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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第44話 波乱の予感

 夜通し歩いて、ビルネンベルクに帰ってきたので、フロリアはかなり疲れていた。なので、ギルドに報告だけすると、すぐに「渡り鳥亭」に行って、部屋を再び借りると(前の部屋が空いていた)、満足な食事も取らずにすぐに部屋に籠もる。

 リタが居たら、しばらく寝かせて貰えなかっただろうが、買い出しに出ていたので、フロリアにとっては都合が良かった。

 部屋で1人になるとすぐに亜空間に入り、拗ねていたブラウニーのご機嫌を取り(今回は予め言っておいたので、すぐに機嫌は直った)、ベッドに倒れ込むようにして眠りに着いた。


 目が覚めて、軽く汗を流し、亜空間から出てみると、もう薄暗くなっている。

 階下に降りると、子犬のようにクルクルと忙しく立ち働いていたリタが目敏くフロリアを見つけて、抱きついてくる。


「苦しい……」


 リタの豊かな胸に顔を埋めて、フロリアが呻く。


 ひとしきりスキンシップが済むと、リタは「フロリアちゃん、今度は盗賊退治したんだって? 町中で噂が凄いよ」と言う。


「いや、あれはジャックさん達が……」


「「剣のきらめき」は町一番の冒険者だけど、あんな凄いのは無理だって、みんな言っているよ。盗賊たちは歩かされて弱っていたけど、怪我ひとつ無かったって。凄い魔法を使ったんでしょ!」


「よく覚えていないので……」


「またまた隠してぇ」


 リタは他のお客も居るのにあまり気にせずにそんな話をひとしきりしてから、


「あ、そう言えば冒険者ギルドから人が来て、フロリアちゃんが起きたら、もう一度顔を出せってさ」


 それを早く伝えて欲しい。


 フロリアは、夕食の時間が終わるまでに戻らなかったら、食事は残しておかなくても良いと言って、宿を出て冒険者ギルドに向かう。

 そろそろ日暮れが迫っていて、町の外に採取に出ていた見習い冒険者や、成人の冒険者はそれぞれに薬草や獲物を抱えて、買い取り窓口に並んでいる。

 その脇を通って、ギルドの受付の方に行くのだが、フロリアに気づいた冒険者達はヒソヒソと話している。


 あまり気分は良くないが、直接アプローチされるよりはマシか、……フロリアはそう自分に言い聞かせながら、ギルドの建物に入ると、すぐにソフィーが気がついて、フロリアを2階のギルドマスターの私室に案内する。


「よお、来たな、お嬢ちゃん」


 ガリオンが機嫌よく、フロリアを迎える。


「まあ何だ、お前さんが留守の間に下の連中には、抜け駆けするなよって、脅していたんだがな。見事にそれをぶち壊しにしてくれたもんだ。もう冒険者だけじゃなくて、町中で話題の的だぞ」


「……すみません」


「まあ、盗賊の好きなようにさせる訳にゃいかねえからな。それにしても、あんなに見事にとっ捕まえたのなんて初めて見たぞ。ジャックは1人逃げたって言っていたみたいで、それが気になるがな。

 今、代官のファルケの手のものが引き取って、尋問しているんだが、どうも裏があるっぽい」


「裏ですか?」


「ああ。ただの盗賊って訳じゃなくて、何か別の目的があるようだ。

 少なくともただの盗賊は、ファルケが頑張ってるから、しばらくこの町の近辺じゃ見かけなくなっていたからな」


「盗賊の目的って、荷物を奪う以外になんかあるんですか?」


「うむ。パッと思いつくのは通商破壊だな。町に外からの交易品が入ってこなくなると、経済が回らなくなる。それを目的に敵が通商路を破壊するってのはよくある手だよ。

 特にこの町なんかは交易が途絶えるとあっという間に干上がっちまう。

 だが、今のところ、ハイネスゴール伯爵家には深刻な政敵なんぞ居ないし、この国自体を狙う、他国の連中ならこんな田舎町から始めたりはしない。

 ちょっと理由が判らないんだ。

 だから、ファルケがけっこう張り切って尋問してる。それで、確かに黒幕が居るっぽいのは間違い無さそうだ。あいつらは"旦那"っていう奴の命令で動いていたそうだ。

 そのつなぎ役が、おそらくお前さんが逃したっていう離れたところにいた奴だろうな。

 それを取り逃がしたのは残念だが、今更言っても仕方ねえ。

 とりあえずは捕まえた奴から知ってることをとことん絞り尽くすんだ。ま、2,3日で判るだろうさ」


 そしてガリオンは、一通り尋問が終わったら、盗賊を捕縛した報奨金が商業ギルドと代官所から出ると言った。商人の間では、特に依頼を出していない場合でも街道の安全を守るのに功績があった場合に備えて、こうした資金をつみたてているのだそうだ。

 さらに尋問が一通り終わったら、処刑されない者はおそらくは犯罪奴隷に落とされて、鉱山か荒れ地の開拓などの危険で消耗が激しい労働に充てられることになるのだが、その奴隷の売却代金も、捕縛した者に支払われるのだと、ガリオンは説明した。


「ジャックの奴らは、盗賊を捕まえたのはフロリアだから、といってこのあたりの金は辞退したぞ」


「それは困ります。一緒に捕まえたんです」


「ふむ。丸取りは気が引けるか。それじゃあ、お前さんが8割、「剣のきらめき」が2割でどうだ。ジャックから話を聞いたが、アイツラも縄で縛ったりはして働いてるからな。そんなところがちょうどよい落とし所だと思うぞ」


 フロリアはそれで承諾した。別に折半でも構わないのだが、ガリオンに言わせると、「そんなことになったら、ジャックたちの誇りが逆に傷つくんだよ。しっかり8割貰っておけ」とのことだった。


 報奨金は冒険者ギルドの口座に入金されることになった。

 その他に、荷担ぎの報酬もハンスから支払済で、ポーションを売ったときと同じく、フロリアの冒険者ギルドの口座に入っていた。これも、単なる荷担ぎだけではなく、魔法で水やらを提供したことと、生鮮品を一山運んだ報酬もしっかりと出ていたので、フロリアから見ると結構な金額であった。


 ガリオンから「代官が会いたいと言っていたから、近日中にセッティングするぞ。あと、誰かにちょっかい掛けられたらすぐに報告しろ」と最後に言われて解放される。

 階下で、ソフィーにある程度、まとまった額を引き出して貰う。


 それで、帰りに露店に寄って、ヤギのミルクをちょっと大きめの素焼きの陶器瓶に1つ、小麦、豆類などを購入する。

 結構な量だが、肩掛けカバンに入れるフリをして、収納に仕舞っていく。

 豆を買った露店では、それを見て「お嬢ちゃん、噂の魔法使いだろ。それって、収納スキルなのかい」と問われるが、「さあ、大きなカバンなんです」と答えておく。


***


 エドヴァルドは考えている暇は無いと判断した。

 あの盗賊共は所詮はその辺で拾ってきたチンピラども。エドヴァルドには大した義理も感じて無いだろうし、代官に尋問されたらすぐにペラペラとさえずるだろう。

 さいわい、自分の正体は隠しているが、つなぎ役の後ろに黒幕が居るってことはアイツラにも感づいているだろうし、それを代官に言わない訳が無い。

 領都に報告が行って、しっかりと調べられたら、エドヴァルドがその黒幕だというのはすぐにバレてしまうだろう。


「畜生、役立たず共が。こうなれば、ファルケの奴をそれどころじゃないぐらい振り回して時間稼ぎをするしかねえな。その間に、領都で御前の企みがうまく行ってくれれば」


 この作戦のために領都を出る前に、一族の老家臣から預かってきた魔道具を取り出す。

 魔法のフルート。

 どこだかの遺跡から掘り出されたとか、南の自由都市連合の有名な魔道具の町ジューコーの工房が密かに作ったとか、来歴ははっきりしない。

 はっきりしているのは、いわゆるご禁制品であって、持っているだけで国法に触れるものということである。

 その効果は、近隣の魔物をおびき寄せるというものである。うまく使うと、魔物暴走、スタンピードをおこすことが可能なのだ。

 そのスタンピードの進路をビルネンベルクに向かわせれば、代官はその対応で忙殺されて、盗賊どころの騒ぎではなくなる。

 危険すぎて、どの程度の効果があるのか実験も出来ていないのが難点だが、これをエドヴァルドに渡した老家臣によると、龍やトロールのような大物を呼び寄せるような一級品ではなく、せいぜいオーガが数頭程度よってくるぐらいだろう、とのことであった。

 

 それならば町も崩壊するほどの騒ぎにはならないだろう。やりすぎて、自分が支配するはずの町が廃墟になったら目も当てられないのでちょうど良い。

 ともあれ、この魔導具の力で、代官だけではなく衛士隊や冒険者ギルドまで忙殺してやるのだ。

これで第3部終了です。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

次は第4部。

舞台は引き続きビルネンベルク。大事件が起こります。

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