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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第93話 フロリアを追う者たち

 ヴェスターランド王国の暗部の"根付き"である緑亭のカルロの報告が、やっと"渡り"のジャンとデリダの元に届いたのは、5月の8日になってからで、ゴーレム暴走事故が起きてから4日後のことであった。

 聖都ホーリーアリストに居た彼らは、すぐにアルティフェクスに急行することになる。フロリア達がノンビリと数ヶ月も掛けて辿った道筋を数日で踏破することになった。

 5月11日。


「……た、たどり着いた」


「……本気で死ぬかと思ったわ」

 

 よれよれになった2人が緑亭の入り口のドアを開けると、そのまま一階の食堂兼飲み屋の椅子に座り込んで立てなくなってしまった。

 それを呆れたように見ていたカルロに促されて、ようやく投宿の手続きをした。


 そのジャンの耳元でカルロは「着いたからって任務は終わりじゃねえぞ。これから仕事何だぞ」と囁いて、ジャンは泣きそうな顔になった……。


***


"暗部"のジャンとデリダが到着する数日前に、フロリアを追う別の勢力が動き出していた。

 パレルモ工房のケツモチをしている、マルケス伯爵の私兵団が久しぶりにアルティフェクスに着いた。アリステア神聖帝国軍では正規軍は、すべて教皇皇帝直属の神聖騎士団と、その配下の兵団しか居ない。他の国のように領地貴族が編成する領軍は無かったのである。

 しかし、大貴族はさすがにそれでは不便であるということで、貴族家の警護や、町中の治安維持などという名目で事実上の私兵を抱えていた。マルケス伯爵の私兵団は、そうした私兵の中ではかなり大規模で、数百人規模。マルケス伯爵が手配した攻撃魔法使いを擁する本格的なものであった。


 リベリオ団長は如何にもな傭兵のボスといった雰囲気の人間で、マルケス家ではその粗雑さが嫌われていたが、どこ吹く風といった様子であった。

 今回は部下30名ほどを引き連れて、マルケス伯爵の名代としてアルティフェクスを訪れたのだった。公式の席に出られるような人間ではないが、伯爵の庇護の下にあるパレルモ工房にハッパを掛けるにはちょうど良い人材であった。

 パレルモ工房のゴーレムが事故を起こしたという急報を受けて、伯爵はすぐにリベリオ団長を派遣したのだ。幸いにも命に別状は無かったが、たまたまアルジェントビルを訪れていた大物貴族の令嬢が怪我をしたというのも気がかりなところである。


 アルティフェクスに着いた一行は、安宿に投宿させ、数名の配下を引き連れて、前連絡もなしにいきなりパレルモ工房を訪ねる。

 慌てるドン・パレルモを吊るし上げるように、リベリオ団長は事情聴取していく。ゴーレム製造に関しては素人のリベリオ団長だが、パレルモ工房のゴーレムの品質低下の原因が、主だった職人にエンセオジェンを使っているからである……その程度のことは分かっていた。

 あんな半分寝ているような、薄ぼんやりした連中に難しいゴーレム製造なんか出来る訳ねえよ、という訳である。


 その工房を視察していたリベリオ団長は「そういやあ、あんたの倅はどうしたんだ? ツラを出さねえけど」とドンに尋ねる。

 最近、病気がちなので休ませている、という答えが帰ってきたが、その時のドンの様子に違和感を感じたリベリオ団長は無理やりにロドリゴを連れてこさせることにした。

 リベリオ団長は粗野で傲慢な男であったが、大勢の荒くれ者を束ねているだけあって、決して鈍感では無かったので、敏感にドンの隠し事を見破ったのだ。


 渋るドンを怒鳴りつけて、ようやくロドリゴを引きずり出したリベリオ団長は、その様子に失笑していた。この倅に跡を継がせるのか、娘婿に工房を譲るのかはリベリオ団長の関知する処ではなかったが、大勢の神隷たちを薬漬けにしてまでお膳立てをしていたのに、その肝心の倅が薬で半ボケになっているではないか。


「まあいい。ちょいとこいつを尋問させてもらうぞ」


「待ってくれ。やっと薬が抜けてきたんだ。無茶をしないでくれ」


「薬が抜けてこれじゃ、もうこいつは廃人だろ。諦めるんだな」


 ドンの懇願を歯牙にもかけないで、ドン達は工房の一室を占領して、ロドリゴを尋問した。特に脅したり、凄んだりしなくとも、ロドリゴは聞かれたことに全てそのまま答えた。


「こりゃあ、大当たりだな」


 その答えを聞いたリベリオ団長は興奮を抑えられなかった。


 昨年、スタンピードに襲われたビルネンベルクの神父から、聖都の教会に報告が上がっていた。驚異的な性能のゴーレム軍団と、それを駆使する、銀髪のまだあどけない少女。 その報告は、教会の幹部でもあるマルケス伯爵のもとにも届けられており、伯爵からリベリオ団長にも伝えられていた。


「ピッタリ特徴が一致するじゃねえか。そして、超絶性能のゴーレムか」


 この娘をとっ捕まえて、伯爵に差し出せば大金になるのは間違いない。

 いや、ここは1つ思い切って直接、教会に差し出して手柄を立てれば、自分自身が叙爵されるかも知れない。


「お貴族様になるのも悪かねえなあ」


 リベリオ団長は歯をむき出して笑った。


***


「なあ、ペッピーノ。俺たちの生業ってのは、決して他人様に褒められるようなもんじゃねえ。それだけに、仲間ってのは大事にしなきゃいけねえ。俺たちは皆で助け合って、生きていくものだ。

 そうは思わねえか? 思うだろ。

 だったら、美味しい儲け話ってものが転がっていたら、それは俺たち皆で分け合うのが筋ってもんだ。

 てめえ1人で抱え込んで、仲間にははした金で済まそうなんてのは、悪党の風上にもおけねえよな。

 そうは思わないか。え、ペッピーノ?」


 デブのオラツィオは、殴られて顔がでこぼこになったペッピーノを手下に引きずってこさせると、そう言いながら頭から水を掛けた。


「さあ、大人しく知ってることを全部話せよ」


「親分。もう話してますよ。あとは知っていることなんかありません」


「本当だろうな。お前もまだ死ぬにゃあ、ちょいと早いんじゃねえのか?」


「本当です。信じて下さい」


 涙声で訴えるペッピーノに、「まあ、こいつに一か八か、金儲けにてめえの命、賭けるような器量はねえかな」とオラツィオは独りごちると、部下にペッピーノを座敷牢に放り込んでおけ、と命じる。

 本来なら足抜けをしようとした娼婦などを閉じ込めるための部屋である。


 ペッピーノは、町の何でも屋で、暇があれば、オラツィオの娼館で雑用をしたり、幇間の真似事をして小遣い稼ぎをしている、というだけで、別にオラツィオの乾分では無いのだが、オラツィオはそんなことを気にしていなかった。

 当然のようにペッピーノが隠し持っていた分不相応の大金も取り上げている。


「とりあえずは、ジュリアーニ商会のフアン・デニーロに知らせてやるか。だが、世界一の筈のパレルモ工房のゴーレムを遥かに超えるゴーレムか。そんなのを手に入れたら、俺もこの町の顔役からお貴族様にでも成り上がるか、工房主になって、そこいらの錬金術師を集めてきて、パレルモ工房を超えるか……。

 いや、どっかの金持ちか貴族に売った方が良いかな。俺に、そんなもん、うまく扱えるとは思えねえしな。

 その娘は取り上げるもんを全部取り上げたら、この娼館で働かせてやれば良いか。まだ子どもだって言うんなら、けっこう長く稼げそうだし、本人も神隷にされるよりはなんぼかマシだろうぜ。

 ま、どちらにしても長生きは出来ねえ運命だがな」


 オラツィオは、自分の手下の中で、信頼しているマルコを呼び出した。


「おい、若え奴らを集めて、そのフロリアとか言う娘を探し出せ。巡礼者の格好をしてるってことだから、そういった奴らがタムロしているところを探せば見つかるはずだ」


「へい」


 マルコは、見た目はひどく痩せた顔色の悪い男で、不吉な感じがする。似合わないのに、襟元が大きく開いたシャツを着ている。


「探しだしたら、掻っ攫って、連れてこい。ともかくびっくりするほど高く売れるネタを抱えたメスガキだから、逃がすんじゃねえぞ。死ななけりゃあ、多少、荒っぽい手を使っても構わねえ。なあに、どうせ巡礼者だ。衛士の連中も本気にはならねえから大丈夫だ」


 こうして、フロリアの跡を追って、複数の勢力が蠢き始めるのだが、肝心のフロリアはイルダ工房を辞した翌朝一番で、町を出てしまっていた。


これでこの章は終わりです。

次は、アシュレイ師匠のやり残した仕事を引き継ぎます。

鉱山都市・工房都市から、舞台をとある山の中に移して、冒険が続きます。

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