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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第23章 大黒龍
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第473話 重鎮たちの訪問1

 マジックレディスの面々はもちろんアドリア以外も有名人ばかりなので、ロワールの冒険者ギルド・ギルマスのジャン=ジャックの意向もあって、変装して魔物討伐にあたった。

 モルガーナとソーニャは普段の服装とは大きく異なる、北方の騎士のような衣装である。動きづらいとモルガーナは大いに嫌がったら、現代社会から持ち込んだ戦闘服は、そもそもフロリアが大黒龍討伐した時に似たような服を着ていたので、変装にならないので没。これまでのマジックレディスの服装とはできるだけ違うものということで、選ばれたのであった。

 ベルクヴェルク基地謹製のそれなりに強力な認識阻害の魔道具を使っても、ソーニャの女性らしいスタイルやモルガーナの浅黒い肌に騎士のお仕着せのような服は違和感を隠しきれない。


 ルイーザは他の大陸からの到来ものの衣装に身を包んでいる。

 大海に面し、外洋航海によって他大陸と交易をしているフライハイトブルクの市で以前に手に入れたものだそうで、ルイーザの普段のイメージからは遠い、原色を大胆に使った衣装で、モルガーナが本気で「ルイーザ姐さんがおかしくなった」と心配したほどだ。

 

 森に入る際には、他の冒険者とは離れて行動し、ルイーザとモルガーナ・ソーニャとは離れていた。

 それでも、遠目にでも彼女たちの鮮やかな討伐の腕には、それなりの数の冒険者達が気が付き、「マジックレディスが来てるんじゃないか?」という噂が流れた。

 そもそもがロワールにいるような冒険者はそれなりに腕に覚えのある連中である。こんなおざなりな変装に騙される者は多くない。


 ただ、同時にギルマスのジャン=ジャックがこの"見知らぬ"女性冒険者にちょっかいを出すんじゃねえぞ、とばかりに睨みを効かせたので、敢えて彼女たちに接触を試みる者はいなかった。 ――と簡単にはいかないのは世の常である。

 中には、ギルマスの意向なぞ意に介さない跳ね返りもいるし、なんとかフロリアにお近づきになりたくてジャン=ジャックの不興を買うのも覚悟の上、という者もいる。

 ただ単に、何も気が付かないで腕利きの魔法使いをスカウトしたいパーティもいる。


 最後のパターンは、気が利かないだけなので割りと簡単に排除できたが、トラブル上等で接触を図る連中には結局、ラウーロやジャン=ジャックの強硬手段が炸裂することになり、ただでさえ少ない冒険者の数が更に減ってしまうジレンマになった。

 とは言え、2日めからアドリアも復活して加わったマジックレディスの討伐数は群を抜いていて、簡単に外す訳にもいかなかった。


 それでも、数日後ぐらいから他の町から応援に駆けつけてきた冒険者達が増えてきて、無事にマジックレディスはお役御免。


 大河を下る船に乗ってないのに、どうやって? と周りに不思議がる中、さっそうとフライハイトブルクに帰還したのだった。

 帰還するとパーティホームに直行。

 使いを出して、他の冒険者の目に触れないように、マルセロらと会いたいという伝言をもたせると、すぐにギルド側から直接マルセロとオリエッタがパーティホームを訪問するという返答があった。


 国際冒険者ギルド連合会会長と、フライハイトブルク本部ギルドマスターという立場の人間が、いかに大物とは言え一冒険者パーティのパーティホームを訪れるなどちょっと考えられない話であった。

 それでも、こうした判断になったのは、いかにフロリアの成し遂げた(やらかした)大黒龍単独討伐の偉業が大きな政治的社会的影響を与える出来事であるのかという証であった。


 日を置かずに、ギルドのトップでもあり、町の支配者層でもあり、ということはこの大陸で大国にも匹敵する力を持つ自由都市連合の舵取りをしている政治家でもあるということで、そうした人物の訪問に、使用人頭のパメラおばさんは大慌てで準備を指揮することとなった。

 フロリアが、伝説的な魔物である大黒龍を単独討伐したという噂は、かなり離れたフライハイトブルクの市井にも既に伝わっていて、その件については流石にパメラおばさんも半信半疑であったのだが、町の重鎮が訪れるとなると、やっぱり本当なのか、とこの少女を見直していた。

 

 子どもたちはそんなことに頓着せずに、年齢の近いお姉さんのフロリアと遊ぼうとしているが、その母親達は慌てて引き剥がす。

 大物の来訪を前に遊んでいる場合ではないのだが、それよりもフロリア自体が見た目も言動もこれまでと変わらなくとも、生ける伝説のような扱いになりつつあるのを感じ取って、遠慮をし始めているのだった。

 

 そして、フロリア達が帰還した翌々日がマルセロとオリエッタが訪問予定の日となり、昼前には来るというので朝から大忙しだったのだが、そこへアクシデントが襲う。

 町の議会が特に衛士と珍しく傭兵隊まで派遣してパーティホームの警備に当たらせていたのだが、その警備をものともせずに突撃してくる人物がいた。

 大魔導師ファーレンティンである。

 困惑顔の取り巻き大勢を引き連れて、パーティホームを訪れたファーレンティンは、衛士達にいきなり魔法をぶっ放して混乱を引き起こし、ホームの門までたどり着くと、バカでかい杖でガンガン門を叩いて「フロリア!! 小娘! 出てこい!」と怒鳴りだす。


「あ~あ、門が傷だらけになっちゃうよ。ていうか、あの爺さん、おっ死んだんじゃなかったっけ?」


 モルガーナの言葉にルイーザが「何を言っているのですか!」とたしなめる。


「引退したとは聞きましたが、まだ亡くなったなんて聞いていませんよ。というか、あの声を聞く限り、十分すぎるぐらい元気みたいですね」


「フィオちゃんがものすごい魔道具を使って、大黒龍を一発で仕留めた上に、怒りの山の形まで変えちゃったって聞きつけたんだろうねえ」


「あのぐらい、魔道具に対して情熱を燃やし続けられるというのはすごいとは思いますけど、さすがに迷惑ですね」


 流石に町に対して数十年に渡る貢献の実績がある老人を衛士も力ずくで止める訳にはいかないのだろうが、こんなところで魔法まで使われては危険極まりない。


「ちょっと行ってきましょうか?」


「止めた方が良いよ。私が行ってくるよ」


 フロリアの申し出を即座に断ったアドリアは、1人で門扉に向かう。

 それを屋敷の玄関の奥から、心配気な顔でそっと覗く使用人たち。


「ファーレンティン様。門が壊れるからやめてくださいよ」


「ぬぬっ! お主はあの娘を囲って何を考えておる。さっさと儂に引き渡さぬかああ!!」


 割れ鐘のような声。

 これはまだ当分、死にそうにないな、と内心で呟いたアドリアは、


「いくら大魔導師様でも、他人の家の門を壊したらただではすみませんよ。お供の人たちも何をしてるんですか!! 早く、ファーレンティン様を連れ帰りなさい!」


と叱る。


 そう言われても供回りも手を出しかねている。

 供回りの中にこれまでアドリアが見知った顔が無い。

 以前は、ファーレンティン引退後に少しでも錬金術ギルドで地位を得たい中堅層あたりが腰巾着になっていたのだが、彼らはもう力を失ったファーレンティンを見放して、本部で権力闘争を繰り広げるのに忙しいのだろう。

 それで、ギルド本部に入ったばかりのペーペーが、ボケ老人の世話役を押し付けられたという次第であった。

 確かに新人に、ボケた超大物の世話は難易度が高すぎる。


 アドリアには自分をフロリアにあわせる気が無い、と見たファーレンティンはますます激昂し、怒鳴り散らす。


 そろそろ良いかな。

 アドリアは後ろ手に組んだ指を動かして、後方に合図する。

 普段ならば魔物狩りなどの戦闘で、こうしたハンドサインに従って他のメンバーが連携するのだが、本日は相手を討伐する訳ではないので、動くのはカラス型のロボットだった。

 パーティホーム内の立ち木の枝に留まっていたカラスが「かぁ」と一声鳴くと、バサバサと大げさな羽音を立てて飛び立つ。

 それもファーレンティンがいる門の近くを通りすぎていく。

 

「くそ、この腐肉漁りがっ!!」


 ファーレンティンは口汚く罵ると両手を振り回す。

 からすは別に彼らに固執することもなく、すんなりと脇を通り過ぎて、向かいの家の屋根の上まで飛び移って、素知らぬ顔をしている。


 アドリアは、「あまり騒ぎを大きくしないうちに帰ってくださいよ」とだけ言い捨てると踵を返して、屋敷に戻っていく。

 

 呆気なく戻っていったアドリアにちょっと驚いた衛士や取り巻き達だったが、からすが通り過ぎて数分後ぐらいから、ファーレンティンの元気が無くなっていって、しまいには座り込んでしまった。

 ちょうどよい。

 衛士達は「お疲れのようだ」と取り巻き達を促して、ファーレンティンを連れ帰らせるのに成功したのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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