第408話 様々な局面
「セバスチャン。他に町の外に生き残りの人たちがいないかどうか、しっかりと調べ直して」
考えてみれば、フロリア達は魔物が集中し始めた場所にピンポイントで急行して、殲滅戦を開始している。
農作物がほとんど採れないので、町の外に農家などは無いような土地柄ではあるが、それでも何らかの事情があって町の外に暮らしている人たちが居ても不思議はない。
もとより、普段は魔物も野生動物もほとんど出ないような土地なのだ。
そうした人たちが豪雨にまぎれて、魔物の接近に気が付かなかったり、気づくのに遅れたり、場合によっては魔物側も気づいて無くてスルーしている可能性もあるのでは?
今頃になってその可能性に思い至ったフロリアが改めてセバスチャンに指令を出したのだった。
基本的には町の外には人は住んでいない、という地域情報はあるものの、実際に調べて見るまではなんとも言えない。
現に子ども2人を保護したのだし……。
セバスチャンは、フロリアの指令を受けて、もはやベルクヴェルク基地の予備だけでは足りなくなると判断し、一時的にこのゴンドワナ大陸のあちこちに点在させているねずみ型ロボットを簡易魔法陣を使って回収して、次々にローレン・アルザル地方に投入し始めた。
特にソーニャとモルガーナの追跡している魔法使い達の捜査用を優先しつつも、セバスチャンにとっては主人であるフロリアの命令で全土にねずみを走らせ、魔物の活動状況もさりながら、人間の有無も調べなくてはならなかった。
これまでベルクヴェルク基地の眼であり耳でもあったねずみ型ロボット。
フロリアも数え切れないほど利用してきたのであるが、この一晩と1日が最高にねずみ達の活躍した場面となった。
アドリアとルイーザにも、フロリアが子どもを発見して保護したとの報告がもたらされ、さらに他にも町の城外に人がいる可能性が示唆された。
「まずいなあ。スタンピードの起こってる最中に保護活動か……」
アドリアも、セバスチャンのねずみ型ロボット大幅投入には大いに賛成した。
単純な魔物討伐に比べると、マジックレディス達の負担は倍増するのだが、捨て置くことは出来ない。
アドリアやルイーザとて、これまで幾多の人死には見てきた。大きな魔物災害には人命の犠牲はつきものであり、今回も犠牲ゼロとはいかないだろうとは思っていた。しかし、だからと言って、自分たちの眼の前で人が死んでいくのをスルー出来るほど、この仕事を割り切れていないのであった。
むしろ、非魔法使いのBランクやCランクの冒険者の方が割り切りは徹底しているし、早いかも知れない。
Sランクでありながら、人並み外れた魔法のために普通ならば助けられない人命を助けてきた経験があるからこそ、冷徹になりきれないのだった。
とにかく、セバスチャンにはこれまで通り、魔物の通り道や集合しつつある地点を見つけて貰って、そこを叩く。そして、その捜索の過程で人を発見したら、ただちに一番近いメンバーに報告する、この方針で行こう、と指示をした。
***
「やり過ごして、後ろから奇襲かよ。まるで魔物だねえ」
モルガーナは歯をむき出しにして凶悪な笑みを浮かべると、くるりと振り向いてP90を構えて、数発撃ち込む。
もちろん、適当に撃っただけなので当たることはない。
だけど雨が地面に叩きつけら水煙りで視界が遮られているにも関わらず、無属性の魔力弾を避ける人影が確認出来た。
雨具も兼ねているのか、体を丸ごと覆うようなコートを着ている。
「見っけたぁ」
モルガーナは一瞬でP90を仕舞うと、両手にナイフを持ってダッシュする。
標的はそのモルガーナに向かって、なおも数発のエアカッターを放つが、あっさりとモルガーナは避ける。
本来は攻撃が見えにくいことが利点のエアカッターなのだが、雨が弾かれるために軌道が読みやすい。
「こういう時には水魔法だろ。それとも、基本属性すら不得意なのかな?」
モルガーナは高速接近しながらも、ナイフを握った両拳からウォーターランスを放つ。 標的に命中したようだ。
さすがに声を出すようなヘマはしないが、魔力が大きく乱れたのが感じられた。
なおも速度を早めたモルガーナは、得意のアサシンスタイルで標的に飛び込んで、ナイフを振るう。
次の瞬間には標的の首筋のあたりをナイフで切り裂きながら走り抜ける。
「うん? 女!?」
切り裂きながら、顔を確認した。
それまでフードに隠れていたが、モルガーナの攻撃でそのフードがバサッと開けて長い髪が散った。
「女でも手加減抜きだよ」
素早く体を反転させると同時に、更に標的にウォーターランスを放つ。
すでに棒立ちになったままの標的の腹のあたりに吸い込まれるように命中する。
モルガーナは標的に蹴りをいれると、倒れた標的を踏みつけにする。
「もうひとりは! もうひとりはどこ行った?」
地面に仰向けに倒れ、モルガーナを見上げた女は何も言わないまま、口を少し動かす。
「あ、やべ」
とっさに足を離して距離を取るモルガーナ。自爆を警戒したのだったが、標的は爆発はしなかった。ただ、口中に仕込んだ毒を飲んだだけだったのだ。
***
今度の2つの人影はダミーではない。
前方に展開していたねずみ型ロボットが折り返して、ソーニャの元に戻りつつあり、ソーニャとねずみたちとの間の人影を挟み撃ちする形になる。
「ずいぶんと優れた闇魔法の使い手だったけど、攻撃魔法は得意じゃないみたいね」
距離がある程度あるので、遠距離でも効果のあるロックボールを投擲する。
要するにデカい岩である。
数十メートルを放物線を描いて飛び、地面に叩きつけられると弾けてあたりに飛び散る。精度自体は低いが、これをポンポンと飛ばされると体を晒して素早く移動というのが出来なくなる。
停止して、岩陰なりに隠れなければならなくなるのだ。
それがほんの数秒から10秒程度であっても、ベルクヴェルク基地謹製の魔道具の靴で高速移動が可能なソーニャにとっては十分であった。
標的が岩陰から立ち上がった瞬間、ソーニャのP90が炸裂する。
一人目が倒れる。血が飛び散るのが、確認出来た。
トドメをさせたかまでは判らないが、とりあえずソーニャは2人めを追う。
2人めも他の岩陰から飛び出して、ダッシュで逃げる。
その後姿にP90を撃ち込むが、魔力弾は人影を素通りする。
「え? まだ偽装魔法が使えるの?」
敵魔法使いの能力に愕然としたが、同時にそろそろねずみ型ロボットが戻ってきているのも探知していた。
ねずみたちには偽装魔法が効かない。数匹がとある一箇所を目指して集中している。
「判りました。そこですね」
ソーニャは腰だめにしたP90を断続的に撃ちながら、その木陰に近づく。木陰とは言っても、申し訳程度の痩せた低木が立っているだけ。
とても魔力弾の集中射撃に耐えられるものではなく、たまらず飛び出した魔法使いの体に銃弾が吸い込まれていく。
地面に倒れる数秒の間に、10発以上の強力な無属性の魔力弾を浴びた標的はそれだけで事切れていた。
ソーニャはすぐに一人目の標的を確認するが、こちらも即死だったようだ。
***
「笛が……! やられた!!」
囮がモルガーナを引き付けている間に、最後の1人が魔道具の笛を高らかに吹き鳴らすのだった。
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