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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第77話 旅の再開

 フロリアとトパーズは、深い森を出ると街道に戻り町への道を歩んでいった。

 

 モンブランは、とりあえずは森に居てもらえばよかろう、これからはいつでも呼び出せるのだから、というトパーズの意見で、連れていかないことにした。


「ホウ」


 寂しそうに鳴くモンブランに、「いつでも会えるから。呼んだら来てね」と声を掛ける。

 そのシロフクロウの右足にはフロリアが魔力を込めて作ったミスリルの足輪がはめられている。フロリアとの絆の証で、ある程度の距離まではの意思疎通が出来るのはもちろん、収納スキルが付与された魔道具でもある。

 聖獣だけあって、スキルの使い方はあっさり覚えたので、「これで、餌が少ない時期でも困らなくて済むね」とフロリアが声をかけると、モンブランは「ホウ」と応えたのだった。聖獣は本質的に餌が不要なのを忘れているフロリアだった。


 街道は別に除雪をするわけではないが、春の訪れと共に交易隊が行き交うようになるので、自然と雪は無くなっている。

 ただ、相当に道は泥濘んでいて、フロリアの足ではまともに歩けないほどである。

 そこで、久々にケンタウロス型ゴーレムのケンタを出して、騎乗して進むことにする。

 ケンタの足でも泥濘には苦戦はするのだが、フロリアが歩くよりはずっと速度が稼げる。ただし、ゴーレムを動かしていると、最低でも魔力持ち、魔法使いの可能性があるということが周囲に知られてしまう。

 なので、探知魔法もしっかりと掛け、なおかつ前方をシルフィード、後方をニャン丸に見張ってもらっている。この体制なら交易隊が近づけば判るので、目視される前に亜空間に隠れてやり過ごすことにしたのだ。

 

 最初はケンタを仕舞って、フロリアだけで歩いていたのだが、ある交易隊の商人がこんなところで1人で居るフロリアに興味を持ったようで、親切で言っているのかも知れないが、かなりしつこく一緒に馬車で行こうと誘われたのだった。

 

「こいつはやめとけ」


とトパーズが影から囁く。


「うん、凄く嫌な気配がするものね」


 最後には、護衛の人間が馬車から降りてきて無理やりフロリアを捕まえようとするので、街道を逸れて、手近な森に逃げなければならなかった。目立たない程度に土魔法を掛けて、追跡者達が泥濘に足を取られて走れないようにして振り切ったが、魔法使いだとバレたかも知れないな、と後で思った。


 この出来事が原因で、次からはフロリア自身も姿を隠すことにしたのだ。


 そのために余計な時間は掛かったものの、ケンタの速度を考えれば、徒歩移動よりはかなり早く、次の町に着いた。

 何度も練習した通りにトパーズが顔に怪我をした猟師、フロリアがその娘という巡礼の父娘に扮して、町に入る。

 懸案のトパーズの鑑定水晶も無事に通過出来て、入城税を払って、大っぴらに町に入れた。


 そして、大門近くの買い取り屋で、肩から提げた小動物や鳥の獲物を出す。


「ああ、冬の間は獲物が少なかったからな。こりゃあ助かるよ。よく肥えているし、手際も良い」


 顔の半分を布で多い、目深にフードをかぶったトパーズにも、買い取り屋は別に不審がることもなく、対応していた。やはり巡礼ルート上の町では、こうして怪我をした巡礼者は珍しくも無いのだろう。


 代金で残り少なくなっていた小麦粉の補充をする。

 亜空間での家庭菜園はイモ類の栽培に成功して、ほぼ一年中じゃがいもが穫れるようになったので、これからは買うことは無さそうである。他にも、葉物野菜や根菜類も種類は少ないが穫れる。葉物野菜はこの時期は市場では見かけないぐらいだから、亜空間を持つフロリアの食生活はかなり豊かになってきている。

 あとは米が恋しいが、この寒い地方ではまずお目にかかれない。


 と、フロリアは歩を止めて、フードを目深にかぶり直す。


「トパーズ。街道で絡んできた人たちが居る」


 何日も前に、フロリアを捕まえようとした商人の指揮する交易隊を護衛していた連中である。この国には基本、冒険者は居ないので交易隊を護衛する職業が無いということになる。教会の主張では、神聖なるアリステア様のお膝元に野盗・盗賊の類がいるはずもなく、魔物は帝国の騎士隊が討伐しているので、護衛など不要である、という理屈である。

 なので、結局は各商人が自前で用心棒を雇ったりしているそうなのだが(巡礼で少し親しくなったおばさんから教えてもらった)、なまじ組織化され管理された冒険者ではないだけに、彼ら用心棒はまともな人間が少ない。それでも真面目な商人が雇うのならともかく、雇い主自体がアレな商人であった場合は……。おばさんからは、「あんたみたいな可愛い娘は絶対に近づいちゃだめだよ」と釘を刺されたものだ。


 この交易隊の護衛達も同じ方向を歩んでいたので、別に町で見かけても不思議は無いのだけれど、ひと目の多いところで目を付けられて騒動になると面倒である。


 だが、フロリアは身は隠すものの、逃げようとはしない。


「どうした? 必要なものはもう買えたのだろう?」


「うん。でも、あの人たち、ちょっと悪いこと考えているみたい」


「へんなちょっかいは辞めておけ」


「少しだけだよ」


 フロリアは物陰でニャン丸を召喚すると、この男たちを尾行せよと命じ、それからやっと町を出るのだった。


 ただし、すぐに町を離れるのではなく、夜まで待ってから、大門の近くに戻る。程なくニャン丸が城壁を乗り越えてやってくる。


「にゃ、にゃ。ご主人さま。尾行したにゃ」


「それで、あの人たちはどこに行ったの」


 ニャン丸の報告によると、しばらく市場を冷やかしていたが、どこかの商会の裏手から店に入って、商会主らしき男から金を貰って、今度は飲みに行く者、風俗に行く者、店の奥で眠る者などに分かれたという。

 その時に「別に外に女を買いに行かなくたって、さらってきたのが居るだろうよ」という会話をニャン丸は聞き取っていて、フロリアの眼が本気の色を帯びる。

 やはり、彼らから感じた嫌な気配は本物のようであった。


 それで、フロリアは城壁を魔法で乗り越え、その商会へ忍び込む。裏庭に置かれた馬車は、荷はカラになっているが、町の外で行きあった時の馬車であった。

 商会に忍び込み、ザントマンで皆を眠らせて、護衛ではなく商人(フロリアに声を掛けた男だ)を夢現(ゆめうつつ)のまま尋問する。

 すると、この商人は表向きは食料を扱っているが、裏では巡礼者を攫って売買を行う、奴隷商だということが証言がとれた。

 

 国内で売ると足がつくので、わざわざシュタイン大公国やヴェスターランド王国の商人と取引しているらしい。

 もちろん、どこの国でも誘拐と人身売買は違法なのだが、奴隷自体はこの世界では別に違法な存在ではない。借金のカタや、犯罪を犯した罰則、戦争で捕虜にされて……というケースで奴隷に堕ちる者はいる(戦争はしばらく発生していないが)。

 

 ところが実際には、どの国でも人さらいはメジャーな悪事である。ヴェスターランド王国のように国の中に半独立国のような貴族領がある体制下では、中央の眼が行き届きにくく、そうしたことが起るのは珍しく無いのだった。

 それでも、近年はヴェスターランド王国では鑑定魔法をうまく利用することで犯罪の発見率が上がり、他の多くの王国に比べてれば比較的安全な国を実現していた。


 アリステア神聖帝国は、女神アリステアの深いご加護に守られた国家で、表向きは犯罪は根絶されている、と主張している。しかし、実際に旅してみると、国民それ自体が、教皇皇帝を頂点とした聖俗にまたがる支配構造に組み込まれた半奴隷みたいなものだということが身にしみて判る。魔法使いは神隷と呼ばれ、あからさまに奴隷扱いされているが、非魔法使いの国民も他国に比べると様々な点で大きな制約が掛けられている。

 ならばせめて、本当に犯罪は根絶されていて欲しいものだが、実情は聖都のチンピラのルカや、この町の商人のような犯罪者は少なくないのだった。


 この商会が拉致した奴隷は、何名かが商会の地下に居た。最初にとりあえず全員眠らせたので、この奴隷も寝ている。

 そこで、フロリアは地下に降りると、見張りを蔓草で縛り上げてから、牢を壊して、4名の奴隷を運び出す。フロリアの体格では背負ったりは出来ないが風魔法を微妙なコントロールで使って怪我などさせないように店の外まで運んだのだ。

 全員が女性であった。拉致する時には男性も居ただろうに、どうしたのだろう?


 そして、商会主の部屋を家探しして出てきた奴隷の売買の裏帳簿を、彼女らの1人の手に持たせると、寝ている彼女らの耳元で混沌魔法の魔力を込めて、「この帳簿を持って、衛士隊の詰め所に逃げ込みなさい。アリステア様がきっとあなた達を見ていますよ」と囁いた。


 そして、ザントマンに4人だけ睡眠を解くように命じると、フロリアは夜陰に消えたのであった。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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