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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第20章 雨の中の激闘
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第407話 笛の追跡2

 モルガーナとソーニャはそれぞれ二手に別れて、標的を追うことになった。4人の標的が2人ずつ分かれて移動しているからである。

 どちらも、1対2で戦うことになるのだが、それを恐れるモルガーナやソーニャではなかった。


***


 モルガーナは探知魔法を頼りに見知らぬ荒野を駆け抜けている。

 雨は激しく、身体強化魔法を使っても、視界は限られていてのだが、それで駆ける速度を落とすことはしない。

 ただ、返り討ちには気をつけなければならない。

 白兵戦のエキスパートであるモルガーナはそのあたりのことは抜かりがない。

 単純に走るだけではなく、P90もどきを構えていて、ちょっとでも気になるモヤや人が隠れられそうな岩があると、数発ずつ魔力弾を撃ち込んでから突進する。


 その場所には探知魔法によるアラームは点っていないのだが、モルガーナはすでにいま自分が追跡している敵が闇魔法、混沌魔法系の達人レベルであり、いまの気象条件はあちらに有利であり、自分にはこの場所には土地勘も無いことも脳裏に刻まれていて、油断をすることがなかったのだ。


 だけど、あんまり慎重すぎると逃げられる可能性があるしね。


 決して速度を犠牲にしていない点がモルガーナの凄さである。

 

「あ、ゴブリンかよぉ」


 ゴブリンの群れ、だいたい20匹程度がモルガーナを見つけて、ギャーギャー喚きながら、手に手に武器を持ちながら向かってくる。

 棍棒だけではなく、中には鉱山の入口あたりで拾ったか坑夫から奪ったかしたらしいスコップを持っているものも居る。

 このスコップとか鍬とかツルハシとかがけっこう侮れない武器である。使うのにある程度の技量が必要な剣や刀よりも力づくで振り回せば良い鈍器系統の武器は、力だけはある魔物が使うと強力である。


 しかし、それも"並"の冒険者や兵士が相手になった場合。

 モルガーナ、それもベルクヴェルク基地特製の魔道具で武装したモルガーナの相手にはならない。

 20匹のゴブリンを掃討するまでにだいたい15秒から20秒程度だった。


 念の為にP90もどきの弾倉を入れ替える。まだ数発程度が残っているという状態ならば、戦闘が途切れた時にどんどん新しい弾倉に入れ替えることをセバスチャンが推奨したのだ。

 双方向に出入り口のある魔法の袋に、使った弾倉を放り込んでおけば、ベルクヴェルク基地の方で取り出して魔力弾を詰め直すので無駄にはならない。


 そして、改めて敵の魔法使いを追おうとして、探知魔法に引っかかっていないことに気がついた。


「え、嘘ッ!? 15秒ぐらいだよ」


 モルガーナはあっけに取られる。

 彼女の冒険者人生においてもこれほど見事に敵にまかれたのは初めてである。


「いや、待て待て。簡単にごまかされるもんか! だけど……」


 とりあえずセバスチャンを呼び出して、「ごめん、セバスちゃん。もしかして、標的を逃がしちゃったかも。このまま捜索するけど、姐さんたちに報告して!」――それだけを言うと、スマホを閉じて、本気でもう一度、探知魔法を掛ける。


 でも、居ない。どこにも魔法使いの気配を感じない。範囲を広げる。……やっぱり居ない。


 背中に流れる冷たいものは、雨とは違う。


「範囲を拡げちゃだめだ。逆だ」


 モルガーナは範囲を狭めて、その代わり探知精度を極限まで上げる。

 その瞬間、自分の背中方向から何かを感じる。


「ヤッベェ」


 とっさに地面に伏せた。その次の瞬間、背後から襲ってきたエアカッターがモルガーナの頭の上を通過したのだった。


***


 ソーニャはP90はいったん収納に仕舞って、手に馴染む短槍に持ち替えて、標的の影を追った。

 フロリアの言う魔道具の笛は1本だけらしいので、自分とモルガーナのどちらかが無駄足を踏むことになるが、やむを得ない。

 どうも、この笛追跡では後手に廻っていると、ソーニャは思っていた。

 

 考えて見ればマジックレディスは魔物相手がメインのパーティである。もちろん少なからず対人戦も経験しているのだけど、大物の魔物討伐で名前を上げてきたパーティであるし、ソーニャ自身も魔物の方が気楽である。

 だが、今はそんなことは言っていられない。


 不得意ならば、できるだけ有利になるように色んな手段を取るだけである。

 さいわい、今のソーニャにはセバスチャンをはじめとするベルクヴェルク基地の助けが期待出来る。

 

 小走りに走りながらスマホを耳に当て「ねずみさん達はどのぐらい展開しているのですか? 標的は捕捉出来ています?」と聞く。


「現在、ソーニャ様の前方に扇状に10匹程度展開しています。数が少なく、申し訳ありません。いずれも敵標的を発見捕捉出来ていません」


「どれぐらい私から離れているの?」


「だいたい150メートルから300メートルほど前方になります」


 ねずみ型ロボットはそれなりに高性能であることはソーニャもよく知っている。そのねずみ達がこれだけ展開していて発見出来ないとなると、既にそうとうに遠くまで逃げてしまったのか、それとも……。


 逃げられたのなら、いまさら形跡も無しに追跡しても発見出来る可能性は少ない。

 ならば、まだこの付近に潜んでいる可能性に掛けた方が良いのではないか。


 半分は本能で敵を追い詰めるモルガーナに対し、ソーニャは理詰めで行動するタイプである。

 魔力量や魔法の冴えはモルガーナに劣り、近頃ではとんでもない怪物レベルの後輩フロリアに圧倒されることも多いソーニャだが、それは世界のトップレベルの魔法使い達と比べるからであって、彼女自身も年齢を考えれば超一流の魔法使いといえる存在である。


「優れた隠蔽技術の持ち主なのは判った」


 ソーニャは、振り返ると自分が走ってきた道筋に向かって、大規模な風魔法を発生させる。

 大型のつむじ風。風の刃が雨を巻き込んで幾筋も放たれる。


 魔力の無駄遣いであるのは覚悟の上だった。

 ソーニャは素早く魔力回復用のポーションを飲みながら結果を待つ。

 つむじ風は縦横に走り回り、あたり一面を荒らしていく。草むら、木の後ろ、大きめの岩の影。


 やがて、土砂降りの雨の水しぶきの間から人影が2つ飛び出して来るのが見えた。


「いた!!」


 不規則に駆け回るつむじ風の一つが、隠蔽魔法で隠れていた魔法使いたちを直撃しそうになって慌てて避けたのだった。


「もう逃さない」


 ソーニャはある程度、距離が離れて居ることを考慮して素早くP90に持ち直すと、人影を狙って数発放つ。

 影が一つ倒れた。

 

 ベルクヴェルク基地謹製の魔道具の靴の威力でもう一つの影に急速接近すると、そちらにもP90を放つ。

 豪雨が地面に叩きつけられて、水煙が烟るなか、倒れる人影。


 これで自分に課せられた2人の魔法使いの討伐は完了した。


 ……と思うほど、ソーニャは甘くなかった。

 標的の死亡を確認するために相手に近寄るのではなく、探知魔法を自分の後方に向けて放つ。


 いた!! やっぱり今の人影は囮だった。

 振り向くと、必死に逃げる人影2つ。P90で狙うには遠すぎる。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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