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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第42話 逆襲

「イルゼ、エマ。フロリアを連れて、逃げ延びてくれ。なんとか町に戻って、身代金の交渉を頼む。俺たちは出来るだけ時間稼ぎを頑張ってみる」


 イルゼとエマは緊張した面持ちでうなずき、徒歩で逃げることにする。馬では街道を行くしか無く、それでは前後は挟まれていては逃げ切れないからだ。

 男たちは、彼女達が逃げる時間を稼ぎつつ、適当なところで降伏するという作戦である。

 妥当な作戦である。相手が「剣のきらめき」を殺すことを主目的にしていなければ……。

 もし、この作戦が実行に移されていたら、ハンスもパウルも殺されて、エドヴァルド・ハイネの目論見通り「剣のきらめき」は壊滅したことであろう。


"かったるいことを言っているな。私がちょっと行って蹴散らしてこようか"


とトパーズ。


"それも良さそうだけど、やっぱり盗賊でも死んじゃったら嫌だなあ"


"相変わらず、甘っちょろいことを。盗賊などに情けを掛けていると、この者たちが死ぬぞ"


"そうならないようにやってみるよ"


 そしてフロリアは皆に向かって声を掛ける。


「あのう……」


 緊迫した場面にそぐわない口調なのはご愛嬌だ。


「盗賊15人ぐらいだったら、やっつけてしまえば良いと思うんだけど」


「は?」


「やっつけるって、何を言っているんだ?」


「いや、魔法で……」


「出来るのか?」


「相手にカイさんぐらいの魔法使いが居たら、難しいと思います。……殺さないように捕まえるのが」


「……」


「でも、普通の人たちなら簡単に捕まえられますから大丈夫です」


 ジャックはしばらく悩んだが、ベテランの冒険者らしく決断は早かった。


「そうか。お嬢ちゃんがそう言うのなら、試して見よう」


「ジャックさん!! いけません! 逃げて貰うべきです」


「うまくいかなかったら逃げて貰いますよ。魔法でね。この子はカイを倒していますし、ビルネンベルクに来た時には1人旅をする程度の力は持っているのだから、危険になったら逃げ延びることは出来るでしょう。

イルゼとエマは魔法が使えないのだから予め逃げておけ。身代金支払いの交渉役がいないと困る」


 イルゼもエマも反対したが、リーダー命令の一言で黙る。

 こうした時にはリーダーの判断が最優先される。彼女たちはあっという間に背を屈めて、道を外れて、瓦礫がゴロゴロしているあたりに逃げ延びていった。大きめの岩が2人の姿を隠してくれるであろう。


「さて、お嬢ちゃん。どうするつもりだ」


「盗賊って、いきなり攻めてこないで、まずはこちらに降伏を促すんですよね」


 フロリアは旅中にベン爺さんから聞いた話を確認する。


「ああ、そうだ。アイツラにしても護衛に粘られると余計な被害が出るからな。大人しく降伏してくれれば手間が掛からない。まずは自分たちの数的優位を誇示する為にずらりと並んで、こちらを取り囲むだろうな」


「その時がチャンスです。土魔法の届く範囲は限りがあるんですが、それを大幅に伸ばす手があるんです」


 フロリアは召喚魔法で、ノームとドライアドを呼び出す。

 一行の中には精霊が見える者はおらず、わずかにクリフ爺さんだけがフロリアが淡い光の球みたいなものを手から出したように見えただけであった。


「お願い。捕まえる魔法を手伝ってちょうだい」


 幾度も魔物を生け捕りにする時に使った方法である。ノームもドライアドも十分に分かっていて、すぐに休憩所の周りに広く罠を張り巡らせる。


 そして、その罠を張り終えてすぐに盗賊達はやってきた。

 前から7名、後ろから8名。

 合流して、逃げもせずに休憩所で固まっている交易隊の前に無言で並ぶ。

 今回、盗賊達の主目的はハンスとパウルの命であるが、いきなり戦闘に入って反撃されるよりも、普通の盗賊のふりをして降参させ、武器を捨てさせてからの方が、自分たちが逆襲され怪我を負う危険を減らせる。なので、盗賊の流儀通りに始めたのだ。

 騎馬の4名もそれぞれ馬から降りて、列に加わる。


 フロリアは馬は可哀想だから、怪我させないように気をつけなきゃ、などと考えている。


 盗賊団で一番偉そうな髭面の男が、「逃げずに待ってるとはいい度胸じゃねえか。大人しく武器を捨てな!」と怒鳴る。


「ふざけたことを言うな! お前ら、そんなことをしてただで済むと思っているのか。犯罪奴隷になって、死ぬ迄鉱山送りになるのが嫌だったら、大人しく立ち去れ!」


 ジャックが怒鳴り返す。

 それを受けて、盗賊たちは一斉に笑い出す。


「相変わらずだな、ジャック」


「――、お前、どこかで見た顔だと思ったら、むかし領都で冒険者やっていた奴だな。除名されたと聞いたが、今は盗賊かよ、落ちるところまで落ちたもんだ」


 名指しされた男はニヤリと笑うと


「け、ジャックよ。あんたはむかしっから偉そうに人に指図ばっかりして、いけ好かねえ野郎だ。しかも、女連れでパーティなんぞ組みやがって。そう言えば、そこのガキ以外にも女がいたはずだ。どこに逃げやがった?」


と怒鳴る。


 ここまでだいたい10数秒。


「それじゃあ始めますね」


 フロリアが静かにそう言った。

 

 次の瞬間、交易隊を囲むように散らばった盗賊たちの足元の地面が一切の前触れ無く消える。落とし穴に落ちたかのように、盗賊たちの体はスッと下に落ちる。

 腰ぐらいの穴に嵌った、と気がついた時には、両手には蔦が絡みついて、動けなくなっている。持っていた剣や槍、弓は使う暇もなく、地面に投げ出されたり、どうにか手放さなかった盗賊も武器ごと腕を蔦に絡め取られて動けない。


「ち、畜生!! 何だこれは?」


 盗賊の親玉もその一言を言うのが精一杯で、今度は蔦が猿轡のように口にも絡みつく。

 こうして15名の盗賊全員が動けなくなる迄に、フロリアが合図してから数秒程度であった。


「うん、やっぱり下準備がキチンと出来ると簡単だね」


 アオモリの中では魔物相手なので、顔をみた途端に襲いかかってくる。それを思えば、10秒以上も同じ所に立ち止まっていてくれるなど、フロリアにとって盗賊はちょろい相手だった。


 ジャック達は、あまりの鮮やかさにしばらくあっけに取られていたが、フロリアにまずは武器を取り上げましょうと言われて、やっと始動する。

 隠れて様子を伺っていたイルゼとエマも戻ってきて、御者と合わせて、6人掛かりで盗賊たちの武器を全部取り上げる。

 フロリアもやろうとしたら、お嬢ちゃんは汚い男に近づかなくて良いと言われる。

 次に地面に埋まったままでは、連行も何も出来ないので、1人ずつ地面から掘り出して、ロープで縛り上げていく。蔓草も意志を持っているかのように絡みつき方を変えて、ロープで縛り直す間、盗賊たちを動けなくしていく。

 全員を縛り上げて、地面に並べて転がすまでに数十分も掛かって、戦闘よりもよっぽど疲れる、とジャックが笑ったものだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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