第401話 作戦会議
最速でロレーン・アルザル地方上空に到達したフロリアは大鷲もあまり人に見られるとよくないだろうと考え、相当に上空で「ありがとう、また後でお願いするかも知れないからお願いね」と言って、大鷲の背をポンポンと撫でると飛び降りた。
この地方は完全に鉱山を中心にしていて、鉱山入り口の周辺に作った町以外は、疎林が広がっている。
時間は午後4時頃。まだ日の入りまでは数時間あるが、今日は曇天で空が低い。
あまり目立つことは無いだろう。
フロリアは数十秒、自由落下してから風魔法を自分の下に展開して滑空に切り替え、見晴らしの良い丘の上に着地した。
「誰にも見られてないよね、多分……」
「セバスチャン?」
「はい、ご主人様」
「カラスくんは?」
「北方5キロのやはり目立たない場所に着陸をしたところです。
それから、既にマジックレディスの方々は、フロリア様の亜空間で待機して居られます」
「ありがとう」
亜空間に入るといきなりモルガーナが飛びついてきた。
「フィオちゃ――ん!! 聞いたよ――!! 面白そ―じゃん」
「く、くるしい」
モルガーナの胸部で窒息しそうになって、手足をバタバタさせるフロリア。
ようやく抜け出して、アドリアに「姐さん。スミマセン。お願いしたくて……」と頭を下げる。
「ああ、判ってるよ。規模が判らないスタンピードとは厄介な話だ」
「とりあえずは始まる前にたどり着いて良かったです。早速、作戦会議を始めましょう。あ、セバスチャンも聞いてますよね。何かの方法で発言もして下さい」
ルイーザの言葉から数秒後、転移魔法陣が光るとセバスチャンもやってきた。
「それじゃあ、状況から聞こうか」
「現在、カラスくんがロレーン・アルザル地方のうち、アルザス側、すなわちスラビア王国の支配地域に着陸しております。飛行時間の関係がありまして、このまま上空待機は難しいと判断したためでございます。
ロレーン側、すなわちヴェスタ―ランド王国の支配地域はご主人様の亜空間の出口が設置されており、何時でもご主人様達が出撃出来る状況となっています。
その他、簡易転移魔法陣を設置できるねずみ型ロボット10体を含む、ねずみ型を200体ほど投入しております。
また、人工衛星による監視も行っています。
衛星は軌道を修正することにより、現在、3分間に一度の観測が可能となっています」
「そう。異変があったらすぐに教えてね」
「承知致しております」
「この辺って、魔物の群生地域なの?」とモルガーナ。
「ヴェスタ―ランド、スラビア両国の地誌学的解釈によりますと、魔物は周辺地域よりはやや発生濃度は濃いようですが、特筆するほどのものでは無い、とされています。
コバルトなど魔法金属の産地は、必ずしも魔物の群生地と近いという特徴はございません」
「そうか。そりゃあ、魔物が密集してるんなら、冒険者が少ないってことはないだろうからね」
この地域には鉱石の輸送の際の護衛の冒険者グループ程度しかいないというタチアナ王太后の言葉はセバスチャン経由でマジックレディスにも伝えられていた。
「スタンピードが来るとして、ここらにはどんな魔物が住んでるんだい?」
「ほとんどが魔狼とゴブリンになります。オークが少々。オーガはながらく見かけられておりません」
「てことば、発生源はゴブリンの上位種?」
「その可能性は高いでしょうけど、決めつけは禁物ですよ、モルガーナ。
それよりもセバスチャン? 坑道の中から魔物が湧き出してくるという可能性は無いですか?」
ルイーザの指摘に、全員が一瞬静かになった。脳裏に浮かんだのが、自由都市連合のジューコー近郊のコバルト鉱山で発生した魔物災害。
「セバスチャン?」
「はい。すでにねずみ型ロボットを両方の町の鉱山に潜入させておりますが、特に魔物発生の気配はございません」
さすがにベルクヴェルク基地は元々が山脈の奥深くの魔法金属鉱山を開発するための拠点であっただけに、その可能性は考慮に入っていた。
「するとやっぱり、どこからから魔物の群れが湧いて出てきて、そのなんとかブルクとか言う町なんかを襲うってことなのかね?」
「とりあえずはその前提で良いんじゃないかね。ただ、決めつけはせずにいろんな場合に対応できるようにさ、セバスチャン、とにかく監視の目は広く拡げておいて貰えるかい?」
「承知致しました」
「で、私たちは武器の手入れやらをしたら、あまり緊張しすぎずにゆっくり過ごすのが一番さ」
アドリアの言葉に「そうだ、そうだ」と言って、モルガーナは居間スペースに置かれたクッションにダイブする。
「セバスチャン。何時もの規制はゆるくするから、とにかくスタンピードの気配やその他、変わったことがあったら見逃さないようにいろんな手段で監視してね」
とフロリアは頼む。
その他にも、ちょっと思いついて、一旦亜空間の外に出ると、モンブランに頼んでこれから夜に向けての監視のためにふくろう類を呼び出して監視してくれないか、と頼む。
それで、モンブランからの念話の回路を繋いでおくため、亜空間の出入り口は僅かに開ける事になった。
皆のところに戻ると、モルガーナとソーニャがセバスチャンからなにか衣装を見せられていた。
「だって、今回はフィオちゃんがやったって、見てる人にバレないほうが良いんでしょ。そりゃあ、大鷲にのって飛び回ったらバレちゃうかもだけど、できるだけ見てる人が判らないようにいつもの冒険者の格好よりもちょっと変えたほうがよいんじゃないかな、と思ってさ」
「……それって、私にその衣装を着ろってことですか?」
「いや、フィオちゃんだけじゃなくて、ソーニャもお揃いで着るのが良いかなって」
「何言ってるんですか? モルガーナとソーニャさんで着れば良いじゃないですか!!」
「私はもうこんな裾の短い服は着られないよ!
その点、ソーニャとフィオちゃんならよく似合ってるって! 大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないです! だいたい、こんなカラフルな衣装、どうしたんですか?」
「以前からセバスチャンに頼んで作って貰ってたんだよ。ほらブルーレイで魔法使いの娘が変身するとこんな服に変わるじゃない」
「お兄ちゃんが喜びそう。あ、いや、私は嫌ですよ。それに、それは魔法使いじゃなくて魔法少女じゃないですか? 私は変身なんか出来ません」
「それはあまり気にしなくても良いじゃない。中には変身するんじゃなくて、いちいちお友達が衣装を作ってくれて、それに着替える魔法少女もいるみたいだしさ」
いつも読んでくださってありがとうございます。




