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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第21章 嵐の前の
438/477

第438話 辻褄合わぬは毎度の話

 マジックレディス一行は、さっさと現場を離れると、そのまま人気のない場所を探して、とある路地裏でフロリアを除く4人が、フロリアの亜空間に入った。

 さすがに総勢6人(アドに変化したトパーズを入れて)がぞろぞろ歩いていて、いきなり消えると目立つ。

 というか、4人いなくなっただけでも結構な目立ちっぷりで、路地裏に入っていくのを見ていた通行人(というか、尾行者達)は目を剥くが、殺気に近い迫力を抑えることなく発揮しているトパーズに近寄れない。

 

 ヴィーゴさんを狙った襲撃者が現れた所為で一時的にフロリアの脳裏から抜け落ちていたが、このキーフルの街でフロリアの挙動を監視している各国の諜報機関の構成員達は別に尾行をやめていた訳ではない。

 それとは別に、先程のヴィーゴ商会の跡地で派手な格好の女性冒険者達の姿を認めて、なにか美味しい話にありつけないかと跡をつけてくるような地廻りのチンピラなどもいる。

 彼らはアドリアがマジックレディスと名乗ったのが聞こえたのかどうか? 仮に聞こえていなくとも、確かにアドリア達の格好は周囲を威嚇する効果もあるが、良からぬ輩の注目を集める効果もまたあるのだった。


 フロリアは、あからさまだったり、それなりに隠れながらついてきたりと、様々な尾行者グループがいることにはもう気にした様子もなく、さっさと町の大門に向かう。


 朝のラッシュが終わったあとで、大門を出る人々の行列は長くはなく、すぐにフロリア達も外にでられた。

 少し歩いて、交易隊の荷馬車を牽く馬を脅かさないように街道から離れると、大鷲を召喚する。

 町のチンピラたちは、そこまでに諜報機関のプロの手によって、軽く脅しを掛けられて散っていたので邪魔をしに来たりはしない。


 フロリアとトパーズは大鷲の背に乗ると、二人の体重を気にした様子もなく、大鷲は巨大な羽を羽ばたかせて空に舞い上がる。

 すぐに下から視認出来なくなると、トパーズはフロリアの影に戻り、大鷲の姿そのものも尾行者の目からそれると地面に舞い降り、フロリアは大鷲を送還する。

 そして、亜空間に入る。


 マジックレディスのメンバー達はそれぞれ、思い思いの格好で寛いでいた。


「フィオちゃん。おつかれ。まずはひとっ風呂浴びてきなよ」


 まるで自分が亜空間の主になったかのような口調で、モルガーナはフロリアに汗と埃を落とすことを提案する。


「ヴィーゴさんは問題なく回復しましたよ。セバスチャンから報告がありました。詳しいことはフロリアが落ち着いてから相談しましょう」


 ルイーザの言葉もあり、フロリアは風呂場スペースに行ってシャワーを浴びる。

 まだ午前中からゆっくりと風呂に入る気にはならない。


 リラックスした服装で戻ると、マジックレディスとセバスチャンを通信で交えて、情報共有と意見交換の時間である。

 人を駄目にするソファもどきで寛ぎながら、セバスチャンの報告を聞く。


「御主人様を襲撃した魔道具ですが、グレートターリ帝国のものと思われます。現物の確保には失敗いたしましたが、発動したときの魔力の波動から、我々が提供したものに間違いないと思われます」


「提供?」


 モルガーナが聞きつける。

 

 セバスチャンめ、口を滑らせたな。


 フロリアは、これまでにもセバスチャンが転生人が出現するたびに、"最低限の"手助けをしてきたことを説明した。


「そ、それじゃあ、和食の鋼人や、ゴーレムマスターなんかにも?」


 ルイーザの興奮した声に、セバスチャン(当人はベルクヴェルク基地にいるが、現代日本のスマートディスプレイを真似て、リモート会議システムを構築していた)は淡々と答える。

 過去の偉大な転生人たちにどんな魔道具を提供して、どんなエピソードが残っているのか知りたがるルイーザだったが、モルガーナがそれは後にしろと牽制する。

 モルガーナは寄り道脇道でルイーザに怒られるのが日常なので、それが逆になるのはとてもめずらしいことだった。


「……ともあれ、そんな貴重なものを持ち出してきてたってことは、やっぱりヴィーゴさんは餌として狙われただけで、本命はフィオちゃんだったってこと?」


 ソーニャが話の方向を、割りと無理やり元に戻す。


「そう考えて間違い無いだろうね。帝国にとっちゃ、国宝並みに大事なものの筈。それを持ち出して来たんだから」


「じゃあ、やっぱり少佐のヤツが後ろで糸を引いていたってこと、姐さん?」


「うーん。それだったらさ、トパーズがフロリアの影にいるってことを計算してなかったのはおかしくないかい?」


「そうか。少佐ならトパーズがいつもフィオちゃんにくっついているのを知ってるもんね」


「……そう言えば、セバスチャン。グレートターリ帝国って諜報機関が2つあるんだったよね」


「はい。少佐が主宰しているのが軍の間諜組織「機関」で、それとは別に宰相主導の「隠形」があり、互いに対立しています。現在、少佐を失った「機関」の方は半壊状態であり、「隠形」が幅を利かせています」


「それじゃあ、少佐がいない間にフィオちゃんを拉致して、完全に「機関」の優位に立つ計画だったのかな」


「そう言えば、キーフルはもともと「隠形」の方が根を張っていたんだっけ」


 いつぞやの皇太子妃(バルトーク伯爵家のフランチェスカ令嬢)昏睡事件のときも、「隠形」が主導して、グレートターリ帝国の宝物庫から初代スタンマン大帝時代の魔道具を持ち出してきていたのだった。

 

「せっかく、少佐がどこかに行っちゃってくれたのに、フィオちゃんは休まらないねえ」


「もう、フロリアの運命みたいなもんだねえ」


 アドリアがげんなりするような見解を述べる。


「と、とにかく、ヴィーゴさんが無事で何よりです。お店が潰れてしまったのは残念ですけど……。それに、他にひどい怪我をしたり亡くなったりした人がいるかも」


「それは考えても仕方ないね。責任を感じるんだったら、もう二度と他の犠牲者が出ないように、その「隠形」とやらが余計なことが出来ないように徹底的にぶっ潰して置くことだね」


「とりあえず、ヴィーゴさんが監禁されていたアジトは潰しておいたけど、あれで全部なのかな?」


 モルガーナの疑問にはセバスチャンが答えた。


「フロリア様襲撃グループは、あの建物には逃げ帰っておりません」


「別のアジトに逃げたってこと? それはもちろん、後をつけてくれたんだろうね」


「はい。市内に2箇所の潜伏先を用意しております」


「姐さん、それって私らで潰しちゃまずいのかな」


「うーん。今更って気もするけど、一応マジックレディスはフライハイトブルクの近隣で素材採取してるってことになってるからね。

 それに、他人様(ひとさま)の縄張りであんまり暴れるのも良くないだろうし」


「ほんとに今更ですね、姐さん」


 ソーニャが笑いを堪えながら、言った。


「ともあれ、ヴィーゴさんの命が掛かってたからこれまではちょっと無茶したけど、あとはキーフルの衛士さんなり、騎士隊なりに任せましょ。

 ま、私らがここにいるのは、素材採取と言いながら実はキーフルに向かっていたってことでいいんじゃない。そもそも、冒険者はいちいち居場所をギルドに申告しなきゃいけないなんて規則はないんだしさ」


「採取の途中で、けっこう同業者さんたちに会ったけどね」


「なあに。しらばっくれてれば良いさ。少しぐらい辻褄が合わないのは毎度のことじゃないか」


いつも読んでくださってありがとうございます。



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