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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第88話 蠢動

 フロリアとトパーズ(アシュレイに変化している)がパレルモ工房を出て、通りの角を曲がったぐらいのところで、ペッピーノが待ち受けていた。


「無事に出てこらるとはねえ。念のために待ってた甲斐があったってものだ。って、その隣に居るのは誰だい、お嬢ちゃん」


「知り合いですよ。工房で会ったんです」


「へえ。ま、良いや。せっかくだからもうちょっと付き合って貰うよ。あんたに会いたいってお人がまだ居るんですがね」


「私はもうあなたにも、あなたの知り合いにも用事は無いですよ。私をネタにあのロドリゴという人からずいぶんとお金を貰ったみたいだし、それで満足して下さい」


「そうはいかねえなあ。何なら、あんたが魔法使いだって、大声で触れて回っても良いんだぜ、こっちは」


「その時はお前を引き裂いてやる」


 トパーズがペッピーノに遠慮なく威圧を掛ける。


「ひ、ひいぃ」


 情けない声を上げて、ペッピーノが腰を抜かすのであった。

 そして、立ち去っていくフロリアとトパーズに何も出来なかった……。


***


 ロドリゴの症状を見たドン・パレルモは、見慣れているだけに、エンセオジェンの症状だということにすぐに気づいた。


「バカが。魔法使いならともかく、こいつのような非魔法使いがエンセオジェンを飲めば、影響が段違いに大きいのだぞ」


 ドンは、ロドリゴが給仕代わりにこき使っている見習いの少年(見習いなのに、ロドリゴが給仕にしているため、肝心のゴーレム作成まわりの仕事を覚える時間が無いことを不満に覚えていた)を呼び出して、自分の不在中のことを尋問すると、少年はあっさりとロドリゴのお客にエンセオジェンの入った飲み物を出すように言われて、そうした、と証言した。


 そのお客は、12歳ぐらいで、幼さを残していながらとても美しい顔立ちの少女で、中年男と一緒に工房を訪ねて来たということであった。

 男は、ロドリゴが以前にアルジェントビルの娼館で酔い潰れたり、流連けて支払いが足りなくなったりした時に、少年がその娼館に行ったことがあるのだが、その時に何度か見かけた男なのだと言う。

 男は途中で帰って行ったのだが、1人でロドリゴの自室に残った少女に何も知らせずにエンセオジェンの入った飲み物を出せ、と命じられ、そのようにしたのだという。

 それから先は、少年は呼び出されるまで近寄るな、と命じられ、どうなっているのか知らなかった。


「娼館に出入りしているような男だと! そんな輩をこの工房内に入れたのか! もう良い! お前は誰かにこのことを聞かれても、何も言うな。

 ロドリゴがどうしたのかと聞かれたら、急病でしばらく郊外に療養に出ていると言え」


 ドンはそう命じて、尋問を切り上げ、少年を下がらせたのだった。

 少年は別に隠していた訳ではなかったので、もう少し尋問を続ければ、彼らが工房内を見学して回っていた、という情報を得ることが出来たであろう。

 しかし、ここまでに聞いた話から、"ロドリゴが馴染みの女衒から年端も行かぬ少女を買って、エンセオジェンを飲ませてからイタズラをしようとして、少女に逆襲された"というストーリーを組み立ててしまい、それ以上の追求の必要性を感じなかったのだ。


「あのバカ者が。女なら娼館通いで満足していれば良いものを……」


 以前にもロドリゴは、職人として入った若い女性に暴行して自殺未遂事件などを起こしていた。それで、工房内ではそうした行為は厳禁していたのだが……。


「やはり、あれは駄目だな。たとえ、エンセオジェンの後遺症から回復することがあっても、とても儂の跡を継がせられぬ。

 唯でさえ、ゴーレムの品質が落ちて、つい数日前には大きな事故を足元の鉱山で起こしたばかりだというのに」


 かと言って、娘婿のラウロもドンのお眼鏡に叶ったとは言い難く、ドンは後継者問題に頭を悩ますのであった。


***


 ヴェスターランド王国のクラウス工房から、アルジェントビルのジュリアーニ商会に出向しているオズヴァルドはイライラとしながら、何度も使いをデブのオラツィオの娼館に出していた。

 その娼館を根城にしているペッピーノに連絡を取りたかったのだ。


 先日のゴーレム暴走事故。

 ゴーレムの品質低下、ゴーレム使いのスキルの低下も問題だが、もっとセンセーショナルなのは、謎のゴーレムである。

 おそらくは、ゴーレムがいきなり出現したり消失したりするのは、収納スキルによるものだろう。ほとんどの収納持ちは自分の手の届く範囲のものを出し入れするのだが、中には自分から距離のある場所に出し入れ出来る魔法使いも居るのだという。

 そして、そうした性能のある収納スキルはほとんど例外なく、収納量も優れていて、大きなものを扱うことも出来る。


 このアリステア神聖帝国では魔法使いは教皇皇帝のものなので、魔法使い(神隷)は幼いうちに教会に連れ去られてしまい、市民は唯でさえ数が少ない魔法使いをほとんど見ることが無い。

 アルジェントビルやアルティフェクスの市民は、さすがに錬金術師と呼ばれる魔法使いが大勢居るので、他の町に比べると、魔法使いを見知っては居るが、錬金術師の必要スキルに収納スキルは含まれていないので、ピンと来ないのだろう。

 今回の事件に、収納スキルという答えを見出している者は少なかった。


 オズヴァルドは、それでもヴェスターランド王国出身だけにすぐに気が付き、さらにその収納スキル持ちで超絶ゴーレムを扱えるゴーレム使いというのが、ヴァルターブルクのクラウス工房の召喚術師・ランベルトの依頼にあった少女かも知れない、と推測していた。


「親方にも内緒で、特に捜索依頼をだしてくるのだから、よほどの大物かと思っていたが、これは予想以上だな。現在、ゴンドワナ大陸で最高のパレルモ工房のゴーレムをはるかに超えるゴーレムを扱えて、高性能の収納持ちか。

 この小娘ひとりで大軍を翻弄出来るぞ。

 そして、そのゴーレムをどこで入手したのか、だ。まさか、小娘が自分で作ったとも思えない。伝説の転生人だって、それほど多くのスキルを持ってなどは居ないだろう。

 どこかに超古代文明の遺物じゃなければありえないようなゴーレムを作る工房があって、小娘がそれを知っているのは間違いない。

 小娘を捻り上げて、その工房の在り処を吐かせれば、巨万の富が転がり込んでくるぞ」

 それで、町に詳しく、以前にフロリアの捜索を頼んであったペッピーノにつなぎを取ろうとしたのだが、こんな時に限って、行方知れずになっている。


「あの男も抜け目が無い。ひょっとして、ゼニの匂いを嗅ぎつけて、勝手にフロリアを追っているんじゃなかろうな」


 そして、数度目の使いが、ようやくペッピーノが娼館に戻ってきたという報告を持って帰ってきた。


「だけど、なんかかなり疲れているみたいで、落ち着いたら連絡を取るので待ってくれ、ということでした」


 使いの報告を受けて、思わず怒声を上げたオズヴァルドに、ジュリアーニ商会の番頭の1人、フアン・デニーロが眉をひそめる。


「ちょっとオズヴァルドさん。店先で騒ぎを起こして貰っちゃ困るんですがね。ペッピーノと言う名前が聞こえてきましたけど、それはオラツィオの娼館で飼っている何でも屋のペッピーノのことですか? この店はまともな貿易商会なんですよ。

 そんな男を一度でもお店に出入りさせたら、本国に連絡してあなたを処分して貰いますよ。分かっていますね」


「わ、分かっている。大丈夫だ」


 オズヴァルドは、ペッピーノが戻っているのであれば、オラツィオの娼館に出向くことに決めたのだった。


 オズヴァルドが立ち去った後、フアン・デニーロは自分の手の者を呼んで、「オラツィオさんに連絡してくださいな。ウチに客分でいるオズヴァルドというのがそちらに伺って、ペッピーノにつなぎを取るはずですが、その話の内容が知りたいのです、と伝えて下さい」


 ジュリアーニ商会は、表向きは真面目な魔法金属を取り扱う貿易商会の顔をしているが、裏ではあまり他人には知られたくはない仕事もしていて、そうした汚れ役がフアンの役割りなのであった。

 アルジェントビルの裏の顔役、デブのオラツィオとは幾度も組んで裏の仕事を片付けていた、いわば仲間であったのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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