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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第81話 余計なお世話

まだ稼働出来るゴーレムが数体、家屋に突っ込んだゴーレムの周りにようやく集まると、突き出ている脚部を掴んで引っ張り出そうとする。

 荒っぽい限りだ。まずは少しずつ瓦礫を取り除くべきじゃないのか、とフロリア以外の見物人たちも囁く。


「あの監督は、聖都の教会の幹部の倅だ。この前、急に赴任してきたんだ」


「それじゃあ、鉱山の採掘のことなんか判らないだろうに」


「ああ、今だってあんな乱暴なことをして、ますまず崩れるだけだ」


 小太りの男も泡を食ったように、作業監督に「今すぐ無理にゴーレムをひっぱり出すのを止めさせろ。もっと崩れたらどうするのだ。瓦礫を1つづつ取り除け」と怒鳴っている。


 さすがに鉱山都市の住人らしく、こうした時に無理をすればもっと悪いことになるということぐらいは判っているのだ。それでようやく、ゴーレムによって崩れ落ちたレンガの固まりや屋根材などを上から撤去していく作業に移る。

 崩れた建物の周りに数機のゴーレムが散って、各々瓦礫を取り除こうとし始める。


 ところが、そのゴーレムが不器用なこと。

 小さな瓦礫は手からこぼれ落ちて、うまく持ち上げることができない。かと言って大きな瓦礫は重すぎて持ち上がらない。

 しかも、足場が悪いためか、グラグラしていて危なっかしい。


「ありゃあ、駄目だな。まだ人間がやったほうが良さそうだ」


 周囲の見物人もそんなことを論評している。

 小太りの男もやっぱり同意見らしく「おい! 人夫に代わらせろ!」と作業監督を怒鳴りつけている。

 作業監督は教会の幹部の倅だそうだが、こうして怒鳴られているところを見ると、そんなに偉い幹部の倅では無さそうである。


 これでやっと建物の瓦礫の下敷きになっている子どもと黄色いドレスのお嬢様が助かるのかと思いきや、今度は撤去作業をしているゴーレムの内の1台が足場が悪いのに無理したのがいけなかったのか、轟音をたてて倒れてしまった。

 その衝撃で、下の瓦礫もまたかなり崩れる。


「ぎゃあ、痛てええよお」


 轟音の中でも瓦礫の下で泣く子どもの声がフロリアの探知魔法で聞き取れた。


「トパーズ、これは駄目みたいね」


「なんだ、結局手を出すのか」


 影の中にいたトパーズが呆れたような声をあげる。


「うん。仕方ないでしょ。それにしても、あれがお師匠様のゴーレムの成れの果てだなんて……」


 お師匠様が見たら、何と言うだろうか、とフロリアは思った。

 

 フロリアは現場を囲むようにしている人垣から離れ、他の者がいない場所を探す。フロリアの収納スキルは唯一無二と言っても良いもので、亜空間を別にしても、普段の収納であっても20メートル程度なら離れた場所に物品の出し入れが出来るのだ。

 だから自分がゴーレムを出しても、周囲の人が見ても判らないように動かせば大丈夫なはずだ。

 とは言え、やはり神経を他で集中している時に周りに他人が居るのは避けたい。

 魔法の感覚を持った人間ならば、フロリアが魔力を放射しているのを気取られる可能性もあるのだ。


 しかし、町のシンボルとも言える鉱山の入り口からゴーレム置き場への通りは、やはり人通りが多くて、目的にあった場所が見つからない。

 ゴーレムの操作自体は多少離れても問題ないが、視認出来ないと細かい作業が不安である。ビルネンベルクの大門の外で戦った時にはルーチン通りにローラーダッシュし、敵をを叩き潰すだけの簡単な動作で良かったので、半自動でも問題は無かったのだが……。


「うん。ここで良い、ということにしよう」


 フロリアが見つけ出したのは、倒壊した建物から見ると、通りの向かい側に並ぶ建物の1つ。

 その建物はかなり大きな庇が通りに向かって突き出ていて、その庇を支える支柱の下の部分が四角い台座になっている。その台座の上に乗ると、事故現場が良く見える。向かい側の人々からはフロリアの姿は丸見えなのだが、この台座は建物の壁に接しているので、後ろからはフロリアを見ることは出来ない。

 周囲の人々はその気になれば、フロリアを視認することは出来る――というか、一段高いところに居るので、より見えやすい――のだが、みんな事故現場の方に注目しているから大丈夫であろう。


 フロリアは、前方20メートルギリギリにゴーレムのリキシくん1号を出す。

 もちろん、その前に風魔法で、そのあたりにいた人々を無理やり押し寄せてスペースを作っている。


「なんだ?!」


「いきなり、ゴーレムが出たぞ!」


「魔法か?」


「見たことが無いゴーレムだな」


 周囲の人々が大騒ぎを起こしている。

 リキシくんは一歩一歩、ゆっくりと事故現場に近づいていく。言葉で事情説明する訳にはいかないので、場合によっては力ずくで他のゴーレムを排除するつもりであったが、他のゴーレムも作業員たちも、そして周囲の野次馬もさっと道を開ける。


「これ、鉱山のゴーレムなのか?」


「見たことねえぞ」


「めちゃくちゃ強そうだな」


 小太りの男が作業監督に、「お前が呼んだのか?」と尋ねているが、作業監督はどうもはっきりした返答が出来ない。

 彼は、聖都でトラブルを起こして、ほとぼりが冷めるまで、この鉱山都市で大人しくしていろ、と親に命じられてやってきたという人物で、元々鉱山のことなど興味など無いし、この機会に勉強しようという気もなかった。

 なので、どんな型のゴーレムを使っているのか、よく知りもしなかったのだ。そもそも監督とは言っても、目立つ朝夕の行進には出てきても、昼間の採掘作業などは任せっきりで、どんなゴーレムがどんな作業しているのかも良く知らなかったのだ。

 だから、小太りの男の質問にも答えられなかったのだ。せめて、もう少し鉱山を見ていたら、リキシくんの背丈では鉱山の穴に入れないし、そもそもこんなにキレイではなく、もっと泥で汚れている筈だと判断できたのだが。


 現場監督が適切な指示を出せない為に、部下たちは迂闊に動くことも出来ず、大人しくリキシくんに道を開けるので、フロリアとしては操作がしやすかった。

 まずはバランスを崩して、崩れた建物の上に倒れて起き上がれないゴーレムを掴むと、あっさりと持ち上げて、地面に下ろす。

 採掘用のゴーレムはだいたい体高が3メートルほどなので、5メートルのリキシくんと比べると、大人と子どもの体格差である。それでも、大型のオーク程度はある巨体をものともしない。

 

 更に、瓦礫の中で大きなモノのうち、上から持ち上げられるような落ち方をしているものを次々に撤去していく。

 他の瓦礫と重なりあっているようなモノは無理に持ち上げるとバランスが崩れて、下の子どもを潰してしまう可能性があるので慎重に。

 フロリアはゴーレムの操作と平行して、瓦礫が崩れないように魔力で支える。

 魔力を念力サイコキネシスのように使った魔法で、不思議なことに、この世界の他の魔法使いはこうした魔力の使い方をしない。

 前世で幼い頃から兄や父の影響でよくバトルアニメを見させられていたのが、頭の片隅に残っていて、こうした使い方を思いついたのである。

 操剣魔法を使える魔法使いならば、きっと発想さえあれば普通に念力も使えるであろうが。


 リキシくんの剛力で、建物の瓦礫はどんどん撤去されていき、最初に頭から建物に突っ込んで壁や柱を崩した挙げ句に前につんのめった形のまま停止したゴーレムもあっさりと腰を掴んで持ち上げ、地面に下ろす。


「こんだけ、バラけりゃあ、後は大丈夫だ」


 最初から建物の崩れた下を心配していた作業員が、そう言うと仲間を促して、一緒に残りの瓦礫を取り除け始める。「坊主、もう大丈夫だ」と声を掛けると、子どもの元気そうな返答が返ってきている。


 こうなると、リキシくんの出番は終わりだ。うっかりその巨大な腕で作業員にふれると、大怪我をさせてしまう。

 リキシくんはゆっくりと後ずさりで5メートルほど下がると、向きを変えて、最初に来た時点まで戻り、かき消すように消えたのだった。

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