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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第20章 雨の中の激闘
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第419話 魔物津波7

「セバスチャン。グレートビーをこっちに惹きつける手ってある?」


 外に出ている市民たちはもちろん、空を飛ぶグレートビーが相手では城内に籠もっている市民たちでも危ない。

 

「笛の魔道具を使えば引き寄せられますが、同時に他の魔物も近寄ってきます。それもご主人様のちからで笛を起動すれば、さらに遠いところから魔物を呼び寄せてしまうでしょう」


 またしてもドラゴンバスターと同じで威力があり過ぎて使いにくい、ベルクヴェルク基地の魔道具であった。


「仕方ないなあ。それじゃあ、グレートビーの進路を教えて。その前面に出るから」


 他の魔物は放置することになるが、再び稼働を開始しているリキシくんや、トパーズの眷属達に任せよう。


 グレートビーの群れの一つがローレンブルクに迫っている。フロリアはその前面に回り込むように走る。

 数分後にグレートビーと町の城壁の間に立ち塞がるように立ったフロリアはちらりと大門方向を見る。さっき保護した3人の市民は町中に戻るところだった。特に怪我はどはしていない様子だった。


「さてと」


 フロリアは風魔法を自分の足の下に展開すると、数メートルほど浮き上がる。

 もう目の前に来ているグレートビーの羽音と威嚇音が煩いぐらいだった。

 この群れに呑まれたら、オーガといえどあっという間に息絶えるであろう。

 フロリアはその群れに向かいワイバーンのブレスを放った。

 先ほど収納袋に入れておいたブレスである。

 ブレスを右から左へ、横薙ぎに薙ぐように放つ。その間、数秒。

 グレートビーはほぼ全滅し、残った数匹も慌てて逃げ出すのであった。


 逃げる個体は放っておいて、フロリアは次の群れに向かう。

 今度はアルザーレンの町に向かう群れがある。

 どうやら人が多い場所に引き寄せられる傾向があるようだった。

 フロリアはアルザーレンの大門の前に移動すると、やはり同じように群れを一瞬で壊滅させた。


 群れ自体はまだ幾つもこの場所を目指してくるが、距離の余裕があるので、街に近づく前に機動歩兵によって討伐できる、とセバスチャンが請け負った。


 グレートビーはどうやら目処がたった。でも、それ以外にも虫の魔物の襲撃が予想される。

 

「その中で特に厄介なのは蝶でしょうか。やはり群れで移動して来ます」


「蝶々なら可愛くない?」


「鱗粉を撒き散らしますが、それが毒になっています」


「……厄介だね」


「ただ、やはり炎の攻撃が有効ですので、対処は可能かと」


「蟻の魔物とかは?」


「さいわいジャイアントアントは、魔道具の笛の届く範囲には生息していません。小さな蟻の魔物はいますが、この区域までは移動して来ません。

 あ、アドリア様とルイーザ様が準備が整いました」


 亜空間の扉を開けると、2人がすぐに出てきた。


「待たせたね。それじゃあ、また散って戦おうか」


 素早く役割分担を決めると、2人は散っていった。


 その後、時折りスマホで連絡を取り合いつつ、しばらく魔物の駆逐を続けた。


「けっこう忙しくなってきたね」

 

 モルガーナはスマホでも陽気なままである。


「でも、いずれも対応出来る魔物ばかりだから、ピークを過ぎるまでなんとか粘れそうです」


「ああ、だが油断はするなよ。これだけの広さのところに散らばってるとすぐに駆けつけられないからな」


 機動歩兵の機動力は非常に大きな戦力であり続けた。常に半分はメンテのために引っ込んでいるのだが、稼働している半分が戦場の至る所を走り回り、魔物を殲滅し続けることで、フロリア達には実際の機体数の数倍ぐらいが動いているように感じられた。


 それからトパーズである。

 セバスチャンの指揮下に入ることなく、特にフロリア達と連携をとって動いている訳ではないのだが、その霊獣の勘で常に要所要所に現れ、魔物を圧倒し続けていた。

 

 それから、2つの町の門の前で頑張るリキシくん、稼働時間の関係であまり出番はないが、手薄になった場所に投入されてそれなりの戦果を上げるトッシン。

 そして、2つの霊獣の眷属たちの活躍。


 流石にこうした別働隊無しでは、マジックレディスといえども、この地域を守り抜くことは出来なかったであろう。


 日暮れ間近になった頃。

 セバスチャンからではなくモンブランから念話が入った。


「え。地面のした? なんで空の上なのに、判るの? うん。判ったよ、やってみる」


 ずっと上空で戦況を分析して、猛禽類達を指揮していたモンブランから、地面の下を進む、かなり大型の魔物の存在を教えられて、フロリアはセバスチャンに尋ねてみた。

 しかし、セバスチャンの答えは、そうした魔力の動きは感知されていない、とのこと。 今やロレーン・アルザル地方全体に相当数のねずみ型ロボットが投入されていて、実際に魔物の討伐はしないものの、情報収集に大きな実績を上げていた。

 そのねずみ達にも地面のしたの魔力は感じられない、というのだった。

 モンブランの勘違い? それともねずみの性能の限界? 地面の上を走る魔物があまりに多すぎて、そちらにリソースが割かれ過ぎているのかも知れない。


 とにかく、外れなら外れで構わない。もしモンブランの言う通りだったのに、見逃して町に大被害が出たら、ここまでの苦労が水の泡だ。


「姐さん。少しだけ私の受け持ちを離れます。すみませんが姐さんの負担が増えてしまうと思うのですが、すぐに戻ります」


 スマホ型魔道具でアドリアに伝えると「なんか新しいヤツだったら、情報を取りな」という指示が帰ってきたので、セバスチャンに録画を命じる。


 フロリアは土魔法で地面に竪穴を掘る。大体、深さは10メートルぐらいで、穴の半径は10センチ程度。それを20箇所ほど掘ると、穴の中を水魔法で水を満たし、雷魔法で電気を流す。


「こんな感じで良いのかな?」


 フロリアが少し離れようとした、次の瞬間。その穴に何かが激突した。

 驚く暇もなく、穴を並べた地面の手前が盛り上がり、大きな長虫が顔をだす。いや、どちらかと言うとみみずみたいなデザインで先端に凶悪なノコギリ歯が並ぶ口が開いている、という変なデザインの生き物である。

 一度、ジューコーのコバルト鉱山で遭っている。相変わらず気色悪いまものだ。


 やっぱり弱点はあの口だろう、とフロリアは思った。

 あの中を攻撃すれば、内臓を一気に傷つけることが出来るはず。

 フロリアはP90を収納から取り出すと、口めがけて10数発続けて撃ち込む。半分くらいは外れてしまったが、残り半分の無属性の魔力弾は長虫の口の中に飛び込み、長虫は苦しそうに身を捩る。

 

 無防備にこちらにその長大な胴体をさらけ出したので、フロリアはもったいないがワイバーンのブレスの残りをその腹のあたりを狙って、収納から出す。

 時間にして、5~6秒。

 ワイバーンのような亜龍類でも、そのブレスは素晴らしい威力で、長虫の胴体をほぼ2つに千切ってしまった。


 セバスチャンはその様子を録画と同時に実況生中継で各メンバーのスマホに流していた。


「フィオちゃん、すごいじゃん!!」


 モルガーナのはしゃぐ声を遮るように、「モンブランはあと10匹ぐらいやってくるって言ってます」とフロリアは叫んだ。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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