爵私兵団側では入手していなかった。

 しかしながら、銀色の髪の少女を探している別の集団の情報は、屋台のおっさん達から入手していた。

 ちょっとした小遣い銭を貰った屋台のおっさんは、その集団とはデブのオラツィオという、娼館のオーナーが抱えているチンピラ達で、けっこう本気で探しているらしい、ということであった。


「ふん。そういやあ、ロドリゴの言っていたペッピーノとか言う三下も、そのオラツィオの手下らしいな」


 リベリオ団長は部下の数名に、その娼館を見張るともなく見張っていて、チンピラが動いたら、すぐに知らせろ、と命じた。

 そして、せっかくの金蔓なのに、そんな連中に横から掻っ攫われたら目も当たられないと考え、マルケス伯爵の息の掛かった教会から魔法使いを1人、手配してもらった。

 かなり優秀な予知魔法使いである。


「それと、まだコッポラ工房だった時の話がけっこう鍵になるかも知れねえ」


 ロドリゴの証言によると、フロリアという少女は、工房で製造工程を見学した際に、この20数年で簡略化した工程に来る度に、なぜこのようなやり方に変えたのか、どの様な効果を期待しているのか、という質問をしたという。

 つまりは昔の製造工程を知っていたという訳である。


 この娘は、マルケス工房がコッポラ工房だった最後の頃、すなわち現在まで続く革新的なゴーレムが最初に作られ始めた頃の製造工程に知識があるという意味になる。


 そこで、マルケス伯爵の元で閉塞したまま20数年を過ごし、すっかり年老いていたブルーノ・コッポラ、元の工房の親方を呼びつけたのであった。

 ブルーノ・コッポラから工房を奪い取った形になるドン・パレルモは非常に嫌がるだろうが、リベリオ団長には別にドンのご機嫌を気にする理由が無かったのだった。


***


 モリア村は何の変哲もない小さな村であった。

 村はかなり険しい岩山に抱かれるような感じで、麓にポツンと集住して、その周囲には麦畑が広がっているというのどかなところであった。

 魔物や危険な野生動物もいないため、設置にも維持にも一定のコストがかかる柵などは用意されていなかった。


 どうやら時折り行商人が訪れるぐらいしか、村外の人間が来ないような村だと思われる。そんな村で、よそ者であるフロリアが怪しまれずに誰かと会話するだけでもかなりの難事である。

 

「いっそ、村はスルーして、直接岩場を探し回ろうかな。そしたら遺跡に偶然行き着くかもしれないし」


といったことまで考えてしまう。


 モリア村出身の男たちの内、農地を継げない次男、三男はアルジェントビルに移住して鉱夫になっている者が多い。

 そうした鉱夫の誰かに渡りを付けていたら、それが突破口になったのだろうが、まだ未成年の少女であるフロリアにはどちらにしてもそれは無理な相談であったろう。

 

「とりあえず、村に入ってみようか」


 トパーズに猟師の格好をしてもらい、獲物の鳥を幾つか肩から下げて、巡礼の父娘の設定で、村に入っていく。


「お前さん方、どこから来なすったのかね?」


 すぐに村の中の小さな広場の井戸の脇で立ち話していた主婦らしき人がフロリア達を目に止めて、声を掛けてくる。


「ここは、何も無い村だよ。なんの用だね?」


「あの、すいません。モリア村ってここで良いのですか?」


「ああ、そうだがね」


 主婦達は警戒感マックスという感じで、胡散臭げにフロリア達を見かける。別に彼女達は魔法使いでも何でも無いのだが、複数の目で観察するように見られると落ち着かない。


「私達は鉱山のアルジェントビルから来たんです。この村の遺跡に[死んでなきゃ治る」ポーションがあるかもしれないって聞いて」


「はあ? 何を言っているんだい、あんたは?」


 意外とアドリブ混じりで適当に話していても、ちゃんと会話が繋がるものだと思いながら、フロリアは父親の怪我を治すために巡礼をしている、鉱山都市で伝説的な「死んでなきゃ治る」ポーションは何でも遺跡に関係しているらしいという噂を聞いた、だからわざわざやってきたのだ、と説明した。


「それで、お父さんが鳥を獲ってきたんですけど、どこかで買ってくれるところは無いですか?」


「この村にそんなところ、ある訳ないじゃないか」


「せっかく来たのに残念だけど、遺跡とポーションが関係しているなんて噂、聞いたことも無いねえ」


「誰かにデタラメを教えられたね。無駄足だよ。さっさとアルジェントビルに帰りな」


「確かに、町やら聖都のおエライさん達がやってきた時期と同じぐらいに、アルジェントビルあたりで「死んでなきゃ治る」ポーションって出回ったけど、別に関係してなんかいないよ」


 主婦たちの否定の言葉が続くが、フロリアは、


「そうですか。でも、せっかく来たんだから遺跡ぐらいは見ていきたいんです。どこにありますか?」


「それも教える訳にいかないね。そもそも、遺跡に向かう道は立入禁止にして封鎖してあるんだよ。子供らが遊びに行って大きな事故があったからね」


「それに悪いけど、村に泊めることも出来ないよ。あんた達なら野宿も慣れてるだろ。さっさとお帰り」


 取り付く島がない主婦たちにフロリアは「そうですか」と言うと、頭を下げて引き返していったのだった。


 主婦たちは別に相談したわけでも無いのに、父親らしき男はどこか不気味だし、女の子の方も未成年だけどハッとするほど美しくて、この村にはとても泊める訳にはいかないという意見で一致していた。


「どうせ出稼ぎに出ている、バカな若い衆が、見栄えの良い娘の気を引こうとしていい加減なことを吹聴したんだろうね。このまま村に居つかれでもしたら、厄介事になりかねないからねえ」


 主婦の1人がそう言うと、他の主婦たちは皆うなずいたのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



誤字報告をくださる方もありがとうございます。

助かります。

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