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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第43話 連行

「さて、お前たちを盗賊としてビルネンベルクの町に連行して、衛士隊に引き渡す。ビルネンベルクの代官様は盗賊にはかなり厳しい人だ。これから厳しい詮議が待っているからそのつもりで居るんだな」


 一通り、捕縛作業が終わるとジャックはそう言って、盗賊たちを脅かす。


「お嬢ちゃん。それにしても見事な腕前だった。お陰で俺たちが出る幕は無かったよ。なるほど、森の奥に1人で行くのを怖れない訳だ。こりゃ、孫に良い土産話ができたぞい」


 さしものクリフ爺さんも興奮気味に語る。

 その後、これからどうするかの話になった。まだ夕食も取っていないのだが、このままこの休憩所に夕食をとって、眠る気にはなれない、とハンスとクリフ爺さん、もう一人の御者が主張した。


「そうだよなあ。俺も幾ら縛り上げてあるとは言っても、自分たちよりも人数の多い捕虜の前でノンビリ眠る気にはなれないなあ……」


 というわけで、かなり疲れているのだが、食事を終えたら、このまま夜通し歩いて、ビルネンベルクの町を目指すことに全員一致する。

 そうすれば、夜明けとともに町に入れるであろう。

 盗賊たちは、首に縄を掛けて、荷馬車の後ろに数珠つなぎに繋いで、徒歩でついてこさせることにした。


 ジャックは


「こうした時のための縄の結び方があってな、歩くのをサボると、首に通した縄がギュッと締まるんだ」


と中々にえげつない縛り方を披露した。


 こうして、簡単な食事を終えて出発するのだが、盗賊たちの馬も一緒につれていく。

 ジャックいわく、痩せ馬だが割りと良い値で売れそうだな、とのことだった。

 盗賊を捕まえると、町を治める行政機関(この場合は代官)から報奨金が出るのはもちろん、ギルドの功績ポイントも貯まる。さらに盗賊の持ち物はすべて捕縛した者の所有に移り、盗賊を犯罪奴隷として売った代金も捕縛者の取り分になるのだ。

 今回は15人も捕まえたし、無傷なので高く売れる、お嬢ちゃんは大儲けだな、とジャックは上機嫌だ。


「あの、もしかして、私が捕まえたと報告するのですか」


「そりゃあ、そうだろう。お嬢ちゃんの魔法で捕まえたんだ。嘘の報告は出来ないからな。まあ、縛り上げて連行した手間賃ぐらいは俺たちも欲しいけど、9割方、お嬢ちゃんの取り分になるべきだな」


「また騒がれませんか?」


「そうだな。その辺はうまくギルドマスターや代官と相談して、表向きは俺たちが頑張ったことにしておくよ」


 そんなことを話していたら、盗賊の中で親玉だけは口がきけるようにしてあったのだが、自分たちにも何か食わせろ、と怒鳴る。


「なあに、一日や二日、食べなくたって死にやしねえよ」


 とジャックは冷たいものだ。


「ねえ、トパーズ。どうだった?」


 フロリアが小声でトパーズに尋ねると、影の中から"まあまあの手際だった。で、1人逃げたのに気がついたか?"との返答。


「え?」


"やっぱり気がついてなかったか。ま、他の仲間たちからはかなり距離があったからな。一緒に近くまで来たけど、1人だけ離れて、隠れて様子を伺っていた奴がいたぞ。盗賊どもを縛り始めたところで、どこかに逃げていったな"


「う~~」


「どうした?」


 1人でブツブツ言っていたかと思うと、奇妙な唸り声を上げたフロリアにジャックが不審げに声を掛ける。


「あ、あの、ジャックさん。1人、捕まえ損ねたみたいです」


「え?」


「実は……」


 フロリアが話すと、ジャックは眉をひそめた。


「あの、落とし穴はお嬢ちゃんの魔法というだけでは、範囲も広いし、一度にあれだけ見事に使いこなすのは不思議だと思っていたが、精霊を使役していたのか。

 ベン爺さんが見たっていう、光みたいなのはそれだったんだな」


 ジャックは、逃げた盗賊がいるのが今更判明したというのも、精霊の報告が今頃届いたから、と解釈したようだ。フロリアは特に訂正はしない。

 

「全員捕まえられなかったのは残念だが、1人ぐらいなら後は大したことは出来ないだろうと思う。さすがに、別働隊や留守居がまだ10名も居るってことは無いだろう。

 普通に捕縛するときだって、全員捕縛は難しいんだ。まあ、気にしなくともよいだろう」


 ジャックの判断をハンスも支持して、そのまま町に戻る行程を急ぐことになった。その逃げた1人を追ったりはしない。

 ただし、盗賊たちの奪還を試みて来るかもしれないので、警戒はより一層怠り無く続けることになった。 


 そして夜の旅はやはり危険だということで、月が明るい夜であったが、フロリアは精霊のライトを呼び出して、夜道を照らす。

 ライトは眷属も合わせて10人ほども呼び出す。素養が無い者は精霊を見ることすら出来ないのだが、ライトが能力を使っている時には、素養ゼロであっても、明るい丸い光の玉がふわふわと浮かんでいるのは見える。

 その光の玉がフロリアの周囲から散らばって、交易隊の荷馬車の前後ろや足元、さらには盗賊達の足元まで照らす。


「これもまた便利なものだな。お嬢ちゃんはもはや何でもありだな」


 ジャックはハンスと顔を見合わせて笑う。


 交易隊の面々は少なからず疲労感を顔に浮かべていたが、夜の行程を誰も反対しなかった。緊張をとぎらせる事無く、歩き続ける。


 それで翌朝、ビルネンベルクの大門の門番が門を開けると、その前には待ち構えていたハンスの商会の交易隊は入城する。


「あ、それと帰路に盗賊を15人捕まえて連行してきてる。代官様の指示を仰ぎたいので、知らせておいてくれないか?」


 盗賊たちは町にそのまま入れずに荷馬車からロープを離すと、大門の脇に待機させておく。

 その後は手続きやら、ギルドへの報告やらでみんな、忙しくなる。フロリアはハンスについて、彼の商会の裏庭まで行く。そこで、2人の御者の仕事も終わりで、クリフ爺さんは「今回は命拾いをしたわい。後で渡り鳥亭に行くから、お嬢ちゃんとはそこでまた会えるじゃろう」と行って、立ち去っていく。


 フロリアは、収納袋で預かっておいた分の荷を、ハンスさんの商会の倉庫に出す。

 貰った運送費はフロリアには適正なのかどうか、良く分からない。ハンスはかなり買い込んだつもりだったが、この調子なら次はもっと荷を増やしても大丈夫そうだ、などと考えていた。


 その後、フロリアも冒険者ギルドに行くと、既にギルド内は「剣のきらめき」が捕縛してきた盗賊たちの噂でもちきりであった。

 自分たちよりも10名も多い盗賊を捕縛して、誰もかすり傷一つ負っていない。そればかりか、盗賊側もまるで戦う前に負けたかのように、怪我をしている様子もない。

 さすがはこの町のトップ冒険者だと駆け出し冒険者達は目を輝かせる。

 

 もう歳を重ねた冒険者になると、いくら「剣のきらめき」がこの町のトップパーティでも、そんな手品みたいな芸当が出来ないことを理解している。そして、その交易隊に話題の魔法使いの少女が同行していたという事実に思い至り、「ああ、そういうことか」と納得するのであった。

 そして、その少女を改めて、我が物にしたいと考え、だが迂闊なことをすると、ギルドマスターに本格的に目をつけられるしなあ、と考えるのであった……。


***


「馬鹿な。15人も居たんだぞ。何やっているんだ!!」


 エドヴァルド・ハイネは、1人逃げ帰ったつなぎ役の報告を聞いて、怒鳴り付けた。


「しかも、死にもせずに捕まっただと! くそ、尋問で色々と吐かれたら……」

いつも読んでくださってありがとうございます。



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