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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第22章 血戦
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第460話 転移

 そのレストランの中で、同時に様々なことが起こっていた。

 

 思わぬ反撃を受けたモルガーナとソーニャは背中に焼串を突き刺されたような衝撃を受けて倒れる。

 多少離れた位置からねずみ型ロボットで観測していたセバスチャンはただちに彼女たちの保護と兵士への反撃を開始した。

 フロリア自身もギリギリの状況であったために報告は遅れることになるが問題はない。

 かねてからセバスチャンは、その主であるフロリアから「自分やマジックレディスのメンバーの行動にはできるだけ介入はしないで。でも、生命の危機だとセバスチャンが判断したら私の判断を待たずに必要と思われるだけの介入をしてちょうだいね:と命じられていたからである。


 自爆攻撃を除けば、ごく単純で威力も弱い風魔法による攻撃しかできないねずみ型ロボットであるが、すでに傷ついて倒れた兵士たちの息の根を止めるには十分であった。同時に収納を持たされている上位機種のねずみ型ロボットは彼女たちの隣に簡易転移魔法陣を展開。


「あ、フィオ……ちゃんの……ねずみだね。……うん、基地に戻ろう」


 霞む眼ながら、自分たちのすぐ隣に広げられた魔法陣に気がついたモルガーナは、その意図を察して、昏倒しているソーニャを転がして魔法陣に乗せる。この動きだけでも背中の傷から大量の血液が吹き出し、頭がぼんやりする。

 それでもどうにか自分自身もソーニャに折り重なるように倒れ込み、魔法陣が発動。

 2人はベルクヴェルク基地に転移したのだった。


***


"この声って、フィオリーナ? "


 いくら闊達すぎるぐらい闊達な性格であっても元来が深窓のご令嬢であった、皇太子妃のフランチェスカは、急変する事態についていけず、夫とともに突っ立っているだけという状況であった。

 足元近くに転がり込んできた異装の女性と黒くしなやかな獣、そして聞き覚えのある女の子の声。

 

 フィオリーナ、と声を上げようとするが、その暇もなく、いきなり夫である皇太子と自らの体の前に黒い膜のようなものがブワッと広がる。

 次の瞬間、低いドンドンドンという物音が響き、膜のあちこちが反対側から押されたみたいにこちらに向けて膨らむ。

 薄そうな黒い膜なのだが、伸縮性もあり丈夫なようで、数十センチも押されて伸びるのだが破れることもなく、またもとに戻っていく。


 周囲から「うぁああ」「ぎゃあああ」という叫び声が満ちて、その合間に


「チッ! 良い機会だったものを!!」


 どこか――多分、膜の上の方だと思うのだけど、渋い男の声で唸りにも似たつぶやきが漏れる。


 膜が急速にしぼみ、視界が明るくなると、フランチェスカたち夫婦の前後にいた騎士、そして前方に固まって自分たちの行く手を遮っていた下級貴族たちが地面に倒れ、血を吹いて、うめいていた。


 そして、その下級貴族たちを、今しがた足元に倒れていた奇妙な格好の女性が飛び越え、その後をやはりカーキ色の服に身を包んだ女性が追いかける。

 銀色の髪がきらめく、小柄な女性。女の子といっても良いぐらいの体格である。

 さらにその女の子に付き従うように黒い獣が追う。


「いったい、何が起きたのだ!?」


 レオン皇太子のつぶやきに、フランチェスカは


「多分、またフィオリーナが助けてくれたんだと思います」


と答えた。


***


 有象無象の下級貴族たちを飛び越えた少佐は、レストランの外に躍り出る。

 前方から騒ぎに感づいた、皇太子の騎士たちが駆けつけてくる。後ろにはフロリアとトパーズが殺気満々で迫ってくる。


「邪魔だ!!」


 少佐はどこかにカラシニコフコピーを落としてしまっていたために、前方に向けて、また魔力弾を散弾のように放ち、騎士たちの真ん中に飛び込んでいった。


***


「こうなれば、仕方ない」


 ようやくレストランの玄関先に出てきて、状況をみたゼノン伯爵には一体何がおきたのか判断ができなかった。

 ただ、自分の取り巻きたちが倒れ、皇太子夫妻の騎士も戦闘力を失い、いまや皇太子とその妻が抱き合うように突っ立っているだけという形である。

 てっきり、取り巻きたちが武器が届かないものの覚悟を決めて、皇太子夫妻に襲いかかって騎士たちと相打ちになったのかと思ったのだ。

 もう少し落ち着いていれば、取り巻きから事情を聞けたかもしれないが、その取り巻きにしたところで爆発的な魔法攻撃を仕掛ける魔法使いの突然の出現や、黒く大きな獣の存在などうまく説明できたとは思えないが。


 ゼノン伯爵としてはこうなれば仕方ない、行くところまで行くしかないのだ、と覚悟を決めるというよりは自棄になったと呼んだほうがふさわしい精神状態で、懐から銃型の魔道具を出す。


「伯爵。これはどういうことだ」


 レオン皇太子の言葉に答えず、伯爵は魔道具を夫妻に突きつける。


「お前たちに恨みはないが、私のものを簒奪したお前の父が悪いのだ」


「!! ――馬鹿なことを! 私を殺したからと言って、あなたに大公位が回ってくることはない。それに父が大公位を襲ったのは祖父の意向だと聞いている」


「やかましい。これは正当な権利を回復するためだ」


 そう叫ぶとゼノン伯爵は魔道具の引き金をひいた。


 使うことはないでしょうが、万が一のためにお渡ししておきます――そう、今回の絵を描いたと言っても良い、異国の商人に渡された、異国産の魔道具である。

 この筒状の先を相手に突きつけて、引き金を引けば、鋭い攻撃魔法で相手を殺すことができると聞いていた。


 もとより、自分自身が手を血で汚すつもりがなかったので、護身用のつもりで預かり、使う予定はなかったので、そのまま半ば忘れていたのだ。

 これがほんの少しでも銃器に対する知識があれば、いや、たとえ知識がなくとも冒険者や兵士のように自ら戦闘行為を行うことを覚悟している者ならば、事前に試し撃ちぐらいしない筈がなかった。

 だがゼノン伯爵は、戦闘など人任せにするつもりだったし、商人の方も大言壮語が常であっても内心は臆病な人間であるとゼノン伯爵を見切っていたので、重量感のある武器を手渡すことで安心をさせようというつもりだったのだ。

 もちろん、累代の国宝ともいうべき魔道具である。後に回収するつもりであったのは言うまでもない。


 伯爵は魔道具の引き金を引いた。

 この魔道具は以前にフロリアが"いたずら"をした、あの銃であった。

 単なる不発であればまだしも、銃は暴発し、伯爵の手首から先は無くなってしまった。

 伯爵は痛みを感じるよりも先に、失われた自分の利き腕の手首から先のあった空間を眺め、それから「ぎゃああ」と叫んで、口から泡を吹いて失神した。

 魔力弾は銃口から出ること無く暴発したのだが、その破片がフランチェスカを襲う。

 直接銃撃されたほどではないにしても、普通であれば結構な怪我になるところ、フランチェスカが常に身に着けているネックレスが光ると、破片が弾かれてフランチェスカの身まで届かなかった。以前、魔道具による昏睡状態から目覚めた時にフロリアに渡された防御魔法を付与されたネックレスが役立ったのだった。


***


 フロリアはとっさに手にしていたP90をしまう。この射線では少佐に当たらなかった魔力弾はその前方の騎士たちにあたってしまう。

 すでに少佐の攻撃を受けているが、全員が倒れたわけではない。フロリアとしては無関係な騎士たちまで巻き添え攻撃をすることはできれば避けたかった。

 だが、その中途半端な追跡がこれまで何度も少佐に逃げられた原因であることは痛いほど分かっている。


 今度は逃さない。

 そのために、危険は承知の上で接近戦を仕掛けるつもりであった。

 モルガーナを真似て、魔力付与をした短剣を作っていた。それを使うべきときである。風魔法で加速すると、体当たりしながら、少佐の背中にナイフを突き立てるために接近した。

 そのタイミングで少佐は転移魔法を発動したのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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