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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第41話 襲撃

 エドヴァルド・ハイネのビルネンベルクの代官奪取計画は以下の通りである。


 まずは流れ者を集めて、盗賊団を組織する。彼らに顔を知られるとまずいので、つなぎ役は仲間にやらせるが、その野盗達にビルネンベルクへの交易隊を襲わせる。

 この町は薬草が豊富なのだが、不思議と土地は痩せていて作物はあまり採れない。魔物は多く、討伐さえすれば魔物の素材も豊富。なので、薬草と素材を売り、食料を買うことで成り立っていた。

 だから、その交易隊が続けて盗賊に襲われれば、すぐに町の経済状態や治安は悪化するのだ。

 それは、以前に町の代官であったエドヴァルドの叔父もよく分かっていて、叔父は私腹を肥やす男ではあったが、交易路の安全にはとても気を配り、金も掛けていた。

 それにしては、しょぼい街道で道も悪いが、これはどうしても瓦礫の多い上にちょっと雨が続くとすぐにぬかるむような土地柄なので仕方ない。

 街道は魔物の縄張りからは離れていたが、時に彷徨いでる魔物も居るし、盗賊にも気を配らなければならない。

 それらの手当てをするだけでも結構な物入りであったのだ。

 

 今の代官――平民出身で叔父を陥れた張本人の癖に代官などをやっている――は、叔父よりも更に街道の安全には力を注いでいて、主力のハオマ草を失っても、他の産品に力を注いで、そこまで景気が落ち込むこともなくなんとか持ちこたえている。

 その街道の安全を潰すのが狙いなのだ。


 現伯爵が死去し、代替わりの時にハイネの親玉である御前が計画通りに爵位を奪ったタイミングで、ビルネンベルクの景気と税収の落ち込みを言い立て、代官の統治能力の欠如を理由に更迭し、エドヴァルドが新代官として赴任する。すでに日付を入れない、ハイネを新代官に任命するという御前の自筆の命令書も貰ってある。

 この命令書は現時点は単なる紙切れだが、御前が新伯爵になった瞬間、紛れもない本物に変わる。日付はその時点で書き加えれば良いようにしてある。

 町の衛士隊は現代官のファルケの個人的な雇い人ではなく、代官職に仕えるのが仕事。この命令書一枚があれば、エドヴァルドに逆らうことなど出来ないのだ。

 これが計画であった。


 ただし、あまり早い段階で野盗を始めると、町から討伐隊が出て盗賊団がやられてしまう。町の衛士隊は町の外の盗賊団には関わらないので、討伐するのは領軍か代官が依頼した冒険者。領軍はビルネンベルクには駐留しておらず、領都に遠征依頼を出すことになる。

 代官としては、その前にまずは冒険者に討伐を依頼する筈である。

 しかし、今のビルネンベルクはそれほど多くの冒険者パーティは存在しない。エドヴァルドが仲間の中で冒険者崩れの男に聞いたところでは、ビルネンベルクの冒険者で、気をつけなければならないのは、「剣のきらめき」というBランクのリーダーが居るパーティらしい。

 このパーティが中心に、若い連中をまとめて討伐隊を組織されるとけっこう厄介だという。

 後は、ソロの攻撃魔法使いが居るが、こいつは評判が悪く、面倒が起こるとさっさと逃げるというので、それほど心配はしていない。


 この盗賊団計画が失敗したときに備えて、さらに奥の手も用意してある。この奥の手はけっこう荒っぽいのでできれば使いたくはない。


 ともあれ、いよいよ盗賊団が暴れるタイミングがやってきた。

 エドヴァルドは、盗賊団とは距離を置いている。彼らとのつなぎ役に命じて、次に町へ向かう交易隊が通りかかったら襲わせることにしていたが、つなぎ役の報告によると、目当ての交易隊を守っている護衛が例の「剣のきらめき」だという。


「なんとついていることか」


 エドヴァルドは飛び上がらんばかりに喜ぶ。パーティの4名だけならば、いくら腕利き揃いだろうと盗賊団で押し包んで殺してしまえる。

 人殺しをなんとも思わない連中を10数名も集めているのだ。

 そして、「剣のきらめき」を潰してしまえば、もう盗賊狩りの討伐隊など編成出来ない。確か、ギルドマスターは腕利きの冒険者だったと聞くが、足を怪我して戦闘の指揮など出来る状態ではないそうだ。そうなると領軍に頼むことになるが、領軍の中にも御前の息の掛かった連中は居る。遠征を多少遅らせることなら簡単だ。


「いいか、すぐに戻って、手筈通りにその交易隊を襲え。必ず、冒険者は殺せよ」


 つなぎ役は走って、戻っていく……。


 エドヴァルドはその後姿を見ながらほくそ笑んだ。


「本当に俺はついている」


***


「つけられているって、なんでそんな事判るんだ?」とジャック。


「実は……これまで内緒にしていましたが、私、少し探知魔法が使えるんです。

 3時間ぐらい前から、ずっと馬車の後ろを視界に入らないギリギリの場所からつけている人が2人居ました。最初は偶然かと思いましたけど、途中で人が交代したり、この休憩所に止まった時点で相手もただの道っぱたなのに止まって、それ以上は近寄ってきません。そして、1人は脇にそれて走っていきました。今はもう1人がこちらを伺っています」


「ジャック。ちょっと行ってくる」


 フロリアの話を脇で聞いていたパウルは、そう言い残すと、すぐに街道から外れて、瓦礫の間をもと来た方向へと走り出す。パウルは斥候も得意なのであった。


「つまり、それは監視役で、盗賊がやってくるという意味ですか?」とハンス。


「今のフロリアの話が本当ならばそうなりますね」


「どうします。このままここに泊まる訳にもいかないでしょう」


「かと言って、足の遅い荷馬車じゃあ逃げ切れないでしょう。荷を捨てて、馬で逃げるのが良いと思います。私達は盗賊団を食い止めつつ、徒歩で逃げますが、パウルさんとフロリア、御者達は馬で逃げて下さい。町に着く時には大門は閉じているでしょうが、なんとか夜の間を凌いで、翌朝までがんばってください」


「やはりそうなりますか」


 ジャックとハンスの間で善後策がやり取りされ、御者達は不安そうに顔を見合わせる。そうしているうちに、あたりは少しずつ薄暗くなってくる。

 暗くなってからの野営の準備は出来ないので、日没1時間ぐらい前にはこの休憩所にとまったのだが、準備のための時間は無情に過ぎていく。

 

 やがて、パウルが戻ってきて、「フロリアの言う通り、こちらを見張っている男が1人いた。剣を提げていて、農夫には見えないし、荷担ぎの行商人でもない」と報告する。


「そうか、決まりだな。ハンスさん、すぐに逃げて下さい」


「分かりました。仕方ないですね」


 すでに馬は荷馬車から解いてある。それに乗馬用の轡に付け替えて、ハンスと御者は逃げる算段を始めた。

 

「フロリアさんは私と一緒に馬に乗って下さい。あなたなら軽いから大丈夫ですよ。それからジャックさん、くれぐれも無理はしないで、荷は捨てて構いませんから、あなた達も逃げ延びて下さいね」


「分かりました。おまかせ下さい」


 その時、フロリアが


「いや、ハンスさん。そのビルネンベルクの方角からも人が来ます」


とハンス達を遮る。


「何!」


 ジャックが反応する。


「ビルネンベルクから7名、そのうち2名は馬に乗っています。後ろの道からさっきの見張り役を入れて8名。馬も2頭います。挟み撃ちにされていますね」


「クソッ! 仕方ない。こうなれば強行突破か。いっそ日没してくれていれば、夜陰に紛れる手もあるが、その前には来そうだな」


「そりゃあ無理だな。この草臥れた馬じゃあ、大した速度も出ないし、相手にも馬があるんじゃ追いつかれるのが落ちだ」


とベン爺さんが冷静に言う。


「それじゃあ、降参するか?」


 逃げ切れない時には、降伏して命乞いをするというのも割りと一般的に行われているやり方である。

 もちろん荷はすべて奪われ、彼らは捕虜になるが、意外と殺されることは少ない。

 人死にが出ると、町が盗賊討伐に本気になるまでの時間が短くなるのだ。それに殺せばそれ以上儲からないが、後で身代金を貰って解放すればけっこう儲かる。

 更に言えば、襲われる側も降伏すれば殺されるとなれば、最後まで必死に抵抗する。適当なところ降参して貰ったほうが、盗賊としても有り難いのだ。

 ただ、女性は売り飛ばした方が金になるので、こうした場合は逃げるべきである。特にフロリアは魔法使い云々は抜きにしても高く売れそうである。


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