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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第19章 故国
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第400話 出陣

 タチアナ王太后は即座に


「ええ。判りました。どちらの条件もその通りにするわ。国のミハエルにも、こちらのアドにも必ず守らせます」


と断言した。


 それまでフロリアには毛ほども感じさせなかったが、かなり王太后が緊張していたことが初めて感じられた。


「それでは、具体的にロレーン・アルザル地方のどのあたりとか、詳しい情報を教えていただけますでしょうか?」


「ごめんなさいね。それが詳しいことまで判らないの。ただ、それほど広い地域じゃないし、スタンピードで危険なのは、アルザーレンかローレンブルクのどちらかになるから、そこまで難しい話じゃないと思うわ。

 あなたならね。

 あ、そうそう、報酬のお話をしてなかったですね。内緒にするんだから爵位授与って訳にはいかないでしょう。魔導具もあなたは面白いものたくさん持っていそうだし、芸がないけどお金ってことにしましょうか。

 3白金銭ぐらいでどうかしら?」


「さ……」


「戦争を避けると思えば、大した金額じゃないわ。それと、討伐した獲物の素材やその他の収穫はそちらで好きなように処分して頂戴な。この国でギルドに持ち込んだらきっと騒ぎになるでしょうから、自由都市連合まで持ち帰って売ると良いんじゃないかしら」


「そうですか。……あの、応援を呼んでも良いですか?」


「あら、別に構わないけど……多分、間に合わないと思うんだけど。ヴェスタ―ランドに居る、あなたの知り合いじゃあ、残念だけどスタンピードに対応出来るような魔法使いはいないでしょ?」


「はい。マルセロさんから伺った条件だと、こちらには1人で来るようにとのことだったので、応援はダメなのかと思ったんです」


 タチアナはコロコロと鈴が鳴るような声で笑うと


「それは多分、アドが変に気を利かせたのね。多人数で来ると遅くなると思ったんでしょ。あなたも知っている通り、予知魔法の予知って随分あやふやで細かい部分は判らないものなの。だから、あなたが1人で戦うのが正解なのか、応援を得て戦うのが正しいのかなんて、今の私には判らないわ。あなたが正しいと思う方法を取ってくれたら良いわ」


「判りました」


「あら……。お客さんが来たみたいね」


「はい」


 少し前から、フロリアにも新たな来訪者の存在が探知魔法に引っかかっていて、気がついていた。タチアナのお付き達と少し立ち話をしてから、こちらに向かって来ている。

 覚えのある気配だった。


 待っていた処、四阿(あずまや)にやってきたのはオーギュストだった。

 

 オーギュストは四阿(あずまや)の前で片膝をつくと、「タチアナ王太后陛下とお見受け致します」と挨拶をした。


「あらあら、今はお忍びで来てるから、あまり肩肘張らなくても良いわよ。あなた、アドのお友達のオーギュストさんでしたかしら?」


「はっ! オーギュスト男爵でございます」


 オーギュストが、お付きに何らかの方法で確認した上でこの貴婦人をタチアナと認めたのを見ていて、そう言えばフロリアは自分が彼女をちゃんと確認せずに、本人の申告だけで信じていたのに気がついた。

 迂闊である。


「さて、オーギュストさん。せっかく来ていただいたのにすみませんね。もうお話は終わったから、お嬢さんはお仕事に向かって貰う積りなのですよ。宜しいですわね」


「ええっ!! いや、それは……」


 オーギュストは慌てて、この後、王都内の離宮にフロリアを伴って移動し、夜には王と非公式の面会(謁見というほど大げさなものにはならないそうだ)という予定になっていると言った。


「まあまあ。そんな予定まで立てていたのね。でも、残念だけどもう時間が無いのよねえ」


「そ、それは困ります」


「ええ。でもせっかくお嬢さんが早く来たのに、何日も無駄な時間ができちゃったから仕方ないわねえ」


 それまでずっと影に潜んでいたトパーズがいきなり出現すると、


「誰かさんの所為で、随分と時間を無駄にさせられたぞ、オーギュストよ」


「ぐっ……」


 みるみるオーギュストの顔が赤くなる。


「ト、トパーズ! いや、それは……」


「まあ、あなたも王様に無駄足踏ませたとなったら、後で困るでしょうから、私が一緒に言ってお話をしてあげますよ。心配いりませんよ。

 ――それじゃあ、お嬢さん。お願いね。

 今度、黒豹ちゃんも一緒にゆっくりと会ってお茶でもしましょうね。」


「はい、王太后様」


 フロリアは頭を下げると、オーギュストにも頭を下げて、すぐに四阿(あずまや)をあとにした。


「フロリア。この先、なにかあっても、あの女を敵にするなよ。単なる魔法だけならお前よりも遥かに劣るが、そういう問題じゃない。あれは恐ろしい女だぞ」


「うん。そうだね」


 それから、セバスチャンに連絡を取る。

 

「セバスチャン。聞いてた?」


「はい、ご主人様」


「ええと、ローレン・アルザル地方って判るかしら?」


「はい。ヴェスタ―ランド王国には一定の割合でねずみ型ロボットを配置しております。ただし、そちらの方を担当しておりますねずみ型ロボットは収納袋を装備した上位個体はおりません」


 収納袋がないということは、その収納内に収められた簡易転移魔法陣がその地域には存在しないという意味だ。


「ええと、一番近い収納袋をもったねずみはどこにいるの?」


「当該地域より、西に200キロほど離れた、城塞都市に配置しております。既に都市近郊のひと目の無い地域に移動中でございます」


 たとえ、ひと目につかない処まで移動しても、そこでいきなりカラスくん(機動歩兵移動用の回転翼機)を出して上昇するとさすがに目立つ。

 一旦、ねずみよりも高速移動が可能な機動歩兵を出して、さらに人家から離れた地域まで移動してやっとカラスくんの出番になるそうだ。


「どれぐらいで着ける?」


「3時間と見積もっております」


「それじゃあ、私がここから大鷲で移動したら、どれぐらい?」


「やはり、おそらく3時間程度かと」


「私は大鷲を使うわ。機動歩兵の方も展開、よろしくね、セバスチャン。あ、それから悪いんだけど姐さん達に連絡を取って、事情を説明して手助けを依頼して。余分なお金は貰えないだろうけど、3白金銭なら皆んなで分けても不足は無いと思うの」


 どの程度の規模のスタンピードか判らないが、マジックレディスが居れば心強い。

 

 フロリアはモンブランを呼び出すと、大鷲を召喚してもらい、ロレーン・アルザル地方を目指す。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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