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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第22章 血戦
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第461話 C国

 ほんの一瞬、風魔法で加速したフロリアからトパーズは遅れてしまった。


 そして、そのために少佐が転移魔法を発動したときにほぼ体が触れるぐらいまで接近していたフロリアは、そのまま一緒に転移してしまったのだった。


「しまった」


 トパーズは本気で慌てた。

 どうも、本日の"狩り"は思い通りにいかないことが多く、ストレスがたまるのだったが、その最たるものがここへ来て発生してしまった。


 またしても、フロリアが少佐の転移に巻き込まれたのだ。以前に、初めて日本とやらに転移したときには自分も一緒に転移し、先方で離れ離れになったものの結局はすぐに合流できた。

 だが今回は……。


 あのブリキのピカピカ野郎にフロリアがどこに消えたのか調べさせて、すぐに追跡しなければならない。

 だが、トパーズはセバスチャンとの直接の連絡手段を持つことを嫌っていたので、すぐに話すことはできない。

 それに多分、姿を見られるとあとあと、フロリアが困ることになるであろう連中がたっぷりとここにはいる。


 仕方ない。とりあえず、モルガーナとソーニャに合流して、あの娘たちにセバスチャンと連絡を取らせよう。


 トパーズは彼女たちのもとへ引き返そうとして、その時になって2人の魔法使いの気配が消えていることに気がついた。


***


 急に眼の前がグニャリと歪んで、平衡感覚が失われた。

 フロリアはいきなりの事態に困惑しながら、それでもナイフを掴んだ手を前方に突き出す。手応えがあるのか無いのかよく分からない。

 

 ふわふわした雲の中をもがいているのか、水の中で溺れかかっているのか、何とも表現のしようのない頼りない感覚。

 気分がすごく悪くてムカムカする。


 次第に、比喩的表現ではなく「足が地についた」感覚が戻り、何やら聞き慣れない甲高い声が複数、怒鳴っているようだった。

 目を開くと、どこかの倉庫の中のような殺風景な場所であった。

 どこの国の軍服なのかフロリアは知らなかったが、出で立ちからしてひと目で兵士、それもあちらの世界ではなく、フロリアが現代と呼んでいる世界の兵士だと分かる男たちが数名、フロリアを取り囲んでいる。

 フロリアと、その眼の前の床に伏せた少佐。

 

 鋭い叱咤の声と共に、兵士の1人がフロリアの手を強く叩く。握っていた短剣を落とす。

 その刃は赤く濡れていて、眼の前に倒れている少佐の背中にも赤い染みができていて、それが広がっていく。

 少佐は防弾ベストを着込んでいたのだが、防刃効果はないものであったし、転移魔法中の無防備なところを刺されたので、防御魔法の対応もできなかったのだった。


 奇妙な抑揚のある言葉で怒鳴りながら、周囲の兵士達はフロリアを拘束しようとしてきた。

 乱暴に頭を抑えられながら、どうやらここは現代ではあっても日本ではないらしいとフロリアは思った。


"道理でセバスチャンが探し回っても、なかなか少佐の居場所が特定できなかったのか"


 納得するとともに、このまま東アジア人の顔と肌の色をしているが日本人ではない兵士たちに捕まったら碌なことにはならない。

 そればかりか、少佐の方は素早く血止めをしているところを見ると、この兵士たちは少佐の仲間らしい。


 となれば、よく状況はわからないけど、やるべきことは一つだけ。

 フロリアは、今だにいわゆる攻撃魔法は使えないが、魔法そのものは使えるので、いくらでも手はある。

 トパーズと一緒に放浪していた頃にはよく街のチンピラに絡まれていたので、慣れたものである。

 光魔法で、周りの兵士たちの眼の前にフラッシュを焚いたような強い光を発生させる。 

 一瞬の間をおいて、また大声で怒鳴りながら、なんとかフロリアを捕まえようとするが、身体強化魔法で振りほどく。

 銃を抜こうとしている兵士の肘を抑えて、足払いを掛ける。


 このまま少佐にとどめを、と思ったところで、周り中から同じ服装の兵士たちがまるで飴にたかる蟻のように集まってくる。

 数える余裕はないが、数十人は居そうである。


「それなら」


 フロリアは風魔法でジャンプしながら、防御魔法を足元から体の周囲に張り、この場を離れることにした。

 同時に、眼下に見える少佐の頭に向けて収納から取り出したグロックもどきの魔道具で撃つ。

 撃つ瞬間、ほんのゼロコンマ何秒か躊躇したが、今度こそこの女を逃さない、しがらみをここで絶つんだと、言い聞かせながら、数発続けて撃ったのだった。

 抱き起こそうとしていた兵士の腕にも当たったが、このグロックもどきは単なる銃ではなく射撃補正の魔法が効いた魔道具である。

 確実に少佐の頭部にも命中し、その反動で頭が弾けるように揺れる。


 天井の高い倉庫のような建物で、出入り口は結構離れた場所にあるが幅が狭く、そこから他の兵士たちが入ってきているので、それを蹴散らして抜けるのは難しそうであった。

 だったら、壊すまで。


 収納魔法から自家用車ぐらいはありそうな大岩を出す。というよりも射出すると言ったほうが正確だろうか。

 大岩は倉庫の壁に穴を開ける。随分とでかい建物であったが、どうやらプレハブに毛の生えた程度の作りであったらしく、簡単にフロリアが通るには十分な穴があいたのだった。

 そのぽっかりと開いた穴から青い空が覗く。

 フロリアは、その穴を通って外に出たのだが、その時に身体の周囲に張った防御魔法を小さく絞った。

 それがいけなかった。


 兵士たちが持っていたカラシニコフコピーやトカレフコピーの銃弾がフロリアを襲う。

 大部分の銃弾は防御魔法に弾かれるが、数発、防御魔法を破ってフロリアに当たる。

 威力の9割方は減衰していたので、致命傷にはならないが、それでもフロリアは太ももや脇腹に焼串を当てられたような痛みに呻く。

 もし、防御魔法がなかったら数十発の7.62x39mm弾はフロリアの華奢な身体をズタズタに引き裂いていたことだろう。


 外に出ると、その倉庫のような建物はかまぼこ型をしていて、同じ形状で同じ大きさの倉庫が幾つか並んでいるのに気がつく。

 フロリアは高く上がりすぎないように風魔法で翔ぶと、他の建物を飛び越えて、広場を抜けて、木立の中に飛び込む。

 けっこう南の方らしく、雑林は密集している。

 これが、ゴンドワナ大陸の近代的な訓練を受けていない兵士や冒険者なら、見失うところだが、この一瞬に近い混乱の中でもしっかりフロリアの跡を目で追っている兵士がいたのだ。

 

 遠くで鋭く叫ぶような声がしていたと思うとすぐに幾つもの人影が、追ってくる。雑木林に身を伏せて、相手を観察しようとしたが、そのような暇はなさそう。

 迫ってくる兵士たちは躊躇せずにフロリアが消えたと思しきあたりに銃撃を加えてくる。

 フロリアの周囲にもビシッ、ビシッという着弾する音が響く。

 さらに犬の鳴き声。

 フロリアが出血していることは相手も把握している。

 こうして、犬を使って追ってこられれば、普通であれば到底逃げ切れないであろう。


 C国の兵士たちは、カラシニコフのコピーを構えて、フロリアの隠れたあたりを半円状に囲んで徐々に包囲の輪を狭めてくる。

 軍用犬も低く唸りながら、フロリアの血の匂いを捉えている。命令一下で、雑木林に飛び込んでいくだろう。


 兵士たちの指揮官はたっぷりと銃弾をお見舞いするよりも、フロリアを捉えて背後関係を調べる方を選んだ。おそらく見た目が小さな少女のように見えたから、ということもあるのだろう。

 C国語で「抵抗せずに大人しくでてこい」と警告し、しかる後に軍用犬を飛び込ませた。

 しかし、犬たちは血溜まりは発見したものの、そこで痕跡が忽然と消え失せていて、虚しくあたりを嗅ぎ回るだけだった。



いつも読んでくださってありがとうございます。



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