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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第46話 オーガ

 下町グループの犬は、戦闘用として交配してできた品種で、体はそこまで大きくないが、太くてガッチリとした脚に、一度噛みついたら、死ぬ迄離さないと言われるほどの牙を持った犬種である。前世の犬種に詳しい人間が見たら、ピットブルという名を思い出したことであろう。

 その先祖の血が目覚めたのか、主人を守るためか、オーガがいよいよ接近してくると、急に震えが止まり、その手首に向かって突進した。

 だが噛みついた、と思った瞬間、犬の体は軽く一振りしたオーガの腕によって、跳ね飛ばされて、10メートルほども離れた木の幹に叩きつけられる。爪があたったらしく、腹が裂けていて、この一撃であっさり絶命した。


 次は子どもたちである。

 オーガは改めて子どもたちに向き直り、その腕を振り上げた。


 しかし、オーガの腕は子どもたちに届くことは無かった。

 ヘタリ込んだ子どもたちの後ろから、まるで黒い稲妻のようにトパーズが駆け抜けて、オーガの巨体の脇をすり抜ける。

 その瞬間、トパーズの前足の一振りがオーガの首筋を切り裂く。風魔法を孕んだトパーズの前足は、オーガの腕よりも更に凶悪な存在なのである。


 さすがに一太刀で首が落ちることはなく、オーガはよろよろと前に進む。

 リーダーは恐怖で引きつった顔のまま動けないでいると、その脇を今度はフロリアの操剣魔法によって、投げナイフが数本すり抜けて、オーガの顔に突き刺さる。

 次の瞬間、ナイフは小さく破裂して、今度こそオーガを即死させるのであった。


「……あ、……あ、」


 リーダーは何か言おうとしているが何も言えずに突っ立っている。


「危ないですよ。槍をおろした方が良いです」


 高速飛翔から減速して着地したフロリアが落ち着いた声をかける。リーダーは自分で自分を刺してしまいそうだった。


「あ、あんたが助けてくれたのか」


「危なかったですね。怪我をした人はいますか?」


 地面に座り込む子どもたちを見ると、みんな一様に怯えてはいるが、怪我はなさそうであった。


「トパーズ、ご苦労さま」


「ふん、ちょっと運動不足だな。一撃で片付け損なうとは」


「ね、ねこが喋った!」


「誰が猫だ? 食われたいのか!?」


 トパーズが凄むと、子どもたちはひぃ~という声を上げて、また腰を抜かす。


「脅かしちゃ駄目だよ、トパーズ。

 あなた達ももう大丈夫だから、町に戻って応援を呼んできて下さい」


「応援? もう、このデカいのを倒したじゃないか」


「まだ、残り4頭がその辺をうろついてるの」


 子どもたちは顔を見合わせ、「嘘だろ」「怖い」「逃げようぜ」などと言い合う。


「そう、早く逃げて。それでギルドに行って、だれか大人に知らせて欲しいの」


「あ、ああ。デカい魔物が出たって言えば良いのか?」


「オーガよ。オーガが出たって報告して」


「オーガ!!」「これがオーガか」「初めて見た!」


 フロリアは首から上が悲惨な状況になっているオーガのそばにかがむと、どうにか残っている耳を切り取る。

 オーガの討伐証明部位である。

 素材目的の討伐以外にも、時にオーガが人里近くに出て、討伐依頼が出ることがある。それを受けた冒険者が依頼を達成すると、耳を切り取り、討伐証明部位として持ち帰るのだ。

 

「これを見せれば、ギルドの人ならすぐに判るから、持っていって」


 フロリアは血に濡れた耳を布で包んで、リーダーにわたす。


「早くして! 私、他の人たちを助けにいかなきゃ」


「ま、待て。俺も行く」


 リーダーがかすれた声で叫ぶ。


「女に任せっきりで逃げられるかよ。おい、お前たちだけ町にもどれ!!」


 リーダーはフロリアから受け取った包みを子どもたちに渡すが、「怖いよ」「俺たちだけでまたこれが出たら、死んじまう」「リーダーも来てよ」など口々に訴える。


「駄目だ。俺は逃げるわけにはいかねえんだよ」


 フロリアとしては、高速移動が出来なくなるので、正直邪魔だなあ、としか思わないが、このやり取りを聞いていて、初対面の時に彼に抱いた嫌な印象はかなり改善された。


「仕方ないなあ。トパーズ、白虎を貸して」


「ふん。無駄な使い方だ」


 トパーズは文句を言いながらでも、眷属の白虎を一頭、出す。


「この子なら、またオーガが出ても大丈夫よ。門のところまで一緒に行ってくれるわ」


 ところが、今度はこの白い大猫が怖い、一緒に居るのは怖い、と言い出す。

 ここから町までなら、魔物らしい魔物が居ないだろうとは思っていたのだが(少なくとも、探知で判る範囲には居ない)、もしかしてオーガに森から押し出されて、街道で彷徨く魔物がいるかも知れない。

 なので、白虎の護衛は外せないのだが、これでは埒が明かない。


「あ、そうだ。――ニャン丸。出てきて」


 フロリアは自分の従魔になったニャン丸を呼び出すと、「ニャン丸、白虎と一緒にこの子たちを町の大門まで送って。大門の側まで送ったら、戻ってきてね。

 さあ、あなた達、この猫は人間の言葉が判るし、白虎を抑えてくれるから大丈夫よ。この子と一緒に早く行って」


「にゃあ~~」


 ニャン丸は白虎の背に飛び乗ると、子どもたちを促すように鳴く。

 リタはもう仕方ないけど、その他の人間の前では人の言葉を話すな、と命じてあるので、それを守ったのだ。


 子どもたちはようやく、立ち上がるとあるき出す。

 これで、この子たちは大丈夫だろう。


「おい。オーガはまだ居るんだろ」


 リーダーはフロリアを探るように言う。


「うん。あっちの方角に4頭。また動き出してる。近くに他の冒険者は居ないけど、今日は森の中にかなりの人数が入ってるみたいだから、放っとけない。早く行こう」


「お、おう」


 リーダーは無惨な死骸を晒す犬を見る。


「あ、そうだ。このままだとアンデッドになるかも」


 フロリアはオーガと犬の死骸を収納にしまう。

 急に死骸が消えて目を白黒させているリーダーに「犬は後で返すね」とフロリア。


「さ、行きましょ」


「分かった。こっちでいいんだな」


 リーダーは手が白くなるほど、槍を握りしめて、フロリアの前に立とうとする。


 意外とかっこよい。フロリアが何の気無しに呟くと、それが聞こえたらしく、こんな非常事態なのに、あっという間にリーダーは耳まで赤く染まった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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