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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第50話 オーガとの戦いの波紋

「コーエンの奴、死んじまったのか?」


 エッカルトが半身を起こして、フロリアに問う。


「大丈夫ですよ。危なかったけど、とりあえず止血と心臓を動かし続ける魔法を掛けて延命しています。これから治します」


 そして、コーエンの傍らにしゃがみ込むと、再び膨れる治癒魔法の光がコーエンを包む。

 

「こっちもひどい怪我みたいだな。大丈夫なのか?」


 ガリオンの問いに、「はい。内蔵が幾つかやられてますけど、すぐに修復できます」とフロリアの返答は落ち着いたものだった。


「すまねえ、フロリア。そいつもなんとかしてくれ。無理やり、俺にくっついてきて、オーガに殺されそうになったところに、木の棒っキレだけで割って入って、腹を裂かれたんだ」


 エッカルトが呻くように言う。


「チキショウ。……ずっと喧嘩してたっていうのに。何だって、こいつは俺を助けになんて来たんだ」


「喧嘩したって、友達ってことだろ。ドレイクと合わせてお前ら3人は、ガキの頃はあんなに仲がよかったじゃねえか」とガリオン。


「ドレイク!! そうだ、ドレイクの娘達は……孤児たちはどうなったんだ!!」


「そっちも大丈夫だ。このお嬢ちゃんとトパーズが保護した。もう町に向かっている」


「……そうか。良かった」


「ったく、無茶しやがって。魔法も使えねえ奴が、1人でオーガに勝てる訳無いって判っているだろう」


「どうしても、ドレイクの娘達を死なせる訳にはいかなかったんだ。そうか……。またフロリアに助けられたのか……」


 そうこうする内に、「はい、治りましたよ」とフロリアが言うと、コーエンも目を開けて、「女神様が見える、ここは天国か」と呟く。


「あいにく、ここはビルネンベルクのチカモリだ。てめえは死に損なったんだ」


とエッカルトが返す。


 ようやく落ち着いて、怪我をした2人も他の冒険者に肩を貸してもらって歩けるようになったところで、フロリアがオーガの死骸を収納にしまい、引き上げることにした。

 その前に、ガリオンの足を引きずっているのをフロリアがちょっと試してみましょうか、と治癒魔法を掛けたところ、痛みがスッと引いて普通に歩けるようになってしまった。


「だけど、完治はしてません。怪我してから日にちが経ち過ぎると、傷ついた状態が平常になって、治癒することができなくなるんです」


「構わん。これだけでも、十分にありがてえ」


 やっと冗談をいう余裕が出てきた冒険者は、エッカルトに「ちゃんとお嬢ちゃんに治療代を払うんだぜ。幾らになるか知らねえけどな」と茶化す。

 幾らになるか判らないが、少なくとも田舎のDランク冒険者が払える金額では無いことだけは確かである。

 

 恐る恐る代金を聞くエッカルトに、フロリアは「さあ、いつもはお師匠様任せだったので」と答える。さすがに僅かな麦や野菜と引き換えにしていたと答えない。


 冒険者の中の1人は「そういえば、王都のAランク冒険者が腕を生やしたときの噂を聞いたが、腕一本で金貨2枚(現代日本だと2千万円程度)ぐらいだったかな。エッカルトの場合はその他に瀕死の重傷を助けられたんだから、あと2枚ぐらい足しても良いんじゃねえのかな」と言う。

 コーエンも、衛士の給料じゃ払えなさそうだと蒼い顔をしている。


「まあ、治癒魔法使いの相場ってもんがあるからな。あんまり安くする訳にはいかねえが分割で支払えるように、町に帰ったらソフィーに手続きさせてやるよ」


 ガリオンは20数年前のことを思い出している。

 駆け出しのガリオンはアシュレイに命を救われ、部位欠損を治して貰った時には、格安にしてもらった上に延々と分割払いをしたものだった。

 

「アリステア神聖帝国では、運さえ良ければ、無償で治して貰えることもあるらしいな。もっとも、そのためには巡礼で何年も放浪しなきゃならないみたいだけどな」


と、他の冒険者も口にする。

 

 フロリアはそういうのもあるのか、と興味を抱くが、自分があまり世間の常識を知らないことを、この冒険者達に知られたくなかったので、詳しく訊くことは控えた。


 ***


 町に戻る途中で、ようやく出張ってきた衛士隊とかちあい、ガリオンの指示でフロリアが収納からオーガの死骸を出して見せると、衛士隊のアロイス隊長は素直に「お前たちがこれほど手練れだとは思わなかった」と、その場にいた冒険者たちを称賛し、みな居心地が悪そうな顔になる。

 

 町ではすでにオーガ出現の報は広まっていて、一行が戻ると、大門を入ってすぐの広場には市民達が不安そうな顔で集まってきていた。

 その中には下町グループのリーダーが無事に仲間と再会出来て待っていたので、犬の死骸を返す。正直、醜い容貌の犬だったが、彼らは可愛がっていたようで、みんな泣きそうな顔になっていた。


 ガリオンとアロイス隊長は、高い場所に登ると、その市民たちに対して、オーガはすべて討伐したので心配いらない、と告げた。

 念のため、代官様と協議して、市民や子供の見習い冒険者の森への立ち入りは当分禁止して、装備を固めた冒険者パーティによって調査を行うが、あくまで念のためである。数日程度で立ち入りは解除される見込みである……。


 市民たちはホッとした表情に変わる。

 不安がなくなると、今度は身近な英雄たちによるオーガ討伐の武勇伝を聞きたがるが、冒険者達は実際に全く戦ってないので、語りようがない。


 それで若い冒険者達が、そのまま話し、フロリアがガリオンに伴われて冒険者ギルドに赴いている間に、あの娘と従魔が5頭ものオーガを討伐した、という情報は市民の間に驚くほど早く広がっていった。

 さらに、ほとんど瀕死状態であった、エッカルトとコーエンを治癒魔法であっという間に治したということも広まっていた。


「エッカルトの潰れてちぎれた腕を再生したんだ。部位欠損の修復なんて始めて見たぜ」


という訳である。


 オーガの素材を買い取りたいというガリオンの要望に従い、ギルド裏の解体場でオーガの死骸を出すと、ギルドの職員達だけではなく、いつの間にやら、覗き込んでいた市民たちからも「オオー!」という歓声があがる。

 その中の小商人たちは、オーガの買取金額も気になるが、それ以上にあんなにデカいオーガ5頭をあっさり収納できるフロリアの収納スキルによだれを垂らさんばかりになった。


 買取金額はバラして内蔵の様子を見てから、ということになったが、少なくとも5頭で6金銭以上にはなるだろうとのことであった。

 多少なりとも戦ったエッカルトには幾らか取り分が発生するが、治療代金の一部と相殺で良かろう、というのがオイゲンの言であった。


 それから、ファルケ代官とは先日会ったばかりだが、明日辺りにもう一度、時間を作って会いに行くことになると思うので、そのつもりでいてくれと言われる。


 午前中にオーガ騒動が発生したので、まだ2時過ぎで仕事を切り上げるのは早いが、町から出られないし、市場などでウロウロしていると騒ぎに巻き込まれそうなので、早々に「渡り鳥亭」に引き上げる。

 すると、リタがフロリアを抱きしめて「ほんとにフロリアちゃんはスゴーイ」と騒ぐ。


 それと宿に直帰したエッカルトが何時になく真剣な表情でフロリアを待っていた。


「大きな怪我をしたばかりだし、血も足りないのだから、ゆっくり寝ていた方が良いですよ」


「いや、この話が終わったら寝るよ。どうしても、お前に謝らなきゃならねえんだ」


「?」


 実は……とエッカルトが言うには、先日来、魔法使いのカイがフロリアを魔法使いと知って絡んできたのは、エッカルト達が護衛任務で他の町に行った時に深く考えもせずに仲間と話していたのを聞かれてしまったのだという。


「本当にすまねえ。リコとミナを助けて呉れたってのに、こっちは迷惑ばかりを掛けちまって。それで謝ろう、謝ろうと思ってたんだが、そのまま今日まで来てしまった。

 また返しようが無いぐらいの恩義を受けちまって……」


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