表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第23章 大黒龍
470/477

第470話 対大黒龍戦2

 亜空間から出現した時に、反対側を向いてしまったことは本来ならば致命的なミスになりかねなかった。

 とにかく、大黒龍のブレスよりも早く、銃撃でとどめを刺す、という戦法にとっては。

 後ろ向きに出現してしまうという可能性を考えずに作戦を実行してしまったフロリアの痛恨のミスであった。


 しかし、大黒龍側も食事のさなかであったので、すぐに食べかけのワイバーンを吐き出し、ブレスの体制に移ったために、そのフロリアのミスを活かすことが出来なかった。


 大黒竜がいくら大きな的であろうと、10キロ近くも離れていれば、普通ならばよほど慎重に狙わなくてはならない。

 しかし、重力や風の影響を受けない魔力の塊を撃ち出す方式の上に、銃自体に強力な射撃補正魔法が付与されているのだ。

 最大出力で発射された魔力の塊は、大黒龍のブレスを吐き出すよりも一瞬早く、その首筋に向かって飛んだ。

 巨大な頭を支える首は、世界最大の大木のように太く、その表面は鋼鉄のような鱗に覆われて黒光りしている。

 弓矢はもちろん、並の攻撃魔法程度では傷すらつかない硬い鱗に。


 しかし、ドラゴンバスターの魔力の塊と交差するように龍のブレスがフロリア達を襲う。

 このブレスもフロリア達をめがけてまっすぐに糸を引く。

 今度は回避行動を取る余裕も亜空間に逃げ込む暇も無い。

 そして、この巨大な魔力の奔流を、いかに優れた魔法使いといえど防御できるとは思えなかった。

 

 それでも、ラウーロはフロリアの後ろに掴まりながら、防御魔法を展開していた。

 常識的に考えて、有効な手段はフロリアもそれに合わせて全力で防御魔法を展開することだろう。Sランク冒険者の全力プラスフロリアの膨大な魔力で展開すればあるいは大黒龍のブレスでも防御できるかも知れない。


 しかし、フロリアは同じ一か八かであれば、もう一つの手段をとることにした。

 それはブレスに向けて収納魔法を展開し、その炎の奔流を飲み込んでしまうことであった。

 少し前にワイバーンのブレスで試したところ、うまく行った。

 もちろん、大黒龍とワイバーンでは同じブレスといえど天と地ほどの差がある。

 それでも、フロリアの不思議な勘は、こちらのほうが可能性があるように囁いたのだった。

 眼の前に巨大な炎が迫る……。


 最大出力のドラゴンバスターの魔力の塊は、大黒龍の首筋に命中すると、人間であればちょうど喉元の部分に光の束があたり、(うなじ)に当たる部分から抜け、そのまま怒りの山の中腹目指して飛んでいく。

 一瞬の間をおいて、龍の前後から噴水のように血しぶきが吹き出す。

 背中側の方がより激しく吹き出して……数秒後。

 大黒龍はゆっくりと前のめりによろけるように倒れていき、最後には地面には盛大な地響きが轟いて、飛び散った血と脂が周囲に雨のように降り注いだ。


 周りの魔物達は、大黒龍が寝覚めの朝食代わりにすべく、その膨大な魔力で捉えて呼び寄せたものばかりで、逃げたくとも逃げ遅れてしまったものたちばかりだった。

 それが急に精神を縛る強制力が消滅し、自由に動けるようになった。

 魔物たちは名状し難い悲鳴のような鳴き声をあげる。

 数百頭の普通ならば、大物扱いされる魔物の鳴き声の合唱は数キロ先まで空気を震わせるのに十分であった。

 そして、一斉にその場から逃走に入ったのだった。


 一方のフロリア達は真っ赤な炎に視界が覆われて、何も見えない状況になる。

 フロリアの後ろにしがみついたラウーロは自分の人生もこの瞬間に終わるのか、と思ったと後に述懐している。


「苦しまずに一瞬で消し炭になるのだけは良かった、と思ったものだ」と。


 だが長い長い数秒が流れているのだが、一向にラウーロは消し炭にならなかった。眼の前を覆う巨大な炎は大鷲の手前で消えていくのか、散っていくのか、どうやら自分のところまで届かないようであった。


 何故だ!? 

 

 ラウーロが言葉を発しようとした瞬間。

 急に炎が途切れて、何事もなかったような空の景色が再び、視界に入ったのだった。


 ブレスの発射元の大黒龍が倒れ、それ以上の魔力の供給が途切れたためであった。


 フロリア達からは、大黒龍がスローモーションのように前のめりに倒れ、その周囲を飛び回っていたワイバーンが散っていくのが遠目に見えた。


「……勝ったのか?」


「はい。危なかったですけど、なんとか」


 本当に危なかった。

 収納魔法が大黒龍のブレスというとてつもないものを飲み込んでしまったことが、フロリア自身でも半ば信じられない。

 何を収納してもあまり実感がないのに、今回は体がずっしりと重くなっていくように感じた。

 あと数秒ブレスが長かったら……。

 収納自体はできるのかも知れなかったが、フロリアの神経が耐えきれずに魔法を中止してしまったかも知れない。

 そうなったら、やはり消し炭は避けられなかったであろう。


「……それじゃあ、予定通りにやるぞ」


 背中からラウーロのかすれた声がして、あまりの衝撃と威力に脳がしびれたようになっていたフロリアがビクリと震えて、正気を取り戻した。


「はい、行きましょう。大鷲さん、お願い」


 大鷲もさすがに少しふらついているように感じたが、それでも嫌がることなく、大黒龍の死骸に向けて飛ぶ。

 途中、逃げ出すワイバーンが進行方向からやってくるが、こちらを襲うことはなく、とにかく一目散に何処かに逃げて行ってしまうので、フロリア達も敢えてそれらを追いかけて討伐したりはしない。

 本来ならば大金になる大物の魔物であるのだが、今はそれどころではないのだ。


 数分程度の飛行で大黒龍の上空に到達する。

 地面に長々と横たわった姿は、上空から見ても何とも巨大である。

 大鷲は旋回しながら降下していく。地面に群れていた空を飛べない魔物も、この時点では恐慌状態になって、どこかに逃げている。


 巨大な魔物、というと以前にモルドル河を下ってきた水龍を収納したことがある。

 あれは全長が140メートルもあったのだが、ヘビの様に細長い体をしていた。

 この大黒龍は長さは尻尾まで入れれば、水龍を超えるほどの長さがありながら、胴体は堂々と太く、体積は桁違いである。


「おい、収納できるか?」


「やってみます」


 フロリアは地面の大黒龍に大鷲の上から収納魔法を展開した。さすがに一度地面に降り立って、という気分にならない。まだまだ、血しぶきが地面に近いところでは霧のようにけぶっているし、異様な熱気も立ち込めているし。


 結果としては、あっさりと大黒龍の胴体もちぎれかかった頭部も収納できた。

 ラウーロは内心、舌を巻く。S級冒険者として稼ぎまくっているラウーロでも、購入する時には決死の思いになった収納袋、――その収納袋でもとてもではないが、大黒龍をぺろりと飲み込むことなど出来ない。

 いや、その前にブレスを収納することも出来ないのだが、ラウーロはフロリアのすぐ後ろにいながら、フロリアがどうやってブレスを凌いだのか、判っていなかったのだ。

 

 つい先程、亜空間で奇怪な小さなゴーレムのような金属の塊が喋っていたのを思い出し、古代文明の何やら不思議な魔道具をいくつも持っているようなので、そのどれかを使ったのだろうと"あたり"をつけていた。

 冒険者の秘密を詮索するのはタブーでもあるし、今は他に気にすべきことがたくさんあった。

 どうせフロリアには今回、知ることになった秘密を守ってくれ、と頼まれるであろうから、その時に疑問点は問いただせばよいだろうとラウーロは考えたのだった。


 とにかく、大黒龍を収納したからにはこの場所に長居は無用だった。大黒龍を貫いた魔力の塊が怒りの山の山腹を直撃し燃えているのだが、その熱気がここまで伝わってくる。はやく離れるに限る。


 それで、亜空間で決めたように一旦、ロワールの町に戻ることにした。

 今回の長距離でも大魔法の撃ち合いは大勢の人の目に晒されてしまった。フロリアがロワールにいけば、いきなりギルドマスターはじめ大勢の大人に囲まれて問いただされるのはフロリアには荷が重かった。なので、まずはラウーロだけが行って、事情説明を行うことにしたのだ。

 

 町の近くに大鷲を下ろすと、ラウーロは徒歩で町に向かい、フロリアは亜空間に隠れて、マジックレディスのメンバーに事情を報告。町の状況を調べたラウーロも、もう一度合流して皆で善後策を検討することにしたのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ