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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第49話 ビルネンベルクのチカモリで3

 冒険者達はフロリア達と合流した。


「おい、良かった。無事みたいだな。状況を報告しろ」


 ガリオンの言葉に、下町グループのリーダーはここぞとばかりに報告開始。けっこう盛っているが、さすがに自分でオーガを倒したなどとは言わない。


「それで間違いないか、トパーズ」


 一通り報告が終わるとガリオンはトパーズに確認する。興味なさげにしていたトパーズだが、聞いてはいたようで、「うむ。まあ、そんなところだな」と生あくびを噛み殺しながら答える。


「猫が喋った!」「いや、あれ豹だろ」「黒猫の親玉じゃないのか」


 冒険者たちはヒソヒソ声で噂したが、トパーズがじろりと睨むと一瞬で黙り込む。


「それで、オーガ4頭を討伐して、見習い冒険者はこれで全部、助けたんだな」


「はい。でももう1頭残ってるので、ちょっと片付けてきたいんですが」


 フロリアが事もなげに言うと、周囲の全員が苦い木の実でも食べたような顔をする。


「おいおい、本当にオーガだったのかよ。さっきの小僧の話を全部信じろってのか?」


 冒険者の1人が、急にそんなことを言い出す。


「倒すところを他の子たちも見ています。町に帰ってから聞けばわかりますよ」


「ふん。ガキの言う事なんぞ当てになるかよ。確かに、ここの地面は少し荒れてるけど、オーガと戦ったら、こんなもんじゃあすまねえよ。実は痩せたオークでしたじゃあ、これだけ引っ張り回されてやってられねえぜ」


「それじゃあ、見ますか?」


 フロリアは、ちょっと離れたところにオーガを4頭、収納から出して並べる。


「これが今日、倒したオーガです」


 周りがまた息を呑んで、静まる。どれもきれいに倒していて、毛皮もそれほど傷ついていない。

 

「わ、分かった。もう引っ込めて良いぞ」


 ガリオンの言葉でフロリアはサッと4頭とも仕舞う。


「これで分かったろう。トパーズなら、オーガごときは簡単に倒せるんだ」


 フロリアは自分が倒した分もあるのに、と思ったが、それを言い出すとややこしくなりそうなので黙っている。


 そこへ、トパーズが頭をもたげて、「おい、ガリオン。オーガだ、見つけた。だれか人間を襲ってるぞ。2人居る」と言い捨てて走り出す。


 あっという間に木々の間に遠くなるトパーズが走る方角に向けて、探知魔法を飛ばすと確かにオーガの気配がある。人間と戦っている。

 なんで? もう子どもはいない筈なのに。

 ――いや、あれは大人だ。大人で……多分、冒険者がオーガと戦っている。


「私も行きます」


「いや待て。勝手に先行するな」

 

 ガリオンはフロリアを制止すると、冒険者を2組に分けて、フロリア以外の未成年を送らせる組とトパーズの後を追う組に分ける。


「良し、追跡組は俺について来い」


 痛む足でガリオンは、走り出す。これで、明日から数日は歩けなくなるだろうな、と思う。


 しかし、幾らも歩かないうちに、フロリアが「まずいです」と言い出す。


「トパーズがオーガは倒したけど、襲われていた2人とも大怪我をして死にかかっています。あと数分ってところだ」


 とギルマスを振り返って言う。


「ギルマス、先に行きますね」


 フロリアはまたもや、魔法とシルフィードで高速移動を始める。


「おい待て。1人じゃあぶ……」


 までガリオンが言いかけるが、あっという間に消えてしまうフロリア。

 

「クソ、おい、こっちも急ぐぞ」


 ガリオンが怒鳴る。そして、必死に走るが、フロリアの居るところまでは7~8分は掛かったのだった。


 ガリオン達がようやく小さな広場のようになったところに着くと、オーガが血まみれで倒れている。もはや動かなくなって。

 さらに、やはり血まみれで2人の男が倒れている。

 フロリアは、そのうちの1人の側に座り、顔を覗き込むようにして、治癒魔法を使っていて、周囲がボゥっと淡く光っている。


「なんだ、こいつはエッカルトか。先走った挙げ句、オーガとかちあったのか。で、そいつは、誰だ。あ、衛士隊のコーエンじゃねえか。私服だから分からなかった。なんだってこんなところに居るんだ、非番みてえだが」


 その時、エッカルトが唸り声を上げて、目を開ける。眼前にはエッカルトを覗き込む、フロリアの顔。


「良かった。もう大丈夫ですよ。

 さ、それじゃあ腕も治しましょうか」


「腕?」


 そう言われて、エッカルトはやっと自分の利き腕である右腕が剣ごとオーガの拳に叩き潰されて肘のあたりからちぎれてしまったことを思い出した。


「ああ、俺の腕、腕が!!」


「落ち着いて。大丈夫ですよ。元の腕は潰れちゃったけど、まだなくしてすぐだから簡単に治せますよ」


「――え?」


「私は部位欠損の修復も出来るんです。任せて。まずは深呼吸して気持ちを楽に持って下さいね」


 そう言うとフロリアは、エッカルトの右腕の肘のあたりに魔力を集中する。光がその周辺だけに一層強くなり、それが腕の形になって、数分後、光が止むとエッカルトの新しい腕が出現した。


「はい、できましたよ」


 そして、腕がちゃんと動くか、肘や手首を動かしたり、指を数えさせたりして、


「うん、ちゃんと治ってます。まだ握力が無いと思うけど、2~3日で復活しますよ。そうしたらまた剣も使えるようになります」


 周囲で見ていた冒険者たちは息を呑む思いであった。部位欠損の修復など、並の治癒魔法使いでは不可能。噂では王国軍に1人か2人、それだけの能力を持った魔法使いが居るらしいが、戦時には司令部詰めで将軍や高級士官(貴族出身者)の側に張り付いていて、万が一に備えるらしい。

 平時には訓練などで怪我をした軍人を治癒するそうだが、士官以上でないと相手にはしないし、軍人以外が治療して貰おうとすれば、軍上層部にコネがあるか、巨額の治療費を支払うか……。

 その半ば伝説的な部位欠損修復の秘技を目の当たりにしたのである。


 治癒魔法使いは、治した相手に惚れられる、という定説がある。死の淵から生き返って目を開けた時に、自分を覗き込む清楚な雰囲気の美少女。その美少女に命を助けられた、となると、冷静でいろ、という方が無理なのかもしれない。

 特に、以前からフロリアを意識していたエッカルトは、血の足りない状態で半ば呆けながら、フロリアの存在を深く深層心理にまで焼き付けて、一生忘れられなくなっていたのであった。

 

 もっともフロリアは、さっさとエッカルトは放置して、コーエンの治療に取り掛かっていたのだが。

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