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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第22章 血戦
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第454話 馬車を襲う

 市内を移動するための小さめな馬車に、食品を積んで、問題の倉庫からゼノンの居るレストランへ向かう。いや、食品を積んでいるように見えるが、それは表面だけで内側には剣や槍、弓が積まれている。

 そして、御者と同行している商会の店員2名の合計3名は、傭兵という触れ込みの"隠形"の工作員である。

 

 大きなヤマを控えながら、3人とも平然とした表情である。

 気負った様子も無ければ、緊張で強張ってもいない。

 レストランで無駄に騒いでいる下級貴族達とは、踏んできた場数が違う――そう思わせるものがある。

 

「あれを襲撃するのはけっこう大変ね」


とアドリア。

 

 馬車が支店兼倉庫を出て、レストランに向かう道筋で比較的人通りの少ない場所に近づいてきた時点で、その近辺に待機したアドリアとルイーザはひと目をはばかるように近づいていった。


「そうですね」


とルイーザも同調する。


 目立っても良いので、この馬車を目的地に着けないようにするのであれば対して難しくはない。

 出力を絞ったアドリアの雷撃で片がつく。

 しかし、雷撃はアドリアの二つ名にもなっているトレードマークである。それを使っては、後々にマジックレディスが他国の政治に関わったとして問題になりかねない。

 マジックレディスのバックには自由都市連合のフライハイトブルクの冒険者ギルドがいるのはもう自明のことである。国際的な機関であり、どの国とも中立というギルドの建前が崩れかねない。

 

 ソーニャは、アドリアならば雷撃を使わずともうまくやる、と楽観視していたが、実際の馬車を見たアドリアは、意外と難問にぶち当たったと感じていた。

 いや、馬車自体は別に武装している訳では無い。単なる馬車に過ぎないが、その御者と2名の店員に扮した"隠形"の構成員が難物なのだ。

 魔法使いではない、という報告はセバスチャンから受けていた。


「しかし――」


 非魔法使いの普通の人間であっても、油断出来るような相手ではないことは、アドリアとルイーザの目にははっきりと判った。

 鑑定魔法という特殊な魔法を使える訳ではないのだが、長年の経験による標的の強さの見積もりは、ベテラン魔法使いの特技にもなっているのだ。

 いや実際には、ごく低レベルの鑑定魔法を無意識の裡に使っているということなのかも知れないのだが……。


「下手したら、向こうが魔道具を持っていたら、足元をすくわれますね」


「ええ、ルイーザ。でも、黙って通す訳にはいかない。予定通りやりましょう」


 標的の荷馬車をいきなり狙うことはしない。

 狙うのはその前を進んでいる、他の関係の無い荷馬車である。


 アドリア達は先回りして、その馬車が道の細いところに差し掛かったところで仕掛けた。馬車の下の地面の石畳が割れて、車輪の1つがはまり、馬車は動けなくなったのだ。

 ルイーザの土魔法をあらかじめ、その場所に仕込んでおいたのは言うまでもない。


 その荷馬車(やはり、別の貴族の邸に日用品や食品を納品するためのものだった)の御者や付き添いの店員がすぐに降りてきて、わらわらと沈んだ車輪の周りに集まる。

 無防備に道やその両脇の建物に背を向けて、車輪に集中するあたり、この前をいく馬車は荒事にまったく関係の無い馬車だとよく分かる。


 道はそれほど広くないところで、それを抜ければまた荷馬車2台分が交差することも出来るのだが、ここでは交差も追い越しもするスペースは無い。


「まいったな。早くお届けしなきゃ、旦那様にお叱りをうけるぞ」


 店員は青い顔になる。都市間の交易隊ならこの手のトラブルで遅れることは日常茶飯事で問題になることは無いのだが、環境が整った町の中で遅納はいかにも困る。店の信用にも関わることだった。


 そこへ、後ろから標的の馬車が近づいてくる。

 

 御者は、その馬車に両手を振って合図し、「済まねえ。助けてくれねえか?」と呼びかけた。

"隠形"の構成員でもある、後ろの馬車の3人は一瞬、互いに目配せしたが、「まあ、しょうがねえ」と言わざるを得なかった。この場所で立ち往生されたら、こちらも目的地に着けなくなってしまう。

 引き返して大回りする方法も有ったが、到着時間が怪しくなる。


 御者を除く2人は立ち往生した馬車に近づく。


「済まないが、馬車を押して貰えないか」


 構成員2名と、巻き込まれた方の馬車の店員2名の4人で押して車輪を轍から押し出そうというのだ。

 構成員側としては承諾せざるを得ない。

 立ち往生した馬車の御者の合図で4人が馬車を押し、御者も馬に鞭打って全力で曳かせようとする。

 馬車はゆっくりと動き出し、10秒ほどで轍を抜ける。


 皆がホッとした瞬間。

 いつの間にか、近くまで歩いてきていたおかみさん風の女性が軽く手を動かす。

 女性はルイーザの変装である。

 ルイーザはマジックレディスで陣形を組むときには後衛であるが、それだけにある程度の距離から攻撃魔法を放つのは得意技。

 この時もほとんど予備動作無しで、麻痺魔法を続けざまに放ったのだった。


 同時に反対側から近づいていた、どこかの貴族家のメイドといった雰囲気の女性が、標的の馬車の御者にスムースな動作で拳銃型の魔道具を出して撃つ。

 言うまでもなく、アドリアの変装である。

 魔道具はフロリアも愛用しているグロッグ型魔道具――ではなく、ワルサーP38を模したものである。

 性能的にはフロリアのグロッグとだいたい同等なのであるが、とある映像作品でこの銃の形を気に入ったアドリアがセバスチャンに造らせていたのだ。

 今回はいつものP90もどきで魔力弾をばら撒くというよりも、御者(に変装した構成員)のみ無力化できれば良いので、これを使ったのだ。


 意外にも不器用なところのあるアドリアはちょうどよい威力の攻撃魔法を使うのがけっこう難しいのだ。

 つい、やりすぎてしまう……。


 ルイーザは、馬車を押していた4人を無力化する麻痺魔法を放つと同時に、その巻き添えを食らった馬車の御者の前までスルスルと移動して、続けて麻痺魔法を一つ放つ。

 御者は御者台の上で振り返りながら、なにか言おうと口を開けた状態のまま麻痺させられ、地面に落ちる。


"ひどい怪我をしなきゃ良いけど"

 

 そんなことを考える余裕のあったルイーザだが、その瞬間に「危ない」という鋭い声に反射的に伏せる。

 その頭の上、ギリギリを投げナイフが通過する。

 

 ルイーザが背筋が凍りつくような思いを味わいながら、舗装されていない地面を転がる。それと同時に、道の両側の建物の屋根の上で先程まで呑気にカァーッとか鳴いていたカラスが、ナイフを投げた男――もちろん、店員にばけた"隠形"の構成員である――に襲いかかる。


 カラスはセバスチャンが日本での目とするべく開発したロボット。

 今回の作戦のために、念の為に少数だけ配備してあったのだ。基本的に姐さんたちの邪魔はしないように、との指示をフロリアから受けていたが、彼女たちでは対処が難しい事態だと判断し介入したのだ。


 御者に化けた構成員の方を担当したアドリアは、ルイーザが店員に化けたほうの構成員の無力化に失敗したのに気がついた時にはすでにナイフが投げられた後。

 次の瞬間には続けて、もう一人の男がナイフを投げようとしていたが、そこにカラスが飛びかかり、一瞬の隙が出来た。


「やらせないよ」


 アドリアはワルサーP38型魔道具を連射して、男2人も片付けた。

 

"隠形"の構成員達はある程度、魔法を防御する効果を付与したベスト状の魔道具を衣服のしたに身に着けていたのだ。

 さらに、このちょうどよい場所で、普段ならば町中で発生しないようなトラブル(馬車の車輪が轍に取られる)がおきたことで、最初から敵の襲撃の可能性を予測し、魔道具の性能を最大限に発揮させると同時に、毒を塗った投げナイフをいつでも投げられるように手元に隠し持ったのだった。


 そして、臨戦態勢に入っていたのは、御者に扮した構成員も一緒だった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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