第405話 笛の追跡1
収納から服を出して着替えて、やっと人心地がついたソーニャとモルガーナ。しかし、強い雨の中、防御魔法を雨よけに使っても、なかなか思ったようにさっぱりした状態にならないのは仕方ない。
"フィオちゃんの亜空間に頼りすぎだったよねえ"
と思うモルガーナだった。
「さ、痕跡が消えちゃう前に追っかけるよ」
「判りました」
ソーニャも戦闘服に着替えて落ち着いた様子だった。ま、この娘も普段はあんなに足を出すような服なんか着ないもんね、とモルガーナは思う。人形のようにキレイなのにもったいない限りである。
痕跡は荒れ野をまっすぐに抜けていくようだった。
曲がったり、二手にわかれたりといった隠蔽工作はとってないところを見ると、追跡されることを想定してないようだった。
ま、私らがここに居るなんて、相手にも強力な予知魔法使いでも居ない限りは知りようも無いことだろうしね。
笛を起動するには魔法使いか、最低でも魔力持ちが必要だということだが、特に"強い"魔法使いが必要という訳では無いそうだ。
だったら、モルガーナやソーニャは負ける気がしない。
「ソーニャ。痕跡を見失うのが怖いから、相手に気付かれるのを覚悟で探知魔法を強く使おう。あ、どうせなら、暗いと追うのに支障が出るから、光魔法も使っちゃおうか」
「そうですね。ただ、自分の近くを照らすのはやっぱり……」
「それじゃあ、ねずみくんに頼もうか」
痕跡を追って小走りぐらいに走りながら、モルガーナはセバスチャンにスマホで連絡を取る。
セバスチャンはすぐにモルガーナの依頼を受けて、前方を照らす。ねずみ型ロボットに光魔法を付与した魔道具(懐中電灯類似のもの)を背負わせて、モルガーナ達の前方を走らせているのだった。
ねずみが走る度に光がチラチラ揺れて見えにくいが贅沢は言えない。
そして、10分ほど走ったのだが……。
「やべ……。もしかして、見失った!?」
「まさか。一本道だったし……」
魔力の痕跡が途中で消失していたのだった。
20~30メートル前から薄くなってきたと思いながら追っていたら、ある時点でそのままキレイに消えてしまっていた。
「どうしよう」
「薄くなった場所まで戻って調べ直しましょう」
「うん。それしか無いよね」
少し戻ったモルガーナとソーニャは、しかし「別に変わったところは無いよね」という感想しか持てなかった。
セバスチャンに連絡してみると、先方でもやはり魔力の消失を確認しており、既にねずみ型ロボットは割ける個体数全てをこの場所に投入して放射状に捜査の輪を拡げていたところだった。
「こりゃ、フィオちゃんに顔向け出来ないな」
「あ、待って、モルガーナ。この痕跡……」
粘り強く周囲を探知していたソーニャが地面の一点を指差す。
そのまま、その指先にあるちょっと大きめの岩を魔力の念動で退かすと、ポーチ程度の大きさの袋があった。
以前に誰かが捨てたものではなく、まだ新しい。
「こんにゃろ!!」
モルガーナがそのポーチ目掛けて、ロックランスを放つとバチッと音がして一瞬、魔力が弾けてそのまま停止した。
「魔道具だ!!」
このポーチ型の魔道具が停止した瞬間、これまで無かった魔力の痕跡の線がくっきりと2人の探知魔法に感じられた。
「探知魔法を誤魔化す魔道具!! 凄いな。似たようなものはジューコーの工房でもあるけど、性能が良いね。ちょっと大きすぎるけど」
「さ、行きましょう。こんなのを使うぐらいだと、けっこう本気も魔法使いを相手にすることになりそうです」
「そうだね、ソーニャ。気合を入れていこう。あ、そうだ。(スマホに)セバスチャン、敵はこんな魔道具まで用意してるところ見るとけっこう大掛かりかも、って姐さんとフィオちゃんに伝えといて。まあ、私たちだけでやってみるけど、万が一の場合は応援頼むかも」
そして、また2人は小走り程度で走りながら追跡を続行するのだった。
***
追跡再開から3分後。
「うん?」
2人は立ち止まって、しかめツラになった。
不快な音
いや、音というよりも、魔力の波動というべきか。
特に探知魔法を強力に使っていたため、まともに波動を浴びて、モルガーナはしきりと首をふった。ソーニャはあまり行動には出さないが少々吐き気がする。
すぐにスマホを掛けると「これは笛の魔道具が発動した波動でございます。再び使ったようです」と、こちらが聞く前にセバスチャンが話した。
「場所は?」
「いま、お二人がいらっしゃる場所より、北北東に2400メートルほどでございます」
「判った。(スマホを切ると)よおし、ソーニャ。本気で走るよ。追っかけてぶっ潰してやる!!」
言うなり、モルガーナは風のように走り出した。もちろん、ソーニャもそれに続く。
ベルクヴェルク基地謹製の風魔法付与したシューズの恩恵で、かなりの荒れ地でも速度が落ちることはない。
半ば飛ぶように走る。
もちろん身体強化魔法も使っているので、2400メートルをわずか4分程度で走る。
オリンピックの1500メートルの男子世界記録よりもかなり早いが、それでも到着した時に戦えなくなるほど体力を消費するような走り方では無い。
目的地の少し手前で速度を落とす。
もちろん、前方には探知魔法を展開していて、既に相手が逃走していることは確認している。
「1人じゃないね」
「ええ。3人……いや4人ですね」
「笛係が1人で、護衛が3人か。全部、魔法使いだね」
「はい。それも闇魔法や混沌魔法が得意みたいです」
「ちょいと苦手なんだよね。男らしく正面から掛かってこんかい!」
まだ相手の性別も判然りしないのに、モルガーナが吠える。
彼女の性格として、心理戦はあまり得意ではないのだ。
「まあ良いや。今度は逃さないよ」
2人はまた速度を上げる。
「あ、あっちも気づいたっぽい。二手に分かれやがった。
ソーニャ! こっちも二手に分かれるよ!!」
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