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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第21章 嵐の前の
442/477

第442話 蠢動

「いやあ、ただのパーティだったのにハラハラ・ドキドキだったよね」


「後で、アルバーノ会頭さんとピエトロさんが困ったことになったんじゃ……」


「気にしなくても、良いさ。ファーレンティンの爺さんもそろそろ本気で呆けてたし、もうかつての錬金術師の超大物だった時代とは違うからね」


 昨日、ヴィーゴ商会のパーティが盛り上がってきたところで、商会の若い番頭がフロリアたちに耳打ちしてきた。

 あまり良くない人たちが来たので、裏から出られたほうが良いとおもいます、と。

 するとマジックレディスのガードの役目を果たしていた商業ギルドのアルバーノ会頭とピエトロギルドマスターは「ここは私達が引き受けるので、早くいきなさい」と言ってくれた。

 

 その会話が終わらないうちに出入り口の方で、騒ぎが起きる。

 聞き慣れた声で「あの娘はどこだ! 隠すな!! さっさと出せぇ!!」という怒鳴り超えが響く。

 ファーレンティン大魔道師である。


「ありゃりゃ。頭の中身はともかく、体は元気だねえ」


 アドリアは苦笑いすると、アルバーノ老に軽く挨拶すると勧めに応じて、裏口から逃げることにした。

 

 こうしてせっかくのパーティだったが、ごちそうにいくらも手を触れる前に立ち去らなければならなかった。おしゃれも見てくれた人はほとんど居なかった。


「仕方ないねえ。それにしてもアルバーノの爺さんたちにも借りができちゃったねえ。あの人達も悪い人じゃないんだけど、老獪な政治家だからね。

 いずれ厄介事を持ち込まれるかも。でも、考え方によっちゃ、今後の冒険者ギルドのマルセロ婆さんへの牽制役になってくれるかもね」


 アドリアは平然としている。

 まあ、このぐらいのことは慣れっこなのかもしれないが。


 皆で朝食を食べていると、ジューコーのポンツィオ工房のピーノ親方が訪ねてきて、ひと騒動あった。親方は昨夜のパーティに出ていたのだけど、長年懸想しているアドリアを遠目に見ただけで近寄ることすら出来なかったので、翌朝になってノコノコ現れたのだ。

 

 しかし、いつものように門前払い。

 モルガーナやソーニャは、冷淡なアドリアの言動に鼻白むのだが、アドリアは平然としている。

 ルイーザは「いい加減諦めて、適当な嫁を探せばいいのに……」と言っている。若くして名門工房を継いだピーノ親方ならば、いくらでも良いところのお嬢さんを娶ることができるのに、かつて一目惚れしたアドリアを追いかけ回し続けているのだ。


 騒動が一段落ついて、落ち着いたところで、セバスチャンからフロリアに報告があるという連絡が来た。

 フロリアはマジックレディスのメンバーに話すと、「それじゃあ、亜空間に入れておくれよ。あそこだったら安心して話ができるからね」というアドリアの言葉に、皆で亜空間に入った。

 使用人頭のパメラおばさんに、ルイーザが1時間程度アドリアの書斎で相談がある、ややこしい相談なので、その間は訪問者などがあっても呼ばないでくれと断る。

 普段からミーティングの邪魔をすることは無いのだが、皆で亜空間に籠もっているときに、書斎を開けられて行方不明になったと思われても困る。


 亜空間に入って、人を駄目にするソファもどきに皆で輪になって座る。その中心に体長が30センチ程度の小さなロボットがトコトコと歩いてくる。デザインはセバスチャンをはじめとしたベルクヴェルク基地の執事ロボットと同じである。


 このちびロボットは、フロリア以外にはスマホ型魔道具でしかセバスチャンと連絡が取れない状況を改善すべく作成したものである。

 外界ではスマホ使用で良いが、こうして亜空間などに集まって皆で話し合う時に、セバスチャンのみがスマホ参加というのも不便である。

 現代日本のリモート会議システムにヒントを得て、すでに購入してブルーレイ再生機として活躍していた液晶テレビに魔道具を繋いで、ベルクヴェルク基地のセバスチャンと会話できるようにしてみたのだが、無表情で機械音声で喋るセバスチャンがテレビ画面にでてきても、あまりピンとこなかったのだ。

 それで、音声機能と簡単な歩行のみができる、いわば外部端末のようなちびロボットを作って、セバスチャンの言葉を中継させているのだ。

 これだと小さなセバスチャンが直接、この場所に来ているような気がして、マジックレディスの皆から好評だった。

 なお、液晶テレビモニタの方は、図や画像が必要な時に活躍する。


「さて、ご報告すべき事がございます」


 ちびロボットはもったいぶった口調で始めた。

 セバスチャンも現代日本のドラマやアニメをよく見ているらしく、最近芝居がかった喋り方をすることが増えている。

 

「グレートターリ帝国の本国の「機関」で動きが観測されています」


「機関」とは軍の諜報組織で、少佐が牛耳っていた方である。

 

「それって、少佐がこっちに復帰したってこと?」


「いえ。それが少佐の存在を確認できてはおりません」


「それじゃあ、どう()()()いるっていうのさ?」


「正確には、少佐の配下の諜報部員たちの行方が知れなくなっていっているのです。すでに10名以上、行方不明になっています」


「セバスチャンのねずみ達が探しても発見出来てないの?」


「はい。どこに消えたのか、痕跡らしきものも見つかっておりません。消えた諜報部員たち性別、年齢、魔法使いであるか否かについては特に傾向はなく、ただ少佐が健在であった当時は、少佐の近くにいた者ばかりという一致点があります。

 それから、彼らの失踪について、「機関」の内部でも密かに問題になっている様子です」


「じゃあ、任務で秘密裏にどこかに派遣されているって訳じゃないのね」


「はい。人数は10名程度ですし、もとより諜報機関のようのところでは構成員相互の連絡を密にとっていることは無いので、「機関」上層部が密やかに騒いでいるだけなのですが」


 確かにスパイが大勢の仲間のスパイの素性や動向を知っていてはまずい。捕縛されて魔法薬でも使われたら吐かずにはいられないのだから。


「セバスチャン。帝国だけじゃなくて、大陸中にねずみを配置しているのでしょう? その探索網にも引っかかっていないのですね」


 ルイーザの言葉に「おっしゃるとおりでございます」とちびロボットは肯定した。作りがかなり簡素なので頭を下げたり、横に振ったりという機能は無い。

 なので、すべて明確に言語化しなければならないのだ。


「場所によって濃淡はあっても、諜報部員が狙うような重要拠点は間違いなく監視していますよね。にもかかわらず引っかかっていないということは、任務のために帝都から消えた訳ではない、ということになりますね」


「どこに消えたかも不明だけど、何の目的で消えたのかも分からないよね」


「不明でございます」


「少佐は関わっているのかどうかもわかんないんだよね」


「はい」


「もし関わっているとしたら、こっちに感知できない転移魔法を手に入れたってこと?」


「それじゃあ、どこにでも好き勝手に移動してこっちを攻撃できるの? 厄介なことになったものね」


「これまでの経緯からも、その可能性が高いことは否定できません」


「となると、どういう対策が取れるかな」


「やはりねずみ型ロボットを網羅して、監視を強化していくべきかと存じます」


 あまりにこの世界に対するベルクヴェルク基地の監視を強化することをフロリアが嫌がるので、セバスチャンはかなり好き勝手をやっているとは言っても、どこかで遠慮しているのだが、そのハードルを一つ超えると宣言しているのだ。

 そして、マジックレディスのメンバーには言わないが、衛星軌道上からの監視体制も強化する旨の許可も、セバスチャンはフロリアに求めていた。


「さらに、監視のみではなく、少佐の使っている転移魔法を今の情報でわかる限り、分析して何らかの弱点が無いかを研究していきます」


 割りと通り一遍な対策だが、他に効果的な案は誰からもでなかった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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