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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第20章 雨の中の激闘
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第422話 王との会見2

 オーギュストの感慨にアダルヘルム王は苦笑いを浮かべた。


「あの家はもとは、キーフル王国時代からの同族ではなく、地元の独立領主がヴェスターランドになってから臣下に降ったからな。更に己の領地の一部であったロレーン地区を王国に引き渡した経緯がある。

 それが今の当主には納得がいかんのだろうな。こんな騒ぎを起こしたのだ」


 アダルヘルム王によると、ロレーン・アルザル地方から鉱物が出る事がわかり、たまたまスラビア王国との国境沿いだったことから、取り合いとなり、ヴェスターランド、スラビア両国の幾度かの戦争の原因となった。

 その中には、このどちらかの国の国内で凶作が起きたり新国王即位当初の人心が揺らいでいるときに、国内の不安を紛らすために対外戦争を起こす、そのための理由付けに使われるということもあった。

 そんな時代が続いたあと、七大転生人の1人、和食の鋼人の業績の一つである寒い地方でも育つ麦の品種の創出と拡散によって、凶作は起こりにくくなった。


 同時期に、両国の政権がなかなかに出来物だったために、ロレーン・アルザル地方を軍の禁足地として扱うことに話がまとまり、互いに国力を消耗する戦争を避ける知恵を発揮した。国民が飢えることがなければ、政権の主が変わっても、さほど人心は揺るがず、戦争の必要性が減じるのだ。

 そのタイミングで戦争の最大の口実を潰しておこう、という訳である。


 収まらないのは、この地を支配していた、その貴族家である。半ば独立国であったその家は王国に黙って、ロレーン・アルザル地方に軍を進めて占領。スラビア王国側まで引きずり込まれてあわや大戦争になろうとしたことがある。


 このときには、時の国王が自ら国軍を率いて親征。貴族家の排除に成功し、スラビア王国軍との和議もなったが、貴族家を完全につぶしてしまうと同地域の古くからの領民の間で不安が広がる懸念があったため、それはできなかった。

 それで当主の妹でヴェスターランド貴族に嫁入りして男の子を数人産んでいたことから、その中の1人で王室でコントロールが利く人物を新当主として送り込み、重臣たちもヴェスターランド生まれの者に入れ替えたのだ。

 その家もヴェスターランド貴族のいち員と、古くからの独立領主の2面性を持っていたのだが、おおくの権益を奪うことで、完全なヴェスターランド貴族の枠組みに入れ、王国の安定を揺るがす危険因子の一つは排除できた……筈であった。


「現在の当主は、どうもカビの生えたような思想にかぶれたらしく、再び独立国の盟主として立つべく、あの地域に混乱を起こしたかったようだな」


「馬鹿じゃねえのか?」とオーギュストが嘆く。


「そんなことしなくたって、王国有数の大貴族だっていうのに」


「ああ、普通ならそういう間抜けが当主になっても、重臣連中が適当に処置して大事にならないようにするんだがな。……それに、騒ぎのもとになった魔道具だが、いったいどこから出てきたものか分からねえ。何よりもあの魔法使いどもだが、どうやらその貴族家の家中の者じゃないらしい」


「え!? それじゃあ……」


「ああ、どこかの国が、我が国国内の不満分子を煽ってひと騒ぎ起こさせたっていうのが真相らしい」


 アダルヘルム王はポーズだけではなく、本当に頭が痛いようだった。

 

「これから、その真相を引きずり出して、国内の大掃除が必要らしい。

 まあ、ともかく今回はフロリアくんのおかげで助かった。タチアナ様はスラビア王国に急遽帰還してあちらの動きを抑えてくださっているおかげで、最悪の事態にはならずに済んだよ」


 そして、タチアナ王太后がフロリアに約束した3白金銭(大体3億円)は、原因を作ったヴェスターランド王国から支払う、その他にボーナスとして2白金銭を追加、捕虜引き渡しの報奨、フロリアやトパーズなどが倒して収納した魔物の素材はフロリアの取り分と決まった。

 

「フライハイトブルクのマルセロには話が通っているから、そこで売却してもらいたい。我が国内でやられると、どこからワイバーンの素材が出てきたのか話題になると、君も困るだろうが私も困る。

 まあ、事情はフライハイトブルクでも同じだろうが、そこはマルセロ老の手腕に期待しようじゃないか」


「はい。わかりました」


 フロリアももちろん、回収した素材をヴェスターランドで現金に変える積りはなかった。冒険者の基本的な仁義の一つとして、魔物の素材は討伐した土地のギルドに納品するというものがある。

 それに反するのだが、まあ今回は多めに見てもらおう。


「それにしても、アルザーレンとローレンブルクの市民たちには、精霊の女王が現れて、魔物のスタンピードを食い止めたという話が囁かれているようだな。何でも、羽のある等身大の精霊が現れたということだが、いったいどんな魔法を使ったのかね?」


「さ、さあ、私にはわかりません」


 背中に汗がドッと出てくるのを感じながらフロリアは答えた。


「き、きっと、集団幻覚でも見ていたんじゃないでしょうか?」


「ふむ」


 幸い、アダルヘルム王はそこのところはあまり深く追求しなかった。


「しかし、君が今回のしごとを1人でやったにせよ、どこかの精霊のちからを借りたにせよ、あまりにも強すぎる。

 オーギュストから聞いていると思うが、私は君が無実の罪に問われて、国を出ていったと知ったときになんとか帰ってきてもらおうとずいぶんと手を尽くしたものだ。

 それは、アシュレイさんの遺言もあるのだが、君の力を母国のために役立てて貰おうという積りもあったのは否定しない。

 だが、それも今となっては果たせぬな。

 如何せん、君は強すぎる」


 アダルヘルム王は嘆息した。

 彼によると、隠せるだけは隠すが、どうしても今回の長時間に渡るスタンピードを防いだことにフロリアが大きく関わっていることは完全には隠せない、というのだ。少なくとも、スラビア王国には知られてしまうだろうし、他にもヴェスターランド王国にスパイを入れている国はそれなりの情報を得るだろう。

 

「その挙げ句に、我が国が君を国王直属という待遇で迎え入れたりしたら、周囲のあらゆる国から敵視される。いや、国内の貴族からすら、王家が国内の支配権を高める行動をするのではないかと危険視されるであろう。

 したがって、もはや君を迎え入れるために私が動くことは無い。その点をここで明らかにしておくよ」」


 まるで、私は核兵器扱いだな、とフロリアは内心、苦いものを感じた。

 アダルヘルム王は自国が核保有国扱いされるのを恐れているということだ。


「あ、もちろん、ときたま故郷に里帰りするのを阻むものではない。そのときにはオーギュストを通して連絡してくれれば歓待しようではないか」


 フロリアの微妙な表情に気がついたらしく、アダルヘルム王は慌てて付け加えた。


「それから、これを用意してあるので、持ち帰り給え」


 四阿(あずまや)の机の上に置かれていたものをアダルヘルム王はフロリアに渡した。

 宝石を散りばめた美しい化粧箱とやはり多くの飾りがついた短剣一つ。

 化粧箱の中には、少し古びた紙が一枚入っていた。


「それはアシュレイさんの遺言だよ。君に向けて書かれたものだ。ずいぶんと遅くなってしまったが、君に返さなくてはならない」


 そしてもう一つの短剣は、多くの宝石を散りばめたさやに収まっている。柄の部分も宝石が散りばめられていて、中央のあたりには紋章が象られていた。


「それはヴァルター家、我がヴェスターランド王国の王家の紋章になる。もし今後、貴族絡みでなにか困ったことがあれば、その短剣を相手に示すと良い。

 その貴族がまともな見識があれば、ただちに手を引くことになるだろうな。何しろ、我が国に喧嘩を売ったことになるのだからな」


 そして、またトパーズと少し話をすると、アダルヘルム王は残念だが次の仕事の時間が迫っている、と言った。


「トパーズ。俺が死ぬまでにまた遊びに来てくれよな」


 そう言うと、アダルヘルム王は立ち上がり、フロリア、オーギュスト、トパーズに見送られて、立ち去っていった。


 フロリアたちも少し時間が経ってから、王都城内に戻る。

 そして、皆といっしょに楽しい午後を過ごすと、その日もオーギュスト邸に泊まる。

 翌日は臨月のカーヤとロッテとは屋敷の玄関で再会を約束して別れ、大門まで見送ったオーギュストに手を振って、王都をあとにしたのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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