第417話 魔物津波5
「ご安心ください。機動歩兵を1ユニット、至急そちらに向かわせております。機動歩兵は火炎放射器を持っていますので、グレートビーに対して有効でございます」
「そりゃ良いや! できるだけ早くしてね」
モルガーナはスマホとP90を仕舞う。
P90ではグレートビーのような小さくて動きの早い魔物を駆逐することは難しい。
「あんまり得意じゃないんだけどな」
そう言いながら、急速に迫ってくるグレートビーの群れに対してファイヤーボールを放つ。できれば、炎が継続する火炎放射のような技が良いのだが、モルガーナの不得意な技なのである。
グレートビーはファイヤーボールが近づくと、サッと散る。いきなり、この技を食らうほど鈍い魔物ではない。と思いきや、もっともグレートビーの群れに近づいたタイミングでファイヤーボールが弾ける。
速さも威力もたいしたことはないファイヤーボールであったが、ちょうどこの場所でエネルギーを使い切って散るように設定したのだ。
まるで花火のように。
何匹かのグレートビーが飛び散った炎の破片に巻き込まれて、身体を燃やしながら地面に落下していく。
「へへ、やったね」
しかし、この攻撃は逆にグレートビーの怒りを買ったようで、カチカチカチという威嚇音を放ちながら、モルガーナを囲んでくる。
「ヤバヤバ」
そう言いながら、モルガーナは自分の周囲に防御魔法を展開する。
「わたし、防御も苦手なんだよね」
これまでゴブリンやオーク相手だったので、まるでルーティンワークのように倒し続けていったのだが、グレートビーはそういう訳にはいかない。
モルガーナにとっては無駄に魔力を浪費してしまう防御魔法であるが、身体全体を全て覆うように展開しなければならない。
「でも、このまんま魔力を使い切っちゃう訳にはいかないよね」
魔力を使い切るとポーションで回復させても、底に穴の空いたナベみたいに魔力が流れ出てしまうので、そこから先は戦力になれない。
一旦、ここから離れようか……しかし、うまくグレートビーから離れる手を思いつけない。
数分後。
銀色の矢のような機動歩兵の姿が迫ってきた。例によって3体が1ユニットが三角の編隊で高速移動してくるのが、太陽の光を反射してきらりと輝いた。
モルガーナのスマホの呼び出し音が鳴る。
「モルガーナ様。火炎放射攻撃を行います。機動歩兵のユニットと交差するように直進してください」
「うん。頼むよ!!」
モルガーナは防御魔法を全身に展開したまま、こちらに向かって進む機動歩兵に向かって全力で走る。ベルクヴェルク基地謹製の魔道具の靴の能力を全開にしてかなりの速度を出している。
そのため、グレートビーの中には追いつけずに多少遅れ気味になる個体もでてくる。モルガーナと十分に接近した時点で、三角の先頭の機動歩兵は銃器の代わりに持ったノズル状の筒から炎の奔流を放射した。
モルガーナには当てないように、ただ、その身体からは50センチも離れていない場所を炎が流れる。
一瞬の間をおいて、後ろの2体からも炎が噴射される。
モルガーナと交差する。
モルガーナが後ろに抜けた瞬間から、火炎放射は周囲を舐め尽くすように四方に方向を変えながら、次々にグレートビーを焼いていく。
「モルガーナ様。虫除けの薬剤のご用意が出来ました。これを噴射して頂ければ、グレートビーは嫌がって近寄りません」
「そりゃあ、ありがたいね。セバスちゃん、ありがとう!!」
双方向収納袋からスプレー缶になったものを取り出す。
短い間ながらも現代日本に行ったので、その時にこのスプレー缶というものがどんな使い方をすればよいのかの知識は持っていた。
「機動歩兵の炎には噴射しないでください。難燃性の薬剤ではありますが、万が一の誘爆の可能性があります」
「判ったよ」
機動歩兵の火炎放射のおかげで、グレートビーの群れはかなり減っている。
それで、防御魔法を少し薄くして、空間を開き、そこにスプレーを噴射してみた。
まともに薬剤を食らったグレートビーは、急に狂ったようにめちゃくちゃに飛び回り、仲間たちにぶつかり、自ら炎に飛び込んでいった。
「こりゃあ良いや」
モルガーナはどんどんスプレーを噴射して、グレートビーを片付けていく。
機動歩兵も今や、前進をやめていたのだが、いつの間にか火炎放射のノズルも仕舞って、モルガーナと同じくスプレーを持ってグレートビーに薬剤を噴射して行く。
「モルガーナ様。お忙しいところ、申し訳ありませんが、あと2分ほどで新しいオークの群れと接敵します。数は10。ただ、上位個体が1体いるようでございます」
「判った。それじゃあ、グレートビーの方は機動歩兵にお任せするよ」
そう言うと、得意のオークとの接近戦に向けて、再び走り出す。
そのモルガーナのあとを追えるグレートビーはもはや残っていなかった。
***
「朝方に狼煙を上げたのに、助けが来ねえ」
「雨が上がったら、遠くで時々、何かが光っている。あれはきっと兵隊の鎧や剣が陽の光を反射しているんだ。もうすぐやってくるぞ!!」
「来るものか! おめえだって、ここがお互いの不干渉地だって知ってるだろ。簡単に兵隊を入れたりしたら、ヴェスタ―ランドとスラビアの間で戦争のきっかけになりかねないんだ。だから、スタンピードが来ていたって、俺達を助けには来ねえよ」
「それじゃあ、このまんま城壁が破られるのを待てっていうのかよ。あの精霊のネエチャンとその眷属のゴーレムや魔物が頑張っていたって、こんな風にずっと襲撃が続いていたら、持たねえよ」
「いや、魔物のスタンピードだって永遠に続く訳じゃねえ。いずれ息切れするから、それまで保てば助かるんだ」
「いつ息切れするんだよ。おめえはたしか、以前にどこだかでスタンピードに遭った時には数時間で終わったって言ってたよな。もう夕べからずっと続いているんだぞ」
「そ、そりゃあ判らねえよ。俺だって、スタンピードはこれが2度目何だから。今回は特別なのかも知れねえ」
「だったら尚更助けがいるだろう。やっぱり助けを呼んで来なきゃダメだろ」
ローレンブルク、アルザーレンの両方の町で似たような議論が町の防衛のために城壁の上に登っている町長や街の顔役、衛士隊長、数少ない冒険者達やギルドのれん中、そして何よりも坑夫達の間で交わされたのだった。
アルザーレン側が、貝のように殻を固く閉じたまま粘ると決め、ローレンブルクが魔物の数が減っているように見える今のうちに地域の境界の外にいる軍まで決死隊が走って、窮状を訴えると決めた。
アルザーレン側にいたスタンピード経験者が町ではけっこうな顔役でその意見が重要視されたコト、そしてほんの数日前にすらビア王国から大量の小麦や大麦などの食料品が運び込まれたというタイミングだったことが功を奏した。
それに対し、ローレンブルクでは間の悪いことに乳児の数が多く、食料の運び入れは2日後の予定でそろそろ在庫が欠乏しかかっていた時期であった。
それやこれやの事情が重なり、こうした決断になったのだった。
決死隊は足が早いことを普段から自慢にしている坑夫が2名と、衛士が1名。
いずれももともと武器の扱いには長けていない。魔物と遭遇した時には戦わずに逃げ延びるという前提で足が早い者が選ばれたのだった。
「とにかく地域外まで逃げれば、軍の人たちが守ってくれる。それまで必死に走るんだ」
いつも読んでくださってありがとうございます。




