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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第5章 アリステア神聖帝国へ
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第70話 聖都にて2

 魔狼はこのあたりにはあまり居ないようで、その後も数日探したがうまく出会うことがない。

 翌日も教会に薬草を持っていったが、やはりあまり良い値では引き取ってくれない。

 フロリアに絡んだ子どもたちも居るが、警戒して近寄ってこない。ただ、フロリアのことはかなり意識していて、教会から出ると後をつけてくる。

 フロリアの持ち込む薬草の品種、量、品質ともに他の子どもたちよりも少し上を狙うことにしたのだが、買取金額はやはり低く抑えられている。ビルネンベルクのギルドの買取金額とは比べ物にならない。

 大人になれば、魔物や野生動物も狩ってきて、その素材を商人に売って、日銭を稼ぐことも出来るのであるが……。


 それにしても、教会の帰りにいちいち、後をつけられるのは面倒だなあ……。


 フロリアは、市場の一番混んでいるあたりに入っていって、さらに人の多い方に紛れると尾行者を撒く。

 

「今日はちゃんと気がついたようだな」


「またトパーズにバカにされるからね。どうせ大門で待ち伏せているだろうから、東の方の門から出ようかな」


 町住まい以外の、明らかな巡礼者の子どももいたが、彼らもフロリアを尾行しようとしている。薬草を大量に入手する術を知りたいのであろう。


 東の門へ向かう途中で、大門から入ったフロリアが向った教会とは別の教会がやはり薬草の寄進に対して若干の返礼を渡して、巡礼が路銀を得る手伝いをしているのに出会う。

 

 ああ、そうか。聖都は大きな町であるだけに、門も数か所あるだけじゃなくて、各門から入った巡礼が近くの教会ですぐにお金を得ることが出来るようになっているのか。

 それだったら、明日からはこの東門から入って薬草を売るようにしよう。ルカとか何とか言う顔役とつるんでいる神父でなければ、少しは高く売れるかも知れないし、後をつけてくる連中も居ない。


 それで町を出ようとして、ふとフロリアは足を止める。


「ねえ、トパーズ。あの音、聞き覚えがない?」


「どの音だ?」


「ゴーレムの駆動音。あれ、お師匠様と一緒にリキシくんを作る時に、お師匠様が参考に作った試作品の音に似てるよ。ずいぶん、調子悪そうそうだけど」


「ふむ。そう言えば、そんなのもあったな。お前たちはすぐにバラしていたが」


「そんなに良い性能じゃなかったからね。お師匠様が若い頃に設計したモデルだそうだけど、あのときには素材がちゃんと揃わなかったからね。リキシくんの頃には、もうコボルトが居たから色々と手に入るようになっていたもの」


 そんなことを言いながら、駆動音を頼りに探してみると、大きな商会の建て替えでもしているらしい工事現場に行き当たる。

 ロープで立入禁止になった中を瓦礫を運び出す人夫が多数居て、その中に背丈が3メートル台の後半から、4メートルに届くかな、と言った高さのゴーレムが稼働していた。

 近所に住んでいると思しき子どもたちが、そのゴーレムを見物しながら、「わ~凄え」「カッコいい」などと言いながら、ロープの周りに集まっている。

 フロリアはその後ろの方からしばらくゴーレムの動きを眺める。

 アシュレイが作ったゴーレムの大幅な劣化版といった感じで、動きも粗雑だし、あまりパワーが感じられない。

 

 あ、またあの程度の瓦礫を運ぶのにあんなに手間取って。

 もっとしっかりと掴まなきゃ、落して脚部に当たると壊れるよ。


 フロリアは口を出したくなるのを堪えながら、観察を続ける。

 ゴーレム自体の性能も悪いが、ゴーレム使いの技量も劣る。見たところ魔力持ち程度のようだが、ゴーレム使いの才能があるということで、この仕事をしているのであろう。

 しかし、複数台を動かしている訳でもないのに、なんか目一杯感が出ていてかっこ悪いなあ、とフロリアは思う。


 ゴーレムの方も、リキシくんを出すまでもなく、アシュレイがフロリアの教材用に作ったモデルに比べてすら、この眼の前のゴーレムは同じ血を受け継いでいるのは間違い無さそうだが、性能面や品質面では足元にも及ばない。

 

 フロリアは、きっとこの個体は廉価版か何かで、それをキチンと手入れもせずに使っているので、こんなに調子が悪いのだろう、と思った。

 

「せめて手入れぐらいはキチンとすればいいのに、幾ら安モノだって使っている魔法金属や魔晶石はそれなりに高価なんだから」


 フリリアは、このアリステア神聖帝国は大陸最大の魔法金属の鉱山を抱えているのは知っていたが、ゴーレムを使い捨てみたいな使い方が出来るほど豊かであるとは思って居なかったので、ある意味感心していた。まさか、このゴーレムの運用が使い捨ての大雑把な運用ではなく、彼らにとっては精一杯であるのだ、などとは思いもよらなかったのだ。


 このまま、このゴーレムの作業風景を眺めていても、これ以上得るものは無さそう。総判断したフロリアであるが、

 

「せめてあのゴーレムがどこで作られたのか分かれば良いんだけど……」


 実はそれを知るのは簡単なことであった。

 工事見物(ゴーレム見物)をしている、近所の男の子のうちの誰かを捕まえて聞いてみれば良いだけの話だったのだ。

 彼らは自分達が熱中している話題について、可愛らしい女の子に聞かれたら、鼻の穴を膨らませながら、アリステア神聖帝国の栄光を象徴する工房都市アルティフェクスのパレルモ工房について、大喜びで教えてくれたことだろう。

 現代日本の子どもたちが贔屓のサッカー選手の成績を語るように、大好きな新幹線のスペックを語るように。


 フロリアは少し見物人達から離れて、ひと目を避けてニャン丸を召喚する。


「ニャン丸。あの工事のゴーレムをしばらく見張っていて。それで、ゴーレム使いの人が言うことや言われたことを覚えていて、私に報告して欲しいの。工事は多分、朝から夕方迄だと思うので、終わったらすぐに私のところに戻ってきてね」


「にゃんと承知しましたにゃ。このニャン丸にお任せあるにゃあ」


 ニャン丸はすいっと影に消え、フロリアはすぐにその場を離れた。

 最近、ニャン丸ばっかりだけど、シルフィードみたいな精霊だと騒音が激しくあらっぽい工事現場だと、神経が持たない可能性がある。

 ニャン丸なら、適当にサボりながらやるだろうから、それで良いのだ。


 フロリアが離れた直後に町の衛士が走ってきて、探るように周囲を見回していたが、「気の所為か。確かに魔法かスキルを使った者が居ると思ったのだが……」と言って立ち去った。


***


 次の日から、フロリアは森で目覚めると、ニャン丸を先に聖都の工事現場にやってから、森の中で採取活動をする。そして集めた薬草を、昼過ぎぐらいに東門から城内に入って、近くの教会に売り、それで得たお金で穀物などを購入。すぐに森に戻って、亜空間に入って生活を豊かにするための作業をして、日暮れ近くになると一旦、外に出てニャン丸を回収して亜空間に戻り、その報告を聞く……という生活に入った。

 こうした状況が続いても、似たようなこをしている巡礼者が多い町だし入れ替わりも激しいので、フロリアが目立たなくて良い。

 これがビルネンベルクだったら3日目には注目の的だったろう。


 最初に町を訪れた時にフロリアに絡んだ少年たちは、大門の近くの教会の神父は買い取り差額を自分のポケットにねじ込んでいると言っていたが、この東門の教会の真面目そうな神父は、大門の教会よりも高く買い取ってくれるので、その言葉が証明されていた。

 ただ、東門の神父は買い取りが終わった後で、集まった巡礼達に延々とお説教をするという悪癖があった。いや、気真面目に布教活動していることを悪癖と呼ぶのはおかしな話だが。


 彼は丁寧に巡礼一人ひとりに事情を聞いたり、どこから来たのか、どんな望みがあるのか……。

 そして、その望みを叶えたいのであれば、アリステア様に真摯にお祈りを捧げる以外に、どうすれば良いのかを教示している。それが、この国の事をよく知らないまま来てしまったフロリアにはちょうどよい情報収集になっているので、退屈だけど聞き逃すのももったいない。

 とある少年は、故郷の母のために病を癒やすポーションを得たいのだ、と答える。貧乏で、その国で販売しているポーションを購入することなど到底出来ない。しかし、帝国では時折、教皇皇帝の思し召し(人気取り政策)でポーションが無償で配られることがあるのだ。

 

 神父はその思し召しはついこの前あったばかりでいつになるのかわからないが、毎日一生懸命お祈りして待ちなさい、と諭していた。


 巡礼の中には結構、病人や怪我人も多く、やはりポーションを配布したり、治癒魔法使いが恩恵を与える思し召しを目当てにしているのだという。

 神父は、ポーションの数は少ないし、治癒魔法の恩恵は短時間なので、それを運良く受け取れるのは、日頃からアリステア様への深い信仰が必要なのだと説く。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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