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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第73話 冬到来

 ヴェスターランド王国から、アリステア神聖帝国に潜入したカルロとデリダの2人は判断に迷っていた。

 彼らが、首領のハンゾーに命じられて帝国に"渡り"として侵入し、工房都市アルティフェクスに到着したのが11月の半ば。

 特殊な訓練を受けた暗部らしく町の間の移動は最短で済ませていたが、途中の町にはそれなりの期間留まって、フロリアの痕跡を探しながら割合に日数を費やしてここまで来たのだった。

 捜索対象は未成年の少女である。幾ら魔法使いでもそれほど早く移動は出来ないだろうと考えたのだ。

 大人でも野営が続くのはかなり辛い。この少女も出来るだけ町間の移動は乗り合い馬車や交易隊に同行するなどの手段を使い、町に滞在する期間を延ばしているだろうと推測し、宿や馬車の組合を集中的に探したのだが、いっこうに手がかりが無い。


 こうして、彼らがアルティフェクスに着いて、"根付き"のカルロが経営する宿屋「緑亭」に投宿し探索を始めたのは良いが、ここでもさっぱりフロリアの情報が見つからない。


「どうしよう。ゆっくり来た積りだったけど、やっぱり追い越しちゃったんじゃないの?」


 初の大きな任務に張り切っていたカルロであったが、相棒のデリダにせっつかれて焦りだしていた。


「いや、もう少し待ってみよう。何と言っても、子どもが1人でいれば目立つ町だ。きっと情報が入ってくる」


「あんたの見込みって、ハズレっぱなしじゃない。ほんとに大丈夫なの」


「うるさい。お前だって、賛成したじゃないか」


「反対したらギャーギャー煩く言われるからよ。だいたいあんたは子供の頃から……」


 暗部の頭領ハンゾーは一応、無官の法衣貴族という体で王都に居を構えているが、その一族に領地貴族の男爵が居て、周りを王家の直轄領に囲まれた、村1つ程度の小さな領地を持っている。

 この村は暗部に人員を供給するためのいわば"忍びの里"であって、カルロもデリダも村の出身。2人は家が近い幼なじみとして育ってきたので、このあたりのやり取りは遠慮が無い。

 特にデリダは、カルロが始終飲み歩いているのが気に入らない。

 カルロにしてみれば、酒精分が入って口が滑らかになった町の人間から情報収集しているのだ、という言い分があるのだけど。

 

 その飲み歩きの成果だが、思いもよらない情報を得ることになった。

 

「何でも屋?」


「そうだ。隣のアルジェントビルのペッピーノって奴なんだがな。お前さんの言う、銀色の髪の女の子っていうのをやっぱり探してるっぽいぜ」


 アルティフェクスにはゴーレム関連の工房が多いが、その中の1つの職人に、エールを一杯奢って話をしていたら、どうやら他にもフロリアを探しているらしき者が居るとの情報が飛び込んできたのであった。


 そのアルジェントビルのすぐとなりに工房都市アルティフェクスがある。

 アルティフェクスは、アルジェントビルで産出される魔法金属目当てに集まってきた錬金術師たちが、集住していた地域がやがて、アルジェントビルから独立して、1つの町になったという成り立ちで、この2つは今でも壁一つ隔てただけの姉妹都市。色街や酒場はアルジェントビルの方が多くて、職人達は壁を超えて遊びに来るのだった。

 

 そのアルジェントビルの夜の街で、町一番の娼館に足繁く出入りして、使い走りなどをしている何でも屋――それがペッピーノである。

 軽薄で口のうまい中年男で、このアルティフェクスでも割りと知られた名前ではある。名前ではあるが、別に大物ではなく、大きなヤマに関われる器量はない。なので、裏にいる誰かの意を受けて動いているのだろう。


「こいつは、ちょっと面倒になるかもな」


 そう判断したカルロとデリダは本国に緊急便で報告したところ、本国の方でも他国、それもアリステア神聖帝国内で騒ぎを起こしたくないという判断で、2人の即時帰国を命じてきた。

 それまで、彼らは割りと大っぴらにフロリア探しをしていたので、その情報がペッピーノ側にも伝わっている可能性がある。

 フロリアを諦める訳にはいかないが、これ以上無闇に彼らを動かすのは危険だという判断を下したのである。


 さらに本国が2人をアルジェントビルに置くことの無効性を感じたのは、今頃になって聖都から巡礼ルートに沿った町で不可解な噂が巡礼達の間で流れていることであった。

 酷い怪我をしたために巡礼の旅に出た者のうちに、教会に飼われた神隷の治癒魔法を受けていないのに、何故か病や怪我が軽快する者が出てきている、というのである。

 軽快した当人達の間でも、いつの間に病状が好転したのか判らない……というのである。

 すでに一部の巡礼者の間では「これまでとは違う形でのアリステア女神様の恩恵が現れている」という噂すら流れ始めていた。

 フロリアの常識外れとも言える治癒魔法の腕は"暗部"でも知るところで、これはあるいは彼女に寄るものではないか、と推測する向きもあったのだ。

 そうであるなら、的外れのアルジェントビルで動くことの無意味さ、危険さは言うまでもない。


「あ~あ。あんたが喋りまくるから、初仕事だったのに降ろされちゃったじゃない。それにどうやらアルジェントビルに来たのも早すぎだったみたいだし」


「俺のせいだけじゃねえよ。お前だってもっと手伝ってくれたってよかったじゃねえか」


 2人は喧嘩しながらも、即座に町を離れたのであった。


***


 鑑定水晶のような水晶ではないが、真偽の鑑定魔法を付与した魔道具を作ったフロリアは、トパーズにそれを誤魔化すような隠蔽魔法と虚偽魔法を練習させた。

 最初はアホくさくてやってられない、と言っていたトパーズであったが、フロリアの「あ、出来ないとバカにされると思ってるんだ」という挑発にあっさり乗って、これまでに無かった隠蔽魔法・虚偽魔法の使い方に挑戦。

 さすがに最初の内はうまく出来なかったが、一度コツをつかむとフロリアの魔道具を騙す程度のことは難なくやってのけるようになった。

 これまでの町、その中には聖都も含まれているのだが、その大門に設置してある鑑定水晶よりもずっと高度な鑑定能力を持たせてあるのにも関わらずだ。


「うん、これなら、お父さんの格好で大門を一緒に入れるね」


「これまでのように、町に入ってから私を出すのではいけないのか?」


「私って1人だとけっこう目立つみたいなの。大門の門番とか、同じぐらいに門から入った人に顔を覚えられて難癖付けられそうになったから。お金を払っておけば、その心配は無くなるし」


 前の町で、うまく獲物の換金に成功したので、数度に亘って同じ手で入城して、金を得て市場で穀物などを購入していたら、「あの娘は1人で入城した筈なのに、大人の男がついているのは変だ。大人の方はどこから湧いて出たんだ?」と同じ巡礼者が噂し始めたので、慌てて逃げたのだった。入城税を誤魔化しているという理由で追われてはかなわない。


「でも、この手で薬草よりもずっと稼げるのは分かったから、次の町では堂々と入城税を払って町に入ろう」


「うむ。それは分かったが、ならば細かいウサギなどではなくて、大物じゃいかぬのか? このあたりならオークは居らぬようだが、熊ぐらいならば狩ってくるぞ」


「目立っちゃうよ。山刀も持っていないのに、どうやって狩ったのか説明出来ないじゃない」


「ふん。面倒なものだ」


「ウサギなんかでも、数がまとまればそれなりに良いお金になるからね」


 この前、無事に魔狼の群れを見つけて狩ったので、厳冬を乗り切るための毛皮のコートも作れた。

 このコートもフロリアが1人で使っていると不自然なのだが、元猟師のお父さんと一緒なら、さほど違和感は無くて済みそうである。


 そんなこんなで、今は次の町に向かう途中で見つけた森の奥に入って、絶賛狩猟中である。魔物は薄いが、普通の動物はとても多く、豊かな森であった。

 近くに村もないので、村人が入って狩りをすることはないし、街道を行く交易隊も足を止めて途中で狩猟などしない。巡礼だって、なるべく危険には近寄らないので森には入らない。

 冒険者が居ないこの国では、危険な魔物や動物の退治、駆除は国の軍隊や貴族の領軍の仕事である。しかし、それだって、近くの街道を行く交易隊に被害が出ない限りは基本的に放置である。


 というわけで、狩猟者が居ないこの森では狩り放題、薬草も採取し放題であった。

 フロリア達は野営の危険を考えなくても良い上に、最近では小麦や米を除けば大概の作物は亜空間内で育てることが可能になってきているのだ。

 まだ収穫は少なく、かかる手間暇を考えれば割りに合わないのだが、食べるのがフロリア1人(トパーズは肉食なので野菜に興味はない)が消費しているだけなので、問題ないと言えば問題ない。


 そして、ある朝。

 亜空間から出てみたら、木々が真っ白になっていた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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