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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第57話 暗雲

 町の首脳陣が、まだ未成年の少女に町の復興を頼り切ったような情けない話し合いをしている間、実際に体を動かす冒険者や衛士達も、「魔物がウロウロしているところで作業とかたまらねえ」と文句を言っていた。


「あの娘に最後までやらせたらどうだ」


と、先日のオーガ討伐にはいやいや参加してずっと後ろに居た冒険者の1人が相棒にぼやく。


「無茶言うな。お前も町に戻ってきた時のお嬢ちゃんの顔色を見ただろう。真っ青だったじゃねえか。ありゃあ2~3日は動けねえぞ」


「そりゃあ、そうだが……」


「それに少しは俺たちだって良いところを見せねえとな。子どもに任せっきりじゃあ、お前の婚約者も、こんなに頼りない人だったのかって失望するぞ」


「こ、婚約者は関係無いですよ。というか、あいつだって、ずっと家の中で震えてただけで、あの娘に頼り切りだったのは一緒ですよ」


「町のみんなが、頼り切りだな。とにかく、汗をかかないと、金にもならねえ。この作業だって、ギルドから正式な依頼が出てるんだから、しっかり金になるんだぜ」


「へいへい。だけど、魔物が戻ってきたら、すぐに逃げますよ、俺は」


「おいおい。オークなら返り討ちだろ。明日は、残党の掃討の依頼もあるってんだから、それも受ける予定なんだぞ」


***


 領都からやってきた交易隊は、領都では大店が編成したもので、予期せぬ災難に巻き込まれたものの、こうして無事に町につくことが出来て、幸運だか悪運だか判らない運勢だったが、とりあえずは命も積荷も無事だったことを女神様に感謝していた。

 交易隊のリーダーは荷を取引先に下ろし、商業ギルドにも報告して、助けてくれた猛獣たちと言葉を喋る猫(!!)とそれを使役していた少女のことを情報収集していた。

 領都の主人には詳しく報告せねば。できれば、少女と何らかの繋がりを作っておきたい……そんなことを考えていたので、1人行方知れずになった者がいるのに気がつくのが遅れたのだった。


 その男は、出発直前に交易隊に同行を頼んできた領都の男で、割りとヤクザな部類の商売をしていて、あまり関わりは持ちたくなかったが、正規の料金の他に主人には報告不要の小遣いを渡されて、連れていくことにしたのだった。


 それが町に入ったとおもったら、ふらりと一行を離れてどこかに行ってしまった。


「町の外ではぐれたのならマズイが、町に入るまでは確かに同行したのだから、大丈夫だろう。あいつも一人前の大人なのだし、そもそも約束は町に入るまでだった。気にすることは無かろう」


 どうせ、あまり人に見られたくないから身を隠したのだろう、こちらもあの男と同行しているのを余人に知られたくはないし、このまま放っておくに限る、リーダーはそう判断して、男のことは忘れてしまった。


***


 老神父は興奮していた。


 最近、女神の福音を正しく伝えるべく説教しに行っていた(本人の認識。付き纏っていた、が正しい表現だろう)娘が、なんと予想を遥かに超えるほどの力を女神アリステア様から授かっていたではないか。


 信者に大きな福音をもたらす治癒魔法の腕前も、老神父が母国で見たどんな治癒魔法使いよりも上であるし、ゴーレムを10数頭も使役していた。

 ゴーレムを駆使できるのはその身に魔力を秘めた者のみであって、魔法使いとまではいかない魔力持ちでは大抵1体、多くても2~3体、魔法使いならもう少し操作可能な個数は増えるが10体を超える者などめったに居ない。

 それをあの娘は15体ものゴーレム――しかも1体あたりの魔力消費量が普通よりずっと大きな高性能ゴーレム――を思うがままに駆使していた。

 同時に従魔を操り、自分の身の回りに剣と思しきものを浮かせて身を守るなど、いったいどれほどの魔法を一度に使いこなせるのだろう。

 さらに常識離れな猛獣を何十頭も使役出来る能力もある。


 これほどの魔法使いを祖国に連れ帰れば、どれほど女神アリステア様とその地上の代理人たる教皇皇帝陛下始め貴族の方々はお喜びなされるであろうか。


 人生の終わり近くに、大きな宝にめぐり逢い、自分はこの為にこの世界に生を受け、これまでの人生を歩んできたのだ! という確信を得たのだった。

 老神父は感動で体の震えが止まらぬほどであった。早速、あの娘の宿の前に陣取らねば!!


 ところが行ってみると、どこぞの商会の従業員と思しき者を始め、金の匂いを嗅ぎつけた怪しげな連中がウロウロしている。

 病気や怪我をしているらしい者も何人かいる。

 女神の力を賜った神隷(魔法使い)の力をアリステア神聖帝国の教皇皇帝に捧げるという正しい形をとるのではなく、己が欲望のために利用しようと企むなど、女神の怒りを怖れぬ不届き者である。


「お前ら、立ち去れ!! この罪人どもがあ!!」


 老神父はすがっていた杖を振り回し、商人たちを威嚇する。この手の神父を叩きのめすと、まずいことになるのは知っている商人たちは、それでも腹は立ったので、適当にからかうように逃げ回りはじめる。

 それで、集まった商人達は散ったのだが、別に諦めた訳ではなく、遠巻きにして「渡り鳥亭」を囲んでいることには変わらなかった。


***


 偵察に出した手下が、エドヴァルドの元に逃げ帰ってくると


「スタンピードが盛大に起こっている。オーガが主力で、見た感じ数10頭は居る、それからオークは数え切れないほどだ。町に向かってるけど、ここも危ないから何処かに逃げた方が良い」


と報告した。


「オーガだと!? なんでオーガなんかがそんな数いるんだよ? それじゃあ、もう町は終わりじゃねえか!」

 

 エドヴァルドは叫ぶ。

 手下が見間違えていることにして無視したいところであったが、この報告で他の手下が浮足だってしまったので、やむを得ない。

 そうそうにテントを畳んで、一時撤収することにした。

 

「畜生、俺の町だぞ。俺の町が滅びちまう!!」


 そんなことをエドヴァルドが叫んでいると、見覚えのある男が通りかかる。

 手下の一人が、「あいつ、ビルネンベルクに居るはずの魔法使いですぜ。以前、領都に居たけど食い詰めた奴だ」と言う。

 無理やり呼び止めて、事情を聞くと、手下の報告を裏書きするようなものであった。

 オーガキングが率いるオーガのレギオン(軍団)が迫っていて、町の防衛網では10分も保たないであろう、町の蹂躙が終われば、こちらにも来るだろうから、すぐに逃げたほうが良い、そう魔法使いは言い残して、立ち去っていった。


 その後ろから、数組の冒険者やら商人やらが逃げてくる。

 先程の魔法使いと同じく、スタンピードが迫っているのを知って逃げ延びているのだろう。

 俺の町を見捨てるつもりか、死ぬ迄町を守って戦え、そう怒鳴りたいエドヴァルドだが、ここでコイツラと揉めている場合ではない。


 しばらくすると、今度は領都からの交易隊がビルネンベルクの方角に向けてやってくる。確か、この交易隊に領都の情勢を知らせる御前の使い走りの奴が同乗している筈だが、今はそれどころではない。瓦礫の影に隠れてやり過ごしたのだった。

 町から逃げ出す冒険者や商人たちは別に互いに相談した訳ではないが、この交易隊が町に向かってくれれば、自分たちの後を魔物が追ってきた場合、ちょうどよい時間稼ぎになると判断し、誰も交易隊に何も教え無かったのだ。

 そしてエドヴァルドも警告をすることはなかったので、このタイミングでビルネンベルクに向かう彼らは、城壁外でスタンピードに巻き込まれて、犠牲になるだろう。

 確か、使いの奴は何度かつるんで領都で悪さをした仲間だったが、運のない奴だ、とエドヴァルドは交易隊の後ろ姿を見送りながら思ったのだった。


 その後で、縄張りを追われて、うろついていたオークの小さな群れが、交易隊の後ろから回り込む形で追撃を始めたのはエドヴァルドの預かり知らぬことであった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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