第56話 勝利の後
フロリアはふうっと一息つく。
結構な量の素材が至るところに散らばっているのだが、治癒魔法の連発に続いて、ゴーレム操作に操剣魔法と無理をしすぎた。そろそろ魔力の残量が尽きかけていて回収どころではない。
収納から、魔力回復用のポーションを1本出して飲む。それで魔力そのものは回復するが、精神的な疲労は別もので、ゆっくり寝ないと回復はしてくれないのだ。そして疲れきった状況では、普段使える魔法が使えなくなったりする。
とりあえずはゴーレム達を集めて、収納に仕舞っていく。
目立った傷を負った個体は見当たらないが、魔物の血や泥などで汚れている。時間を掛けてメンテナンスをしてあげないと。
そう思いながら、フロリアがゴーレムを収納している間、町の大門が開いて、冒険者達が出てくる。追撃戦を始めるようである。
そう言えば、町に向かっていた交易隊はどうしたかしら、とおもったら、無事に白虎たちが後を追っていたオークを蹴散らし、現在はゆっくりとビルネンベルクに向かっている。
「フロリア。もうアイツラも回収して良かろう」
戻ってきたトパーズに言われる。
「うん。トパーズ、ありがとう。助かった」
「ふむ。久しぶりに暴れて、気分が良かったぞ。やはり狭っ苦しい町などに居らず、森の奥で暮らそうではないか。きっと楽しいぞ」
「……近いうちに、そうなるかもね」
ビルネンベルクの町の城壁の上を見上げると、そこには市民に衛士、冒険者がたくさんの顔を並べて勝利を喜んでいるのが見える。
この大勢の人たちにアシュレイから「見せてはいけない」と言われていたゴーレムをしっかりと見られてしまったし、トパーズとその眷属達も見られた。
クリフ爺さんやリタなどに聞いた限りでは、Aランクの冒険者は大都市や王都に少しいるだけだし、Sランクあたりは一世代に数名程度の英雄なのだという。
感じとしては、前世の日本で言えばAランクがプロ野球選手、Sランクはその中でも大記録を残してずっと語り草になるレベルの大選手、といったところかな、とフロリアは理解していた。
「剣のきらめき」のジャックさんあたりが、普通の冒険者の中ではBランクでかなり強い。そしてトパーズの眷属の一頭でもジャックさん数人分ぐらいの力はあるし、トパーズそのものとなると、多分Sランクの冒険者パーティでも到底敵わないだろう。
そしてゴーレム……。
フロリアは今後のことを考えながらトボトボ町に徒歩で戻っていく。とても凱旋には見えない足取りであった。
大門をくぐると、城壁から降りてきているガリオン達が出迎えてくれる。
すでに白虎たちはトパーズの元に戻って送還され、今はトパーズ一匹がフロリアの横に付き従い、ニャン丸がフロリアの胸に抱かれている。
「フロリア。……その何だ、ありがとう。正直、今日ここで死ぬのを覚悟していた」
ガリオンが一言言う。
「はい。すみませんけど、疲れたんで今日はもう休みたいです」
「お、おう、そうだな。ゆっくり休んで、魔力も回復してくれ」
誰もフロリアに近寄ろうとする者はいない。遠巻きにされるだけだ。
「渡り鳥亭」に戻ると、宿の中は誰も居なかったが、すぐにリタ達が戻ってくる。
「フロリアちゃん、そのなんというか、凄かったんだね」
リタはいつものように少女を抱きしめようとはしなかった。
「うん。町の人が無事で良かったよ」
そう言い残して、自室に戻るとすぐに亜空間に入る。
「フロリア、元気が無いぞ。魔物を殺すことなら馴れているだろう?」
「そうだね、トパーズ。でもあんなに一度に倒したのは始めてだから、少し血に酔ったみたい……」
よほど疲労しているように見えたのだろう。ブラウニーもフロリアの顔を心配そうに見ているので、無理に微笑んで見せる。
服を脱ぐのも億劫だったが、このままでは休めないので、全裸になってシャワーを浴びる。時間がいつもと違うので、お風呂が出来ていなかったのだ。
シャワーだけでもたっぷり浴びるとけっこう元気が出てきた。
柔らかなタオルで体を拭いて、下穿き一枚だけで、ブラウニーが即席で用意してくれた軽いスナックを食べて、後はベッドに倒れ込む。
***
多くの冒険者と衛士が町から出て、おっかなびっくりでオーガやオークの死骸を回収している。
フロリアはいつものように出来るだけきずつけずに倒すと言うことを考える余裕がなく、とにかく効率的に魔物を倒すことを優先したので、素材としては酷い状態のものが多い。
それでも、使えそうなので冒険者ギルドの解体場に運んだ魔物はかなりの数にのぼったし、それ以外の魔物は魔石だけは回収して、数か所に集めて積み上げると火を放つ。
魔物の死骸をそのまま放置すると感染症の発生源になることはこの世界でも知られているし、適切な処理をしないとアンデッドとして復活する可能性もあるのだ。
オーガキングはトパーズが何度も攻撃を加えて倒したので、状態自体は悪かったが、何しろオーガキングである。素材として回収出来る部分だけでも相当額で売れるということもあり、わざわざ幌を外した荷馬車を町から引っ張り出してきて、20人ぐらいの男たちによってどうにか載せて運んだのだった。馬が血の匂いを怖れて、馬車を引いてオーガキングのところまでいくのを嫌がって大変であった。
そして、逃げた魔物達である。
すべての魔物がこのまま元の縄張りまで逃げ戻ってくれれば問題は無いのだが、残念ながらそうはいかない。縄張りにも戻れず、腹をすかせて町の近いところをうろうろするオーガとオークが残されてしまったのだ。
オーガはだいたい10頭から15頭の間ぐらいは討ち漏らしているし、オークにいたっては正確な数も判らない。
「当分、見習いのガキどもは森に立ち入り禁止だ。あと、冒険者にはこれから最低でも10日以上は町の周囲で掃討作業をやってもらう。
ま、無理はさせられねえが、仕方ない」
ガリオンが、町の首脳陣と相談していて、そう発言すると、アロイス隊長は自分のところの衛士も町の周囲の魔物掃討に協力したいと代官のファルケに言上して認められた。
「いっそ、あの娘にも討伐をやってもらうことは出来ないのですか?」
ファルケの副官(事務仕事を担当している)が口をはさむと、ガリオンは
「そうしたいのは山々ですが、規則があるんですよ。未成年の冒険者は討伐は禁止。ま、身の安全を守る場合は戦っても構わないのだから、今回の大暴れはその理屈で押し通すつもりですがね。
しかし、魔物を討伐するのを前提に森に入ると、ギルドの規則に完全に引っかかる。さすがにちょいとまずいかな」
と答える。
「それじゃあ、あのゴーレムや従魔を貸して貰うというのはどうでしょう?」
副官も諦めない。衛士に町の外で討伐をさせるだけでも余計な経費が掛かるし、単純に事務仕事も倍増する。町の財政に責任のある副官としては、無理筋な話なのは判っていても、強力なゴーレムや従魔を使うことを諦めきれない。
「うーん。ゴーレムを操るにも最低でも魔力持ちじゃないとな。この町には今、魔力持ちはいるかね、イザベル?」とファルケ。
「御者の中に、ゴーレム馬を操れる爺さんが1人いるよ。ゴーレム馬自体が居ないのにね。宝の持ち腐れなんだけど、本人はもう大きな町に移住するような年じゃない、気楽に暮らしたいって言ってるぐらいさ。
あの爺さんじゃあ、とてもお嬢ちゃんが操っていたごついゴーレムなんか操るのは無理だろうねえ」
ゴーレム馬でも操れる資質持ちは、その爺さんみたいに半ば現役引退したような者でない限りは稼ぎの良い大きな町に集まってしまうので、ビルネンベルクのレベルでは居ないのが普通である。
分かっていたことであるが、敢えてイザベルに口にさせてはっきりさせると、ファルケは副官に説明口調で続ける。
「そうか。そうだろうな。それにゴーレムというものは、特にあれだけのゴーレムともなれば、1台だけでも一財産だ。簡単に貸し借りして良いものじゃない。そもそも、今日あれだけ動いたら、魔晶石は空っぽに近いだろうし、最低でも数日ぐらいは動かないだろう。
それに従魔もそうだ。
フロリアの従魔は、君には言って無かったが、あの黒い豹は私にとっては昔なじみなのだ。けっこう融通が利くのは私もガリオンも知っているが、とてもフロリアを大事にしていてな。フロリアを町に残して、森へ行ってくれと頼んでも、やってはくれないだろうな。たとえフロリア自身が頼んでもな」
「そうですか。確かに従魔は主人と一心同体だと言われているのを聞いたことがございます」
やっと副官も納得したようだった。
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