表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第1章 旅立ち
5/477

第5話 焼け跡で

 フロリアは、とりあえずは、瓦礫をどけることにした。

 師匠と2人で作ったゴーレムを出す。

 彼女たちは何種類かのゴーレムを作っていたのだが、その中から体長が5メートルほどのズングリムックリしたアイアンゴーレムのリキシくんを収納から取り出す。

 フロリアの収納スキルは収納量の限界がどこにあるのか判らない程の大きさなので、これまでに制作したゴーレムはすべて収納しておける。おかげで火事のために失われたゴーレムは無かったのだった。

 リキシくんはもともと、土木作業や開墾などの使うことを前提に開発したので、腕の部分は巨体とくらべてさえ、アンバランスなぐらい大きい。

 リキシくんはアシュレイがコッポラ工房時代に主力で開発したものを改良したもので、フロリアが金属の精霊のコボルトを使役して原材料を確保できるようになってから、10体ほど作ったのだ。


 しかし、ここでは1体のみで十分。

 多数のリキシくんで乱暴に作業するのではなく、万が一にでも下にアシュレイがいた場合を考えて、ゆっくりと丁寧に瓦礫を撤去していったのだった。


 トパーズはこらえきれないように、低く唸っている。すでに匂いを感じ取っているのだろう。フロリアも探知魔法で、瓦礫の下、ちょうどアシュレイの私室があったあたりに生物の死骸が埋まっていることは気がついていた。

 ゆっくりと、大きめの屋根材を取り除くと、下から、焼け焦げた無惨な肉塊が出てきた。ちょうど柱の間になったためか、屋根に押しつぶされてはいないが、かなりひどく炎に焼かれ、原型をとどめていない。

 フロリアはこみ上げてくる吐き気をこらえて、遺体を検める。前の人生の女子高生の感性のままではとてもできなかったであろう。魔物の血抜きや解体をいつもやっているので、どうにか可能なことであった。

 

「わからないわ」

 

 素人であるフロリアには女性の遺体であるのかどうかも定かでは無かった。だけど直感は、この遺体はアシュレイだと告げていた。とりあえず、確定させたい。

 

「そうだ。シルフィード。お師匠様のシルフィードを呼び出せない?」


 恐怖にふるえて、森の方まで逃げていたシルフィードを呼び寄せようとする。

 

「怖い、怖い。いやだ」


 シルフィードは遠くで叫びながら、逃げ回るので、フロリアは収納から大きめの布を取り出して、遺体に掛けて隠す。

 そのうち、新しいスカートにしようと思って、仕舞っておいたものだけど、そんなことを言っていられない。


 その上で、少し家の焼け跡から離れて、シルフィードを呼ぶと、どうにか近づいてきた。


 精霊は召喚者とペアになる。

 召喚者が最初に呼び出したシルフィードは、その召喚者のペアとなって、次回以降に水の精霊を呼び出すと常に同じシルフィードが出てくるといった具合である。

 但し、他の属性の精霊を呼び出すと、その属性を持った別の精霊が召喚される。


 召喚者の力によって、精霊の姿は様々に変わり、また見る人によっても見え方が変わる。ちなみにフロリアのように完全に少女の形をした精霊を呼び出せるのは、最上位の召喚術師であった。

 したがって、本来であればフロリアには、いつもアシュレイが使っていたシルフィードは呼び出せないのだが、そこは裏技的に自分のシルフィードの眷属として呼び出すという手があった。

 フロリアのシルフィードの方がアシュレイのシルフィードよりも上位の力を持っていたこと、そして術師自体も師匠弟子の間柄で、しかもフロリアもアシュレイの精霊とも日常的に会話したり、親しくしていたからできることであった。


 ところが、今回に限り、その呼び出しがうまく機能しない。アシュレイのシルフィードが召喚者との縁が切れてしまったためだろうか? それとも、混乱しているためだろうか?


 数度、繰り返して、ようやく「あの子は怖くて出られないけど、お話はするって」とフロリアのシルフィードが答えた。

 間接的になら話ができるということか。

 それでも、話ができないよりはましである。


「ねえ、シルフィードちゃん。お師匠様はどうしたの?」


「……あのね、あのね、フロリア。アシュレイ様はお椅子に座ったまま動かなくなっちゃったって言っているよ」


「その椅子はどこにあったの? お師匠様のお部屋だったの?」


「そうだよ。いつもアシュレイ様が座っていたお椅子だよ」

 

 ちょうど、遺体が見つかったあたりである。


「お師匠様はどうして動かなくなったの? 誰かが動けなくなるようなことをしたの?」


 そのフロリアの言葉を脇で聞いていたトパーズがピクリと動く。黄色い瞳は爛々と輝き、大型肉食獣独特の殺気を漂わせていて、慣れているフロリアでもちょっと怖い。


「ううん。アシュレイ様は自分だけで動かなくなったの」


 自然死か。


「動かなくなる前になにか言っていなかった?」


「……フロリア、フロリア! あの子、泣いちゃった。どっかに行っちゃったよ」


「なんとか、呼び戻せない? まだ聴きたいことがあるのに」


 もう一度、話ができないか、何度か試したが、"どこかの隅っこ"に隠れてしまったそうで、見つからない。

 そのうち、フロリアのシルフィードの方も疲れが見えてきたので、諦めることにした。


「わかったわ。無理なことをさせてごめんなさい。シルフィード。あなたも休んでね」


 ホッとした表情になったシルフィードはスウッと消えて、送還されていった。


「とにかく、この人がお師匠様で間違いがないみたい。近くに埋めて上げましょう」


 フロリアはトパーズにそう言うと、前庭に作っていた菜園の一部に穴をほってアシュレイを埋めることにした。

 菜園は、ほとんどが2人が食べるための野菜や、栽培が容易な薬草で占められていた。あまり大きなモノではなく、また最近はフロリアは自分の亜空間の内部で菜園を作るほうに熱中していて(今のところ成果は乏しかったが)、こちらの方は割りとドライアド任せにしてあった。

 しかし、その小さな菜園のほんの一角に、実用性ではなく花を植えた場所があった。厳しい冬を乗り越えて春になると可憐な小さな花を咲かせる品種で、アシュレイが好きだったのだ。このヴェスターランド王国よりもさらに北方のアリステア神聖帝国では一般的な花だった。


 火事の炎に焼かれて、野菜も、薬草も、そして花も全部やられてしまっていたが、フロリアはせめてアシュレイが好きだった花の傍で眠らせようと考えたのだった。

 土魔法で穴を掘ると、布に包んだアシュレイを横たえる。木を伐り出せば棺を作ることもできただろうが、その気力が無かった。

 土を被せると、手頃な石をいつくか集めて、積み上げて墓標の代わりにして、花の種を収納から出して幾粒か埋める。師匠が好きだった花の種である。

 フロリアはドライアドを呼び出すと「少し遅いけど元気に花が咲くように面倒を見てね」と頼んだ。

 

 そういえば、6年前に初めてアシュレイに出会った時、アシュレイはフロリアの父の遺体を道傍に葬ってくれたのだけど、その時にも幼いフロリアは荷馬車に入っていた花の種を埋めたような記憶がある。

 あの時には、何を植えたのだろう。父が眠る場所ももう定かではない。


 その後も家の撤去作業を続けたが、火事の原因はわからなかった。この家ではもう長らく、明かりは魔道具を使っていて、火を使うことはなかった。

 煮炊きに使うにしても、アシュレイならばサラマンダーに管理させるだろうし、万が一の時にはウンディーネが消し止めるであろう。

 ウンディーネが呼び出せなくなってから、つまりアシュレイが亡くなってから、火が出たということか。

 アシュレイの死因も判然としないが、彼女はここしばらく、"体にガタが来た"と称していて、体調が悪そうであった。フロリアが本気のポーションを作って呑ませると、その時には体が良くなったように見えたのだけど……。


 こうして、この家であったことが不明のままに終わったのだが、実はそれで幸いであったのだ。もし、前日の夜に雨が降って、レソト村のベン村長らの匂いを流していなかったら、アシュレイのシルフィードがもう少しキチンと話ができていたら……、おそらくはトパーズは、主人の死の責任がレソト村の人間にあると解釈してしまったことであったろう。少なくとも、アシュレイの遺体を辱めたと思った筈である。

 そうなれば、正式な従魔契約を結んでいないフロリアにトパーズを止める方法は無い。レソト村の住民は皆殺しにされていたことだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ