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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第22章 血戦
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第459話 レストランの血戦3

 後から理由付けすれば、少佐のこの時の決断はそんなふうに解釈出来るのだろう。しかし、実際には常に冷静で合理的な行動で一度はグレートターリ帝国を閨房から半ば支配することに成功したにもかかわらず、この時の少佐はやはり異常な興奮状態で大切なチップをそれほど重要度の高くない賭けに突っ込んでいたのだった。


 だが、そうした少佐の心理はもちろんモルガーナとソーニャ、そしてトパーズには分かる道理もない。

 そもそも、ここで少佐と彼女の率いる近代的な武装をした兵士たちとの戦闘など想定してすらいなかったのだ。

 

 急に厳しい戦闘に突っ込んでいったため、彼女たちも少佐以上に逆上(のぼ)せてしまっていて、皇太子夫妻のことなど頭から抜け落ちてしまっていた。


 ただ、2人と1匹はとにかく少佐の首級をこの場で挙げることだけを考えている。


 少佐は自らの前面に張った防御魔法の隙間からカラシニコフもどきをソーニャめがけて撃ち込み、それがソーニャの防御魔法に阻まれて効果がないとみるや、すぐにまた手榴弾を投げてきた。


 今度は通路ではなく、その脇の薄いというかパーテーションで仕切られた部屋の方に転がってきた。

 ソーニャはとっさに防御魔法を3重4重に重ね掛けしながら、部屋の外に転がりでた。 そのすぐあとを爆風が襲う。


「あっちちっ!!」


 ソーニャよりも、通路のほうにいたモルガーナが爆風を受けて、慌てて逃げながら防御魔法を張る。


「焦げちゃうじゃないかっ!!」


 爆風が晴れるのを待たずに、その煙に向けてP90もどきの魔力弾を撃ち込む。

 反対側からカラシニコフコピーの銃弾が飛んできて、モルガーナの防御魔法にあたり、ブスブスと音を立てる。


 少佐の意識が一瞬、モルガーナとソーニャの部屋越しの銃撃に傾いた。

 その隙を見逃すトパーズではなかった。自分に対する少佐の警戒心が途切れたのを感じるや、部屋の横の通路を走る。

 もとよりさほど長い通路ではない。トパーズの脚力ならば1秒もかからないほど。

 少佐の部下の生き残りの数人は、黒豹の姿に戻ったトパーズの黒い影が不吉な怪物が滑ってくるかのように駆け寄るのに気が付き、カラシニコフコピーを構えようとするが、先頭の一人はその余裕もなく、トパーズの前足の一撃で両腕を飛ばされ、金属のカラシニコフコピーの銃身も真っ二つにされてしまう。


「舐めるな!!」


 少佐は即座にトパーズに向き直ると、無属性の攻撃魔法を放つ。

 

 戦闘職の魔法使いは、ともすればパーティの後衛にいて、比較的距離の離れた相手を一方的に攻撃するというパターンが多い。近接戦を得意とするモルガーナはかなり珍しい存在であり、フロリアはもちろんアドリアもルイーザも近接戦自体はそれほど得意ではない。

 少佐も例にもれず、本来の戦闘スタイルは距離をとって攻撃するのであったが、その割には敵に懐に飛び込まれても対処する方法を複数持っていた。

 そのあたりはグレートターリ帝国内部での成り上がりの抗争を繰り広げていた頃から、戦闘、暗殺の経験が豊か(仕掛ける方も狙われる方も)な少佐ならではのことであった。

 少佐の放つ攻撃魔法は特に狙いを定めてはいない。とっさに周囲にばらまくのだ。

 トパーズの黒くしなやかな体にいくつも無属性の魔法の衝撃が襲うが、それ以上に少佐の周りにいた生き残りの部下もダメージを受ける。

 この自分を中心に魔法を一気に爆発させるような防御兼攻撃でさすがのトパーズも一瞬、とどまる。

 少佐はその一瞬を逃さず、踵を返すとトパーズや、モルガーナやソーニャのいる方角とは別の方角に走り出す。

 

 頭に血が上り、今度こそフロリアの仲間を血祭りにあげる、そう決心していた筈が不利を悟るとあっという間に逃走体制に移行する。部下を平然と見捨てる。


 トパーズは、この決断力はフロリアに遥かに勝る、何度追い詰めても結局は逃げられるのは、この状況判断の速さと思い切りの良さの差なのだろうな、などと割とのんきなことを思いつつ、ソーニャ達に「私は少佐を追うぞ。気を付けてついてこい。まだ部下どもは全滅はしておらぬぞ」と声をかけてから少佐の後を追う。


「オーケー! すぐ追っかけるよ!!」


 もはやがれきの塊になった部屋の向こうからモルガーナの声が応える。

 モルガーナたちも駆け出したいところだが、まだ少佐の部下は全員が無力化されたわけではない。半死半生でも、指が動けばカラシニコフコピーの引き金を引くぐらいはできるのだ。

 そのことはモルガーナもソーニャも分かっていて、部下たちの気配を魔法で探る。

 これがもし、魔法使いが相手なら、魔力の状況を見ることで様々な事がわかる。だが、相手は非魔法使い。

 気配から相手が無力化されているかどうかを確認するには時間をかけて慎重に行う必要がある。だが、モルガーナたちはトパーズの後を追うのに気が急いて、中途半端な気配探知だけでその場を通り過ぎようとした。

 どうせならば、廊下に伏せる兵士たち全員に攻撃魔法でも加えてトドメをさしてから通り過ぎれば反撃をされることはなかったのだろうが、モルガーナもソーニャもフロリアほどの"あまちゃん"ではなかったが、そうしたことを即座に思いつけるような人格ではなかった。

 まだわずかに戦闘力を残している兵士の1人が、通り過ぎようとするその背中に銃口を向けて引き金を引いた。


***


 少佐は風魔法を駆使して、レストランの中を疾走する。

 人間離れした速度であるが、トパーズから逃げ切れるものではないのは少佐自身よくわかっている。

 転移魔法を使いたいところだが、そのために若干なりと集中する時間が欲しい。

 だが、あの黒豹に対して警戒心を少しでも緩めて、魔法発動のために集中などする余裕はない。

 とりあえず、レストランのメイドかウエイターか知らぬが、従業員がいるあたりに飛び込んで、彼ら彼女らを突き飛ばし、その間をすり抜ける。

 肉の壁代わりに、幾分かでもトパーズの追跡の手が緩めば……という意図であるが、フロリアならばともかくトパーズには通用しない。

 あえて無関係な者を切り刻んだりはしないが、行く手の邪魔をするようならば風魔法の爪を躊躇することなどはないのだった。


"人が固まっている”

 

 すぐ近くに大勢の人間が固まっているのが察知できた。ウエイター数人程度とは違う。

 少佐はそちらに進路をとる。


***


 ゼノン伯爵の取り巻きの下級貴族たちと、皇太子夫妻と護衛騎士との睨み合い。

 その場に見たことのない格好の女が走り込んできた。

 現代戦の兵士の格好なのだが、近世程度の文化レベルにある人々の眼には奇異に映るだけ。その女が人間とは思えない速度で、睨み合いの真っ只中に走り込んでくる。


 皇太子夫妻の後ろにも2人の護衛騎士のうち一人が守っていたが、その騎士が異常な速度で接近する女を止めるために、剣で防御するのが間に合わず、また止めきれる速度でもないと判断して体で受け止める判断をした。

 

 女は言うまでもなく少佐である。10代後半の女性の平均的な体格で片腕はない。その状態で、戦場用に比べれば簡易的であるとはいえ金属製の鎧を着込んだ成人男性の騎士のまるで相撲の立会いのように体当たり気味の突進による防御はそれなりに効果的であった。

 とっさにショルダータックルの体制になった少佐が騎士の懐に飛び込むような形になる。

 そのまま絡み合うような形で女と騎士は転び、女は床を転がって、皇太子夫妻の足元のあたりで止まる。

 止まるやいなや、またしても防御魔法を爆発させるように放射しようとした。

 しかし、一回目の放射に比べて、コンマ数秒程度タイミングが遅れた。

 結構な速度で騎士に突っ込んで、相手を半ば跳ね飛ばしたとはいえ、自分自身にもそれなりのダメージがあったということなのである。


「遅いわ!!」


 後続のトパーズが矢のように飛び込んできて、そのまま爪の一撃を入れる。

 少佐の防御魔法が完全に間に合わずに、衣服の一部が切れ、パッと血しぶきが上がるが致命傷にはならない。

 少佐の魔力が一気に膨らむ。今度こそ無属性の攻撃魔法を爆発的に放射するつもりである。トパーズは多少の攻撃を受けるのは覚悟の上で相打ちで少佐の息の根を止めるつもりでさらなる爪の一撃を加えようとした。


「その人達を守って!!]


 フロリアの悲鳴にも似た声。


 ベルクヴェルク基地に飛んで、負傷したアドリアの様子を見に行ったフロリアであったが、どうやら治療が間に合うことがわかったので戻ってきたのだった。

 セバスチャン経由で戦況を見守ってきたので、少佐を片付ける千載一遇のチャンスであることはわかっていたが、この場所で戦闘をしては皇太子夫妻が巻き込まれる。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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