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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第21章 嵐の前の
426/477

第426話 開戦のゴング

 その駅で電車を降りて、改札を出る。

 その少佐の姿をねずみ型ロボットが捉えて、即座に日本に設置された中継基地に情報が送られ、基地内のセバスチャンの人工人格をコピーして定期的に同期しているロボットからフロリア近くのねずみ型ロボットに通話が送られて、フロリアに念話の形で送信される。

 したがって、少佐出現の一報をもたらしたのは正確にはセバスチャンではないのだが、その辺を細かく考えると、フロリアの頭が痛くなるのでひっくるめて「セバスチャン」ということで統一している。


「セバスチャン。どこ? 少佐はどこにいるの?」


 セバスチャンが述べた場所は、すぐ近くであった。ついさっきまで自分が張り込んでいた駅の改札を出たところ。

 少佐は駅の階段を降りて、こちらに向かって歩き始めているとのことだ。


 ここに来る?


 フロリアは、少佐と自分の家族に接触があったことを知らない。


「一体なぜ? 何の目的でここに来るの?」


「情報が不足していて、私共にも判りません。しかし、2つの可能性が考えられます。

 一つは、ご主人様の魔力の波動を何らかの手段で確認して、ご主人様を狙って接近している場合。もう一つはやはり何らかの予知魔法的な魔力の働きによって、ご主人様のご家族の居場所を察知して襲撃に来たのが、偶然ご主人様の来訪と重なった場合」


 やはり、少佐は油断出来ない敵だ。

 フロリアは闘争心よりも先に、少佐の得体の知れなさに軽い恐怖を感じた。"家族"という自分のもっとも弱い脇腹に剣を突きつけられているような焦燥感と怖れ。


「フロリア!! ビビるな! ビビると負けるぞ。どちらにしても、おまえの大事な家族とやらに手出しをさせないためにはすぐにここから少佐のやつに向かって距離を詰めるのだ。この場所に近づける前に、先手必勝でトドメをさすつもりで行け! 私も手伝ってやる」


 トパーズがフロリアの心の揺れを敏感に感じ取って、厳しい口調で叱咤する。


 その通りだ。

 家族を守るためにも、いま自分がビビっていてはいけない。

 いくら少佐だって不死身の化け物ではない筈だ。二度、三度とギリギリまで追い詰めたではないか。今度こそ、家族に近づく前に息の根を止めてやるのだ。


 フロリアは、周囲の人からみて不自然には見えない程度の速さで駅に向けて走る。

 現在、フロリアはねずみ型ロボットによって、少佐の位置、動向は詳細に判っているが、少佐側はいまだフロリアの魔力を感知してはいないようである。

 フロリアが探知魔法を展開すると、ねずみ経由ではなく直接に少佐を捉えられるだろうが、同時に少佐側もフロリアに気がつく。

 なので、探知魔法は展開していない。

 少佐側が、配下の魔法使いをねずみ型ロボットに察知されないように自分の周囲に潜ませていた場合、フロリアが不利になるがその可能性は薄いと考えていた。配下の魔法使いを日本に連れて来るためには少佐が一度、ゴンドワナ大陸の方に転移しなければならない筈だが、そうした魔力波動は観測されていない。

 少佐は単独である、と仮定して速攻を掛けるのだ。

 どうせ、視認できる程に接近すれば、いくら魔力を隠しても少佐ほどの熟練した魔法使いには察知されるであろう。

 しかし、そのときにはこちらは攻撃手段を整えて急襲している最中なのだ。


「問題は他の人達だけど」


 今の時間は駅から自宅に戻る人たちが増えていて、けっこうな人が歩いている。

 その中を急接近して少佐のみを倒す。

 

 連射性の高いP90もどきのほうが強力なのは判っているけど、ここはグロッグもどきの方が良いのだろう。

 

 少佐との間に障害物の無い直線の道路に入った。互いの距離はだいたい300メートル程度か。

 少佐はフロリアの側を向いているので、言うまでもなくすぐに気がつくだろう。それを一瞬でも遅くするため、フロリアは車道に出ると、ちょうど通りかかった大きめのワンボックスの後ろについて走り始める。


 その道は車道は片道1車線だがかなり広め。

 さらにその両脇に歩道と自転車用レーンが用意されていて、歩道+レーンの方が車道1車線と同じぐらいの幅が確保されているという、歩行者重視の設計になっていて、駅までまっすぐ延びて、駅前のロータリーでぐるりと回って引き返せるようになっている。


 その道を今の時間、駅に向かって走るのは、おそらくは駅についた家人を迎えに行く車なのだろう。

 歩道に降りて、ベルクヴェルク基地謹製の魔道具の靴を利用して時速30キロ程度の車と同じぐらいの速度で走る。周りの歩行者は非難の目を送ったりしているが、車の運転手は少しの間、後ろについたフロリアに気が付かないようでそのまま走る。

 車の影に隠れたフロリアと、少佐との距離はどんどん縮まる。

 

 だが、残り100メートルを切ったぐらいで、少佐は異変に気がつく。

 前を行く歩行者の視線に違和感を覚えたのか、フロリアの魔力の波動に気がついたのか……。


 少佐の決断は早かった。

 気がついて、1秒後にはまだはっきりとフロリアの存在に確信が持てた訳でも無かったのだが、即座に脇道に飛び込み、走る。


「ちっ! 逃がすものか!!」


 フロリアは車の後ろから外れると歩道に飛び乗って、今度は遠慮なく少佐が消えた脇道を目指す。

 前から来る人や自転車を避けながらなので、全力は出せないものの、人間が出せる速度では無い程の走りである。


「おい、迂闊に脇道に飛び込むな。私が先に行く」


 トパーズはそう言うと、フロリアの影から躍り出て、先に脇道に飛び込む。

 少佐の待ち伏せを警戒してのことであったが、突如としてどこかから湧き出した、大きくて黒くてしなやかな猛獣の姿に、周りの通行人は驚きの悲鳴を上げたり、咄嗟にしゃがみこんだり、中には転ぶ人もいる。


 しかし、そんなことは今は構ってはいられない。

 トパーズに続いて、フロリアも脇道に飛び込み、少佐を追う。

 数秒遅れ程度。

 少佐の背中がチラリと見えたが、建物の影に消える。


「逃がすか!!」


 気が急くフロリアだが、さすがに狭い脇道では速度が出ない。脇道でも他の通行人がいるのだ。

 トパーズの方は、しなやかに黒い身体をくねらせながら、通行人を避けて走る。ほとんど速度が落ちないのはさすがである。

 少佐に続いて、トパーズも脇道から別の道へ曲がる。

 

 ただ、トパーズの通った跡には多くの悲鳴が上がり、腰を抜かして座り込んでしまう人も少なくはない。

 誰かが110番しろ! と叫んでいる。


 フロリアもトパーズに続いて、脇道を曲がる。今度は少し広い道に出た、と思ったら、少佐はどうやら地面を走るのを諦めたようでジャンプで近くのマンションの屋上に飛び乗るところだった。

 マンションとは言っても、2階建てでそれほど高くはない。トパーズも2秒ほどの遅れで、後を追う。

 フロリアはセバスチャンに「お願い。事情を話して、姐さん達に助けに来て貰って!!」と頭の中で叫ぶ。

 もっと早く頼むべきだったが、いきなり少佐がすぐ近くにいる、という報告で助けを呼ぶことが頭に浮かぶのが少し遅れたのだった。


 さらにようやく頭が回転し始めたフロリは、このまま少佐とトパーズを追跡しても、離されるだけかも、と思い立ち、

 

「セバスチャン。ねずみに頼んで、先回りのルートを見つけて!」


と命じる。


 セバスチャンは珍しく、一瞬答えが遅れたが、すぐに「ご主人様。次の郵便ポストがある角を右に曲がってください。そうです。そのまま30メートル直進。今度は左へ」と指示を出し始める。


 3つほど角を曲がったところで、惣菜屋の屋根に飛び乗るように指示され、その通りにすると、2つ先の瓦屋根の旧い家の上に少佐が飛び乗ったところだった。

 少佐もこちらへ向かっていたので、一瞬、目が合う。整った顔立ちに驚愕の表情が浮かぶ。

 フロリアも、ここまでドンピシャで誘導されると思っていなかったのでちょっと驚いたが、それでも心の準備があった分、対応が早かった。

 収納からグロッグを出すと、銃口を少佐に向けて、数発の魔力弾を放ったのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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