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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第20章 雨の中の激闘
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第404話 2つの町

「ご主人様。どうやら魔物の集合地点がバラけてきたようでございます」


 それは現地で戦うフロリアも感じていた。

 最初に魔物の集合場所と指定された場所にはもはや、それほどの魔物が残っていない。

 フロリア達が蹴散らした死骸が転々と転がっているだけで、新しい魔物が押し寄せて来るということがない。


「終わった?」


と聞いてみるが、そんな訳が無いのはフロリアも判っている。


「この地域に集まってきている魔物の数自体は減っておりません。むしろ、徐々に増える一方でございます」


「つまりは……」


 魔物の集団が一気に町を襲う、いわゆるスタンピードとは違う状態になりつつある。


「姐さん!」


「うん?」


 アドリアに今、セバスチャンからの情報を知らせる。


「ってことは、このロレーン・アルザルの地域全体の魔物を駆除しなきゃならないってことかい」


 さすがに理解が早い。


「なんとも厄介な連中だね。町は防御力が弱いんだっけ。……フロリア、それぞれの町の前にあのリキシくんとかいうゴーレムを配置しな。で、私たちはこの地域を廻りながら、魔物討伐をし続けるよ。

 あまりバラけるのは良くないけど、仕方ない」


「アドリア。私の眷属を、お前たちにもそれぞれ何頭かづつ付けるようにしてやる」


 トパーズがそう言うと、眷属を10頭呼び出した。

 アドリアとルイーザにそれぞれ5頭ずつ、護衛代わりに同行させることにした。


 フロリアもすぐに両国のそれぞれの拠点の町に向かう。

 ただ、大鷲は使えない。フクロウではない猛禽類は夜は基本的に飛ばないし、雨にも強くない。

 ちなみに一度は召喚したモンブランの眷属もふくろう科以外は送還している。ただ、フクロウ科もあまり雨の中では戦闘が出来ない。

 

 フロリアはまずは手近なローレンの方に走りながら、セバスチャンに「機動歩兵も動かして。あ、でもひと目につかないように町から外れた処にお願い。それといっぺんに全部は動かさないで、半分ずつ。長時間の戦闘になるから、半分は休ませながら戦うようにしてね」と頼む。


「承知いたしました」


 ローレンブルクの町の大門の前に着くと、リキシくんを2体出す。リキシくんは全10体で既に5体を戦場に出しているので、残り5体。

 そのうちの2体を出したのだ。

 戦場ですでに稼働している分も町に向かっているので、程なく合流して、それぞれの町を5体、5体で守らせる予定だ。


 モンブランの眷属は既に召喚されるか、雨宿りしているのだが、トパーズの方の眷属の猛獣が数頭、フロリアの接近を感じて、身を低くして隠れた場所から顔を覗かせる。


「うん。ありがとう。これからけっこう仕事が増えると思うけど、頑張ってね」


 ローレンブルクの町は、町の基本的な守備設備に不備があったが、幸いにもリキシくんが配備されるのと同時に、町の外の異変に気がついている者がいた。

 

 この町では門番は通り一遍とうな仕事しかしない。

 日暮れとともに大門を閉めると、さっさと上がってしまったのだが、その大門も門の蝶番もキチンとハマってない。このような状況はすぐに修理をしなければならないのは当たり前なのだが、すでに長い間放置されていて、門の片方がひどく歪んでいる。

 そのため、閂がキチンと嵌まらない上に、門の隙間から外が見えるという状況で、これが盗賊や魔物の多い地域であったら、歪んだ片方の側から内部に侵入されかねないぐらいだった。


 町のすぐ傍の坑道から上がってきた坑夫達は、煤けた顔を手ぬぐいで拭った程度で、いつも通り汚れた服のまま町中の居酒屋に入る。

 普通の町なら出入り禁止になりかねないような服装だが、ここでは皆がそうなので、店員も誰も文句を言う者は居ない。

 坑夫達皆がそうして居酒屋に収まれば、雨の日のことなので、フロリア達がすぐ外で奮戦しているのに気がつくのは多いに遅れたであろう。

 

 たまたま坑夫の1人が坑道の出口のところに荷物を忘れたまま町の中に入ってしまい、大門が閉まってから気がついたもので、取りに行こうとしたのだった。

 その坑夫はまだ新婚で、新妻の作った弁当のから箱が荷物に入ったまま。忘れて家に帰ったら、夫婦喧嘩になってしまう。


 それで、「けっこう降ってやがるな。傘もねえし、ずぶ濡れになって取りに行くのかよ」とぼやきながら、門の隙間から外を覗くと、黒黒しい図体の何者かが、門の前に鎮座している。


「あ、ありゃあ、……ゴーレム!?」


 坑夫だけあって、坑道内で働くゴーレムには見覚えがあった。しかもこの場所のゴーレムはアリステア神聖帝国の工房都市アルティフェクスのパレルモ工房の作るゴーレムを輸入していた。

 パレルモ工房のゴーレムは、数十年前にフロリアの師であるアシュレイが作ったゴーレムの大幅な劣化品である。

 フロリアとアシュレイの共同制作であるリキシくんとは遠い親戚であると言えないこともない。

 それが坑夫にどことなく見たことがあるゴーレムに見えたのであった。


 遠目に、何やら見たこともないようなカラフルな格好をした少女がゴーレムに何事かを言っていたかと思うと、少女はあっという間に立ち去っていってしまった。


「なんだ、あれ。……妖精?」


 目鼻立ちは判らなかったが、暗い曇天の雨模様のしたとは思えないほど鮮やかなパステルカラーのピンク色の衣装に身を包み、それに……


「足をあんなに出しているなんて。……きれいなあしだったよな」


 そんなことを考えるのもつかの間。

 ゴーレムの脇にトパーズの猛獣が数頭、近寄ってきているのに気がつく。

 猫科特有のしなやかで獰猛さを感じさせる体躯。

 ときおり見かける魔狼よりもさらに一周りも二周りも大きく、凶暴さを隠しきれない。


「え、魔物? た、たいへんだ。魔物の襲撃じゃねえか!!」


 若い坑夫は、手近な居酒屋に走る。


「おおい!! 大変だぁぁ!! 魔物の襲来だぞお!!」


 流石にまだ酔いが回る前の坑夫達はすぐに飛び出してくる。

 この猫科の猛獣は町に入ることは無かったが、大門の隙間から入り込もうとするゴブリンやオーク共がもうすぐやってくる。

 その前に荒くれ者の坑夫達がシャベルやツルハシを準備する時間の余裕が出来たのだった。


 フロリアは、そのままもう一つの町アルザーレンに向かう。

 かなり曖昧な国境を超えてスラビア王国側に入る。いまのフロリアは自由都市連合の冒険者である。ヴェスタ―ランド王国国民ではないので、国境線に縛られることはない。

 もっとも、たとえヴェスタ―ランド国民であっても、貴族や軍人のような立場にない一般の庶民はあまり国境線というものを意識していない。

 いわゆる国民国家というものは近代ヨーロッパに生まれたイデオロギーであって、この世界の人々には馴染みのないものであったのだ。


 アルザーレンも町の人々の安全に対する意識はローレンブルクと似たりよったりであったのだが、こちらは大門はしっかりと不備のない状態に保たれていた。


 ここでもフロリアはリキシくんを3体出して、町を守らせる。


「セバスチャン。私は魔物の多い処を遊撃して周るけど、町が危険な状況になったら、すぐに教えてね」


「かしこまりました、ご主人様」


 雨の中でも、フロリアは半ば自然に自分に防御魔法を掛けているので、ひどく濡れたり寒さに凍えたりはしない。既に、モルガーナやソーニャとはそれほどの魔力量の差があるのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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