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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第6章 遺跡
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第94話 解読開始

新章です。

この章でも、アリステア神聖帝国でのお話になります。



 幾つかのグループがフロリアを捜索を開始した。

 だが、肝心のフロリアはアルティフェクスの町を出て、あまり人が通らないように街道から少し外れた荒れ地の岩陰に亜空間の扉を出すと、中に籠もっていた。

 

 ペッピーノあたりは脅かしただけで、生かしたまま逃したので、その関連で自分が跡を追われているかも知れないという意識はあったので、ここでほとぼりが冷めるまでノンビリ過ごすことにしたのだ。

 もうアルジェントビルにもアルティフェクスにも用事は無いので、町に近づくつもりは無かったし。


「まずは、イルダさんから預かったお師匠様も研究ノートの解読ね」


 フロリアは久しぶりにシルフィードを呼び出すと、長らく放って置かれたとへそを曲げていたので、一生懸命なだめることから始める。

 そうしたフロリアに興味なさげにトパーズは定位置の寝床にゴロリと横になると、静かに寝始める。


 イルダから預かった、アシュレイの手提げの小箱には数冊のノートが入っていた。いずれも精霊文字で書かれていて、フロリアには読めない。

 しかしシルフィードならば普通に読むことができるので、頼んで読んでもらうのだ。

 ノートはずいぶんと古びているが、精霊が書いた文字はにじみもかすれもない。


 数冊のノートの内、ゴーレムの研究ノートの方は描かれた簡易な設計図などから予測したように、フロリアにとってはアシュレイと共にリキシくんやトッシン、ケンタを作った時にすでに師匠から教わったり、2人で実現したアイディアであったりと、特に目新しい内容では無かった。


 ポーション研究のノートについても、ほぼフロリアが知っている内容であったが、一部、ヴェスターランドのあたりでは見かけない薬草の記述があった。その薬草を乾燥させて押し花にしてあるページもあった。

 フロリアはドライアドを呼び出して、そのページを見せると「この草ならアルジェントビルの近くの山の中の岩場に生えている」と教えてくれた。

 効能が記述通りなら、ポーションの効き目自体はそれほど向上しないが、ポーションの有効期限がずいぶんと伸びるようである。


「これは忘れずに、採取しなきゃ」


 心にメモするのであった。


 そして、不思議な遺跡の研究ノート。


 読み進めていくと、神聖帝国暦1079年に偶然、アルジェントビルの近くのモリア村の近郊に古代の遺跡が発見され、その遺跡を探索し研究したものだとわかった。


「ええと、ヴァルターラント暦にする時には550を引くから、529年か。私が生まれるずっと前だ。その翌年の8月にはお師匠様はアルティフェクスを出て、亡命した筈だから……」


 その遺跡はモリア村の猟師が岩うさぎを追っていて偶然発見したものだそうで、報告を受けたアルジェントビルの代官が聖都から研究者を招いて、調査隊を結成。数ヶ月に渡り調べたが、めぼしい成果が無く、空っぽの遺跡だということでそのまま放置されたのだそうだ。

 現代日本の常識なら、遺跡なら発掘品などは無くても、遺跡そのものの様子から古い時代の研究ができそうなのに、と思ってしまう。

 しかし、アリステア神聖帝国にかぎらず、この世界では別に古代文明人の生活や思想に興味などない。遺跡の値打ちは、現代よりもはるかに優れた魔道具や魔法の知識の知見が見つかるか否かにあるのだ。

 そして、このモリア村近郊の遺跡(単純にモリア遺跡と名付けられた)は、何も出てこなったので、何の値打ちもないと判断され、放擲されたのだった。


 その翌年、アシュレイ(サンドル)は、モリア村の近郊の岩場で薬草採取をしていて、乱雑に掘り返されたまま放置された遺跡に行きつき、たまたま雨が降ってきたので雨宿りのつもりで遺跡の中に入ったのだった。


 その頃のアシュレイは、ゴーレム製造とポーション製造で休み無くこき使われていたのだったが、時折りのポーションの素材採取の時がイルダ工房を訪れる時と並んで、一息つけるチャンスであったのだ。

 エンセオジェンの効力を過信していたコッポラ親方は、アシュレイに見張りをつけることもしなかったのだ。


 モリア村のあたりは野盗も魔物も、大型の野生動物も出ないので、危険度が少ないということもあったが、それよりもアシュレイの攻撃魔法の威力がかなりのものだったということも大きな理由になっている。

 錬金術師、特に職人仕事に特性があると思われていたアシュレイだが、実は薬師系統のポーション製造にも大きな能力があり、そして攻撃魔法も使えたのだ。それに気がついたコッポラ親方は、これは教会や工房のスポンサーのマルケス伯爵に知られるとアシュレイを奪われると考えたのだった。


「今のところは、ゴーレム製造に便利だから、俺のところにサンドルを置いてあるが、他にも色々と使えるとなったら、伯爵が黙っているとは思えねえ。薬師の才能はバレちまったが、攻撃魔法は隠しとかなけりゃ。特にこれから戦争をやるって時にはな」


 それならば、信頼のできる腹心の部下を護衛につければ良さそうなものだが、コッポラ親方にはそうした部下はいなかった。それに、その頃のアシュレイはますます色っぽさに磨きが掛かってきた感じで、男の護衛をつけるなど、コッポラの独占欲が許さなかったのだ。

 エンセオジェンを使うにしても、工房の魔法使い達はいずれも職人系統で攻撃魔法の使い手はアシュレイだけで護衛には使えないし、非魔法使いにエンセオジェンを使ったが最後、朦朧としているだけでやはり戦闘などできなくなる。


「仕方ねえ。いっそ、1人で行かせるしかねえな。エンセオジェンを多めに服用させれば大丈夫だろうて」


 コッポラは、外で他の男に話しかけられても応対するな、まっすぐ目的地に行って、まっすぐ帰ってこいと厳命してアシュレイを送り出すようになったのだった。


 ――そうした憶測もアシュレイのノートには記されていて、だからこそ、このモリア山の単独行を少しでも多く行う為に、この山の薬草の効能を大げさに言ったりしたとも書かれていた。


 そして、その日。

 急なにわか雨を避けて、遺跡に入って時間を潰していたアシュレイは、不思議な予感に誘われて、遺跡の奥に進んで行ったのだった。

 

 イルダからこの遺跡の噂話は聞いていた。かなりの規模の調査隊が調べ、遺跡の中を数キロにも亘って掘り返したそうだが、結局何も見つからなかった。


「こんな風に入口も塞がずに数キロのトンネルを残したまま放置するなんて……。今は良くても、いずれは良くないものが住み着くかも知れないのに」


 フロリア同様に転生人であるアシュレイは、この世界の人々の荒っぽくて大雑把なやり方にげんなりしながらも、今回に限ってはその御蔭で簡単に遺跡の中に入れるのだと考えていた。


「この辺かしら」


 予感が導いた先は、元からトンネルがあった部分で、壁はよほど腕利きの土魔法使いが作ったのであろう、平滑な壁が続いていた。


 如何にも何かがありそうなトンネルで、調査隊もそう思ったらしく、その壁に何箇所もナンバーを振って、何箇所かは擦ったような傷もついている。ただ、調査隊にできたのは表面に傷をつけることだけで、砕くこともできないし、どうやって作ったのかも分からなかったのだろう。柄の折れたツルハシが1本、トンネルの床に放置されていた。


 アシュレイは、その壁に掌を触れさせながら、ずっと歩き続け、そして強い予感がこの場所だと囁く一点に着いた。


 壁の他の部分との違いは見当たらない。しかし、この奥に何かがある。


 アシュレイはそれまでの人生で一度も感じたことがないほどの強い確信に心が震える思いであった。元々、アシュレイには予知や予感といった時間魔法系統には素質があったのだが、魔法が発現したごく初期の段階でエンセオジェンを使われたため、それまで損なわれていた能力が、この時に開花したのだった。


 古代遺跡の遺物の発見と共に、自分の新しい能力の発現に、アシュレイは大きな興奮を覚えながら、どうやって奥に行けるのか考えた。

 しかし、その時のアシュレイの立場では、調査隊の報告を読むことはもちろん、そもそも調査隊が活動したという事実すら、イルダに聞くまで知らなかった程。


 何のアイディアも思い浮かばずに、もう一度、なんともなしに掌を壁につけると、「認証しました」という声が頭の中に流れ込んできて、何の取っ掛かりも無い平滑な壁がゴトリという音を立てて、数センチぐらい奥に引っ込み、2つに割れた。

 

「え、何で」


 正直なところ、怯えすら感じたアシュレイだが、さほど悩むこともなく、その奥に足を踏み入れた。

 あまり危険かもしれない、という警戒心は無かった。それよりも、自分の心の中の不思議な予感を信じていたのだ。

 それにアシュレイは、これまでの酷い人生に打ちのめされることが多かったために、ここで終わりになるのならなるで、別に構わない、という厭世的な気分も少なからずあったのだ。


 ――ここまで、食い入るように研究ノート(というか、忘備録のような内容であったが)をシルフィードと共に読み耽ってきたフロリアは、一旦ノートを閉じて、ふうっと大きく深呼吸をしたのだった。


とても興味深い内容。


「で、モリア村ってどこ?」

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