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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第54話 開戦

 森を偵察に行っていた冒険者パーティは全部帰ってきたが、入れ替わるように幾組かのパーティや商人が町を逃げていく。

 町出身者で構成されたパーティはさすがに逃げることはしないが、他の町から流れてきた冒険者はここで死ぬつもりなど無いということである。

 そして数名の商人も、家族と金目のものを荷馬車に満載して、町から出ていく。

 それをその商人に雇われていた従業員が悲しそうな表情で見送り、それ以外の多くの市民達は憎々しげに彼らを見ている。

 

 こうした冒険者や商人はもともと旅慣れていて、1つの町に対してさほどの執着が無いのである。

 周りの市民は非難の声をあげても、留まることはない。


 そればかりか、ある冒険者はその非難の声に向き直ると大きな声で、


「生き延びる為に最善を尽くすのは冒険者の習いだ。俺たちのどこが悪いっていうのだ! 

 お前たちも死にたくなければ、それなりの行動をとれば良いんだ。良いか、テメエだけの命じゃねえんだ。お前らの嫁や子どもは、無能で逃げる才覚もないお前らに付き従ってオーガの餌になっていくんだ!」


 そして、フロリアの方を向くと、


「おい、お前はここでくたばるにゃあ、ちょいと惜しい。俺が連れて行ってやる! 来い!」


と怒鳴る。


 フロリアは「遠慮しておきます」と一言言うとプイと横をみる。

 他の市民達もそうした冒険者に殺気を漂わせ始めたので、その冒険者はそれ以上フロリアにこだわらずに、早々に立ち去っていく。


「ふん、あんな奴ら、城壁の守りが無いところでオーガに襲われたりしたら、逆にあの世行きだよ」


 イザベルが憎まれ口を叩く。


 結局は、町から逃げた者はごくわずかで、大半の市民は逃げる様子を見せない。

 皆、熱心に町の防御体制を構築するのに忙しい。何と言っても、普段から親しんだ城壁の硬さを信じて居るのだった。


 そしていよいよその時間が来た。


「お~い、大門を閉めろ!」


 城壁の上に昇っていたアロイス隊長が下に叫ぶ。

 他にも、イザベルを除く、町の首脳陣も城壁の上に登っている。こうした事態に備え、ビルネンベルクの城壁の上には兵士溜まりがあちこちにできているのであった。


「フロリアさん、フロリアさん」


 呼ぶ声が聴こえるので、そちらを向くとハンスが居た。


「フロリアさん、あなたの能力があれば逃げ延びるのは簡単でしょう。今のうちに逃げてください」


 ハンスは小声で呟く。


「ハンスさんは逃げないのですか?」


「私はこの町の出身ですから。しかし、フロリアさんは町に何の義理も無いのでしょう」


「まあ、確かに義理はそんなに無いですが、逃げる必要も無いですから。あの程度の群れで」


「え?」


 大門はギィーという軋み音と共に閉められていく。


「フロリア、今度こそ、たっぷり暴れても文句はないだろうな」とトパーズが囁く。


「うん。私もゴーレムを出すよ。町には近づけないで片付けよう」


「判った」


 そういえば、お師匠様のアシュレイからはさんざん目立つな、と言われていたのだが、ここで目立たないようにするということは、ビルネンベルクの崩壊を意味する。もうちょっと時間があれば、自分の力が判りにくくなるようなカモフラージュが出来るのだが……。


 大門が閉められているので、フロリアは風魔法で城壁の上まで飛び上がって、外を眺めると、オーガ達は横に緩やかに広がって、中心部は厚みを持って逆円錐形になっている。その一番奥にひときわ大きなオーガがいる。あれがオーガキングか。

 他の種族は使役することはできない筈だが、オーガ達のまえの方に結構な数のオークが居る。カイの言うように追い立てられて来たのだろう。


 近寄ってきたガリオンに「ちょっと、オーガをやっつけてきます」と言い残すと、何か言っているガリオン達を相手にせずに飛び降りる。


 風魔法で、大門から200メートルぐらい飛んでから地面に降り立つと、その傍らにトパーズが影からヌッと現れて、自らの眷属を呼び出す。

 白虎、ネメアの獅子、サーベルタイガー、豹、チーターなどの猫科の猛獣達。いずれも単体でオーガぐらいなら相手できる実力の持ち主ばかりである。


 次にフロリアは、アシュレイと共に心血を注いで作り上げたゴーレムを収納スキルから出す。


 ずんぐりむっくりのゴーレムを10体。ペットネームはリキシくんで、今回は腕に巨大なかぎ爪や、長い剣や盾を装着させている。

 素早さは無いが、体長5メートルほどで、オーガと同じぐらいの体格。ただ、この魔法金属と鋼鉄でできた巨人は、オーガの体当たりを受けてもびくともしない頑強な造りで、この手の敵を迎え撃つには最適なモデルである。

 その性能が許す限りの早さで、フロリアの前に横一直線に並んでいく。


 そして、今回の目玉とも言うべき、ゴーレムのトッシンが5体。体格はリキシくんの倍ほどもある10メートルの体長で、やはりずんぐりむっくりの体型で、足の膝部分から下の太さはリキシくん以上に膨らんでいるのだが、ここにトッシンの最大のギミックがある。

 この脚部にローラーダッシュ機構を組み込んであり、さらにその周囲や腰の後部などに風魔法を付与したジェット噴射を組み込んであるのだ。

 そして、組み込んだ魔晶石は空を飛ぶ魔物の魔石を結晶化させたもの。これが必要に応じて巨体の重量を大幅に軽減する。

 そもそも体長10メートルというと、前世日本で言うところの増トン車という6トン積み、8トン積みのトラックの全長とほぼ同じである。8トン積みトラックが直立して、時速70kmほどで突撃してくる様を想像すれば良い。


 薙刀状の武具と盾を装備した5体のトッシンが、一列縦隊で次々と敵を切り裂くのだが、これは前世で、お兄ちゃんが好きだった、とあるアニメからの発想である。そのアニメでは3体のロボットが縦隊で白い悪魔に向かっていったものであった。

 アシュレイのそもそもの構想では交易隊護衛用で馬車のスピード(せいぜい5~6km)で長時間巡航できれば良いというものをあったのだが、フロリアが魔改造していくうちに、騎士を乗せて全力で駈ける馬よりも早くなったのだ。


 後ろの城壁の上で、いろいろな人がなにか叫んでいるみたいだが、もうあまり気にしない。

 トッシンは甲高いモーター音を轟かせて、ロケットスタートを決める。今や数百メートル先まで迫ったオーガに一直線に切り込んでいく。

 フロリアの発案で、このトッシンは最高速で敵にぶち当たる直前、重力軽減魔法を切って、数トンの重さを復活させるというギミックを採用してある。

 時速70km超の重さ数トンの巨体によるシールドバッシュ。

 これまではアオモリの中の開けたところで試しただけだったのだが、最高速の出る平地で十分な助走をつけてのトッシンの体当たりは恐るべき破壊力であった。

 先頭のトッシンF-1のシールドバッシュをまともに受けたオーガは、ポーンと数十メートルも弾き飛ばされる。 

 そのまま、オーガの陣を一直線に切り裂いて、その後方に突き抜けると、大きく円弧を描いて今度は後方からオーガに迫る。


 一方、トパーズが率いる猛獣の群れは、急速にオーガに接近すると、数頭で組になって一頭のオーガに襲いかかる。

 彼らは1対1でもオーガに対する能力はあるが、眷属を怪我をさせないように気をつけて、というフロリアの要望で複数頭で一頭のオーガに対するという戦法をとっている。

 その中で、トパーズはただ一匹だけで駆け回り、敵のオーガと交差する一瞬で魔法を放ち、オーガを切り裂いていく。


 そしてリキシくんである。

 トパーズ達やトッシンがスルーしたオーク達が、フロリアを目掛けて突っ込んでくるのを受け止める。

 オーガのスタンピードと言いながら、単純な数だけなら、だいたい60頭近くのオーガに比べて、オークは200頭を超えるのだが、たちまちリキシくんによってその数を減らされていく。


 それでも、リキシくんの戦列を抜く個体がぼちぼち出てきた。そのオークは、後方でポツンと立つ少女に向かって殺到するが、フロリアは黙ってやられる訳もない。

 収納から取り出した多数の投げナイフが銀色の航跡を描いて、オーク達に吸い込まれるように突き刺さり、オークは鮮血を吹いて倒れる。

 さらにフロリアは自らの周囲に普通の戦士が使うような両手剣や片手剣を10本ほど浮かべる。これは一本、一本が魔法を付与した魔剣で、アシュレイが冒険者の時代に集めたものを、フロリアとアシュレイで魔法付与の練習を兼ねて魔剣に”育てた”ものである。 


いつも読んでくださってありがとうございます。



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