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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第1章 旅立ち
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第4話 自宅に戻る

 朝食を終えて亜空間の外に出ると、夜の間にけっこう雨が降ったらしいが、明け方には上がって、清々しい朝だった。


 フロリアとトパースは、アオモリの中を歩いてレソト村を目指す。彼らの野営地から森の家までの間にレソト村はあって、あまり遠回りにならずに立ち寄れる位置関係にあった。これまでにも、何度かフロリアはトパーズをお供にレソト村を訪れて、村長のカールさんに頼まれて、けが人に治癒魔法を施したり、ポーションを納品して、代わりに麦や幾ばくかの生活必需品、布などを貰っていた。

 特に最近は、アシュレイは長く歩くと体がしんどいようで、何回かに一回はフロリアが1人で行くようになっていた。

 もしかしたら、フロリアに1人で他人と接触する経験を積ませる目的もあったのかも知れない。レソト村の住民であれば、アシュレイも信頼していたのだ。


 ところが、前回のこと、久しぶりに体調が良いアシュレイと一緒にレソト村に行ったところ、アシュレイはどうも様子がおかしいと言い出して、その日は碌に用事も済ませずにすぐに自宅に帰ったのだった。そして、フロリアに当分はレソト村に行かなくても良いですよ、と言い渡したのだった。

 そうは言われても、そろそろ小麦の在庫が足りなくなってきていたので、帰り際にちょっとだけ寄って、小麦を貰うことにしたのだ。


「フロリア。私はなにか胸騒ぎがする。レソト村は飛ばして、すぐに帰らないか」


 ところが、出発してすぐに、トパーズがそんなことを言い出した。


「朝は、そんなこと言ってなかったのに」


「そうなのだが、どうも気に入らぬのだ。こんなことはこれまで覚えが無いのだが……」


 たしかにフロリアもトパーズがそんなことを言うのは記憶にない。


 うーん。

 確かにお師匠様にはしばらくレソト村に行かなくても良いって言われているしなあ、とフロリアは考える。


 勝手に行って、後で怒られても割りに合わない。

 しばらく後になって、いよいよ小麦が必要になって、ここまで2時間近くも掛けて歩いてくるのも面倒だけど、まあいいか。


「分かった、トパーズ。このまんま、村には寄らずに帰ろうか」


「うむ」


 それで1時間ぐらいは早く帰れるだろうか。

 どちらにしても、村の近くの道を通ることには変わりはないのだが。


 その村の近くの道で前方から誰か来るのを探知した。

 村人なのだろうか。2人組のようだった。フロリアはトパーズに影に潜んでいるように言う。村人はいつまで経っても、このトパーズを怖がっているので、以前からあまり見せないようにしているのだ。アシュレイの従魔なので、フロリアには送還はできない。

 フロリア自身も亜空間に隠れようかと思ったが、それも余計な時間が掛かるし、かと言って顔を合わせると、村によってくれ、とか言われると面倒。

 仕方なく、道を外れてヤブの向こうに外れる。もちろん、探知魔法で周囲を警戒して、魔物にかち合ったりしないように気をつけている。


 さらに念のためにシルフィードに村人を気をつけていてもらうことにする。


「シルフィード」


「フロリア! フロリア!!」


 シルフィードは、フロリアが呼び出す他の精霊と同じく10センチほどの小さな少女の姿をしていて、白のワンピースを着ている。風の精霊らしく背中には半透明の羽が生えていて、それで飛び回ることができる。

 相性の良い者なら、その少女の姿を見ることができ、そうでなくとも、少し鋭い感性があればなにか光るモノが飛んでいると感じるかも知れない。でも、大多数の人間は精霊を見ることなどできず、ただそこに何かがいるとは感じるだけであった。


「シルフィード。悪いけど、あの辺りに居る人――多分2人いると思うけど、気をつけて話を聞いていて。こっちに来るようなら教えてね。


「うん、分かったよ、フロリア」


 精霊は召喚者のために働く気満々なのだが、人間とは違う常識や感性の持ち主のため、ちゃんと役立つように働かせるのはかなりの難行である。フロリアもこれだけの指示でシルフィードにやって欲しいことをやって貰えるようになるまで、かなりの試行錯誤をしてきたものである。


「フロリア。なんか話しているよ」


 シルフィードはすぐに森の木立の中を飛んでいく。


 10分もしないうちにシルフィードが戻ってくる。

 村人2人(もう少し近づいた時に猟師とその仲間だとわかった。どちらも最近、レソト村にやってきた人で古くから居る人ではない)が通り過ぎていって、数分かかっている。


「聞いたよ。話を聞いてきたよ」


 シルフィードは、正確に声色まで真似して彼らの会話を再現する。


"ったく、どこに消えちまったってんだ。これだけ探してもどこにも居ねえとはな"


"またベンの野郎に嫌味を言われるのかよ。あんなチンケな村の村長に収まった程度でつけあがりやがって"


"なあに、そのうちにあんなヤツ、追い出してやるさ。この村は俺たちで牛耳ろうぜ。金になる宛てもできたことだしな"


"ああ、ベンは隠しているけど、あれって、とんでもなく高く売れたらしいな"


 などなど。


 フロリアの胸にも不安が黒い雲のように湧き上がってくる。

 

「ありがとう、シルフィード。もうおやすみして良いわよ」


「いやあだあ。フロリアと一緒にいるの」


 シルフィードはフロリアの周囲を飛び回る。


「うん、分かった。それじゃあ、一緒に行きましょう。あまり離れちゃ駄目よ」


 フロリアはシルフィードが周囲を飛び回るのを許して、トパーズにも影から出て貰って、帰路を急ぐことにした。


 別の村人などが居ないのを確認すると、道に戻る。

 あの猟師達は誰か(なにか)を探しているようだが、どうも嫌な感じがする。もともと村にいたカール村長さんや村人の人たちはみんな優しかったが、最近、移住してきた人たちはどうも苦手であった。目つきが嫌だったし、前からの住人ともあまり仲良くしていないみたいだった。

 その新しい人達が何を探しているというのだろう。


 程なく、自宅の近くまで来ると、木が燃えたあとの焦げ臭い匂いが漂ってきて、トパースは我慢しきれずに走り出す。

 慌てて、後を追うフロリア。


 やっと追いついた時、トパーズは全焼して燃えカスになったアシュレイの自宅の前で、呆然としていた。

 しばらく、息を整えてから、フロリアはやっと一言


「なに、これ。」


 アシュレイの自宅は、建物の周囲をそれなりに切り開いて、広場のようにしてあった。もともとある程度は切り開いていたのだが、近年、ゴーレムを再び作るようになってから、その動作確認のためのスペースが必要ということで、広場が広くなっていたのだ。

 もちろん、その開墾作業自体、ゴーレムがおこなっていたのだが。

 その御蔭もあって、周囲の木々にまでは炎は燃え広がらなかったようである。


 だが、家は全焼していて、真っ黒な柱が数本立っているぐらいで屋根は完全に焼け落ちてしまっている。

 燃えたのは数日前だろうか、既に余熱も感じられない。夜の間の雨で冷えたのかも知れないが。


「お師匠様、お師匠様は? トパーズ、お師匠様はどこ?」


「フロリア、分からぬ。分からぬのだ。これまでこんなふうにアシュレイとの接続が繋がらないことなど無かったのに!!」


 珍しくトパーズも焦って、そのあたりをぐるぐる廻っている。

ちょっと重苦しい展開が続きますが、主人公たちが旅に出る過程は丁寧に描きたかったので……。

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