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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第74話 冬ごもり

 アリステア神聖帝国は、北方の国だが内陸国で、海からの湿った空気が届かないので、冬でも比較的雪はふらない土地柄であった。

 それでも、フロリアがこもっていた森のあたりは比較的積雪が多い場所であったこともあり、すでに12月に入っていて、そろそろ積雪があっても不思議は無かった。

 

 だが、この初雪がいきなり根雪になることはなく、翌日にはかなり雪も溶けていた。

 それで、フロリアはなおも数日、森の中で採取や狩猟などをしていた。

 すると、またもや夜に亜空間に引っ込んでいる間に多量の降雪があって、その時には朝になって、外を覗いても降り続いていた。


「それじゃあ、寝直そう」


 動物が冬眠するかのように亜空間に潜り込んで、その日はぬくぬくと過ごしてしていた。

 この雪が今度は根雪になったのだった。


 たとえ根雪が降ったところで、フロリアとトパーズの力があれば、森を出ることは出来たし、森から街道に出れば町まで遠くてもどうとでもなる。

 しかし、前の町でそこそこのお金を入手して買い物したので、自分1人だけなら一冬越せる程度の食料は亜空間内で自給できることが大きかった。

 どうせ急ぐ旅じゃないのだし、このままここで冬ごもりすることにしてしまったのだった。

 

 トパーズにとっても、フロリアの影でジッとしていたり、人型に変化しているよりも、森の中を自由に走り回れる方が気分が良かったので反対はない。

 猫科の動物はあまり雪や寒さに強くは無いだろうとフロリアは思うのだが、そのあたりはさすが聖獣で、気に止める様子も無い。

 朝になると亜空間から出ていって、一汗かいて戻ってくるときには必ず狩猟の成果をフロリアに出すのだった。雪の中なので、いつもより成果は落ちているのだが、それでもフロリアの収納の中にはどんどん野生動物や魔物が溜っていく。


 フロリアの方も薬草は雪に埋もれて採取は出来ないが、強い匂いの出る料理や、ポーションの調合などは晴れ間を見つけて、亜空間の外で行ったり、収納に入れっぱなしになっている魔物の解体をして魔石を取り出したり、あるいは水の精霊のウンディーネや、氷の精霊のフラウを呼び出して遊んだり……。

 存分に森の中の生活を満喫していた。そもそも、フロリアはアシュレイと暮らすようになってからは森の中で育った少女である。アオモリは雪はほとんど降らなかったが、寒さはこの森とあまり変わらなかったので、特に辛い、と感じることは無かった。


 そうして、森の中で新年を迎え、誕生日ではなく新年に合わせて年齢が加算される"数え"が採用されているこの世界の習慣に従い、フロリアは12歳になった。

 とは言っても、特に改めてお祝いをすることもなく、いつもと同じ一日であったのだが。

 前世の日本人であった頃には、新年は大きな年中行事のひとつだったが、それ以上に誕生日はビッグイベントで幼い頃には家族から、少し年長になってからは友達から祝って貰ったり、そう言えば別に親しくしたことも無かった男の子からお祝いに映画を見に行かないかと誘われたことがあった。

 映画がボディビルダー出身で筋肉でスターになった俳優が主演するアクション映画だったのであっさり断ってしまったが、"きっとあれってデートに誘ったつもりだったのよね"とフロリアは思う。

 うーん、ちょっと悪いことをしたかも。

 それに、その後すぐに死んでしまったことを考えれば、一度ぐらいはデートも経験しておけば良かったかも知れないなあ。

 でも、その日は家族でご馳走を食べに行くという予定が先に埋まっていたし、それをキャンセルしてあまり好きでもないジャンルの映画と言われても……。


 フロリアはやはりどこか思うところがあったのか、久しぶりに前世のことが頭に浮かぶのだった。


"あ、そう言えば、私って今の自分の誕生日を知らないんだっけ。

 この世界は基本的に誕生日を特別なものとして祝う習慣は無いし、特にこの世界のお父さんと暮らしていた時には小さな荷馬車で行商していたぐらいで、それどころじゃない生活だったし、自分の誕生日は覚えていないなあ。

 お師匠様も別に誕生日に何の感慨も無かったぽいし"


 どちらにしても、今の相棒である黒豹の聖獣には、人間の習慣である新年を迎えたことなど何の関係も無いのだった……。


 そんなある日の事であった。

 2人とも、亜空間の外に出ていたタイミングで、フロリアは雪の中を散策し、トパーズは狩りを兼ねて、走っていたのだったが、トパーズが駆け戻ってきた。


「どうしたの? 魔物は居無さそうだけど」


「そんなつまらんものじゃない。もっと良いものが居たぞ、フロリア。すぐに付いて来い」


「うん」


 トパーズは後ろも見ずに雪の中を疾駆し始めた。

 フロリアはシルフィードを呼び出すと、「いつものあれをお願い。私を引っ張って」と頼んで、足の下に防御魔法を展開して、それを空中ソリ代わりにシルフィードの魔法で滑空する。


「フロリアー、早いよぉ。わーい」


 シルフィードは、こうしてフロリアと高速で飛び回るのが気に入ったようで、特に用事が無くても呼び出して遊ぼうとすると、この高速飛行をやりたがるのだった。


 数分走ってようやく立ち止まったトパーズに、フロリアも程なく追いつく。


「トパーズ、どうしたの」

 

 声を潜めてフロリアは聞く。

 何かの気配がある。それはフロリアにも分かったが、何の気配か判らない。

 かなり特殊で、普通の生き物とは思えないし、もちろん人間でもない。


「あそこだ、フロリア。探知魔法は使うなよ、逃げられる」


 トパーズは顎をシャクって、数十メートルは離れた白樺っぽい木の上を示す。


「あ、確かに何か居る。分かりにくいなあ」


 それは真っ白で、背景に溶け込んでしまっている。

 教えて貰え無ければ、到底自力では見つけ出せない。


「あれと従魔契約しろ」


「え、あれ何なの?」


「すれば判る。早くしろ」


「……トパーズがそう言うのなら」


 どうやら木の上の白い物体は鳥のようであった。白いふくろう。

 ふくろう自体は、アオモリでも見かけたことはあるが、これだけきれいな純白は珍しい。

 こちらを興味深そうに見ている。


 これ以上急接近すると驚くかもしれないし、そもそもシルフィードの"あれ"は音が大きい。逃げるかも知れない、と思ったフロリアは歩いて近づくことにする。

 地面はフロリアの膝ぐらいまで雪が積もっているが、魔法を使って近づくのは何故か憚られる気がして、苦労して歩いて近づいていった。

 白樺の木の下まで到達したが、下の方は枝が無く、木の幹は割合に凹凸があるのだが、あまり登りやすい木ではない。というよりも登るにはちょっと頼りない太さである。


 これ以上はふくろうに近づけないかな、と思ったところ、フロリアを上から見下ろしていたシロフクロウは枝から地面に飛び降りる。

 良かった、向こうから来てくれた。

 でも、ちっちゃい。

 小さな品種なのか、まだ子どもなのか。


 フロリアはふくろうと目を合わせると、従魔契約のための呪文を呟く。

 精霊との契約はかなり得意で向こうの方から契約を求めて近寄ってくるぐらいで、師匠のアシュレイを呆れさせるぐらいだが、意外にも普通の魔物とは基本的にフロリアはほとんど契約をしていない。

 アシュレイの指導の元で、小型のツノウサギと契約したことがあるが、そのツノウサギがすぐに死んでしまい、それがショックでそれ以来、魔物や野生動物との契約はして来なかったのだ。

 ビルネンベルクでニャン丸と契約したのはほとんどイレギュラーな出来事で、彼らなら簡単に死ぬようなことはないだろう、というのも契約に踏み切った大きな理由である。

 今回は、このシロフクロウの素性は不明だが、そうしたフロリアを見てきたトパーズが敢えて勧めるのだから、きっとそれなりの理由があるのだろう。


 フロリアは呪文を唱え終わると、


「さあ、こちらにいらっしゃい。私の従魔になって」


と呼びかける。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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