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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第19章 故国
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第397話 会うのも一苦労

 昨夜は一旦、亜空間からベルクヴェルク基地に戻り、さらにマジックレディスの面々と会って、ヴァルターブルクでの出来事を話し、衛士の態度は気になるものの「まあ、また道場なり屋敷なりに行ってみたらよいさ」ということになった。

 それで、今朝になって城内に出現したフロリアは、オーギュストの屋敷に向かうことにした。ねずみ型ロボットの報告で、衛士達が居ることは判っていたが、この時点でもフロリアの見込みは甘かった。

 衛士達に頼んで、オーギュストに繋いで貰えれば、それで解決すると思っていたのだ。当人としては別に追われるようなことをした覚えはないし、昨日もすぐに閃光を発した隙に亜空間へ逃げて、後はくつろいでいたので、衛士達がそんなに大事として捉えているとは思っていなかったのだ。


 フロリアを視認するなりわらわらと出現してきた武装した衛士の一団に追いかけ回されることとなった。

 フロリアに対し、「大人しくしろ!」等の警告を発することすらなく、いきなり武装集団が襲いかかってきたのだ。フロリアとしても言葉で弁明などしない。こうなれば、魔法を駆使して逃げるだけ。

 衛士側もフロリアが魔法使いの可能性を考えていたらしく、捕り方の中に魔法使いを配置していたが、幸いにもそこまで強力では無かったので、振り切って逃げる事ができた。


「おい、蹴散らすか?」


「ダメだよ、トパーズ。怪我させちゃったら、あとで面倒になりそう」


「もう十分に面倒になっているぞ」


 風魔法でお屋敷街の屋敷の屋根から屋根へと飛んで逃げ、追っ手の眼が無くなったのを確認してから亜空間へ。


「驚いたね、トパーズ」


「ああ、まさかアドと会うのがこんなに大事になるとは思わなかった」


「仕方ないから、一旦フライハイトブルクに戻って、姐さん達に相談しよう」


 だが、断りもなく立ち去るのも、国王からの呼び出しを無視したみたいでちょっと気が引けたので、置き手紙を残すことにした。

 フロリアはこの後に及んでも、お師匠様の昔なじみだから……ということもあって、そんなに立腹してはいなかったのだ。

 それに衛士達に追われたと言っても、簡単に振り切れるもので、他のあらゆる人間よりもそのことを深刻にとらえていなかったのだった。


 自宅の周辺で朝から騒ぎになったことで、流石のオーギュストも家人に事情を聞きにやらせた。昔みたいに自分で気軽に聞きにいけないのがもどかしい。

 下っ端の衛士はそこまで詳しい事情を知らされておらず、「凶悪犯がこのあたりで目撃されたので、追跡している。お屋敷の方でも十分に気をつけて頂きたい」という返事を持ち帰ってきた。


「物騒な話だな。アドが頑張っているから、最近は治安も安定していたのに」


と、オーギュストはのんきに報告を聞きながら、妻たちと朝食を食べる。


「それじゃあ、今日は俺も直接、市内を廻ってお嬢ちゃんを探してくるよ」


「うん。早く逢いたいよ。オーギュスト、早く探し出してよ」とロッテ。


「どうせなら、マジックレディスの皆んなも一緒に来てくれたら良いのに」とカーヤ。


「ああ、会いたいがなかなかうまくはいかないものさ。今日の夜にはフロリアに会えるさ」


 オーギュストはそう言うと、外に出る前に自分の書斎に戻って、愛用の剣を取りに行った。

 その時に見慣れない手紙が机の上に有るのに気がつく。

 

「うん。今日は夜まで戻らないんだから、手紙なら俺に直接渡すように言ってあったのに」


 後で家令に注意しなければと思いながら、手紙を手に取り、開いて読む。

 みるみるオーギュストの顔が青ざめていく。


「だ、誰かいるか!! この手紙を受け取ったのは誰だ!」


 オーギュストは怒鳴りながら、屋敷内を走る。


 誰も手紙を受け取った者がいないことを確認してから、もう一度、屋敷の外の衛士に凶悪犯の風体と衛士の責任者の名前を確認すると(今度は自分自身で行った)、すぐに王宮に向かった。


「アドの奴、激怒するだろうなあ。どうしてこんなことになっちまったんだろう」


と頭を抱えながら……。


***


「そんなんだったら、もう良いんじゃないかな。数日経ったら、帰ってきたことにしてマルセロ婆さんに事情を話しておしまいにしようよ」


 モルガーナの意見に頷くソーニャだったが、流石に年長者達はそんなに簡単にことが済まないのは理解していた。


「ねずみを使って、オーギュストと繋ぎがとれるんだったら、王都の城外にでも呼び出したら? それなら衛士に邪魔されないんじゃない。で、報酬の方は思いっきりふっかけてやれば良いんだよ。

 オーギュストは悪いやつじゃないけど、どうせ支払うのは王国だしね。私がついて行ってやれれば、うまく交渉してやるんだけどね。

 あ、トパーズ居るかい?」


 トパーズがヌッと顔を出すと、「あんたに色々と吹き込んどくことが有るよ」とアドリアがニヤリと笑った。


 ルイーザは「自分の生まれた国だという意識があると、衛士に追い回されたりするとまるで自分が否定されたみたいな気分になるのも判ります。でも、そこはあまり感情的にならないほうが良いですよ。アドリアの言う通り、余分に金が稼げる良いチャンスだと思って割り切るのが大事ですよ」とアドバイスする。


***


 オーギュスト男爵の緊急の報告を受けたアダルヘルム王は少々青ざめて、すぐに王都の警備責任者に事情を調べるように命じ、さらにフロリアに掛けられた指名手配を取り消した。

 なんでそんなことになったのか、大至急詳細に調べて、夜中になっても良いので直接、自分の元まで報告を上げるように命じる。


「もし、このままフロリアに会えずに帰られたら、タチアナ王太后になんと言われることか……。ったく頭が痛い」


 タチアナ王太后は、スラビア王国の王家の生まれでアダルヘルム王の先代の正妃であった。すぐに長男を産み、ヴェスタ―ランド王国の王妃として暮らしていたのだが、非常に珍しい例であるが、結婚して子どもが出来ることの年齢になってから魔法が発現したのだった。

 使える魔法はほぼ予知魔法のみに限られていたのだが、ひじょうに強力であり、彼女がヴェスタ―ランドで暮らした20数年の間に王国の危機を再三救ったのだった。

 

 そのため、国民に深く敬愛されるに至ったのだが、ままならないもので実子である皇太子が病死した。

 残る王子は、相続争いを嫌って王家を出て市井で冒険者をやっている次男のアダルヘルムのみ。

 

 アダルヘルムはタチアナの子どもでなく、比較的身分の低い側女の子であった。

 アダルヘルムを呼び戻すについては、王宮内でも様々な思惑が渦巻いていたのだが、タチアナ王妃自らが王に進言したことで決定した。

 アダルヘルムは「大森林の勇者」を解散して、王家に戻り皇太子となった。

 程なく、国王も病を得て薨去した時、タチアナはアダルヘルムがスムーズに王位継承を成し遂げることに協力したあと、事態が落ち着いた時点で母国に帰ってしまったのだった。


 タチアナの母国、スラビア王国はタチアナの兄が王位を継いでおり、この手の出戻り王女というのは厄介な立場になりがちであったが、何しろ非常に役に立つ魔法使いである。今度はスラビア王国の飢饉や災害を予知して、ここでも多くの命を救い、敬愛されるに至ったのだった。


 アダルヘルム王は、前の国王の正妃ということで、すでに国外に出たタチアナに王太后の称号を贈り、さらに毎年化粧代という名目で一白金貨(日本円で10億円)を送金している。以前はお付きのメイドまでヴェスタ―ランド出身者を送り込んでいたのだが、現在はそれは無くなっている。

 

 現在のタチアナはヴェスタ―ランド王国に対して好悪いずれの感情を抱いているのかを明らかにしておらず、先方からアダルヘルム王への接触も絶えてなかった。

 飽くまで国家間の儀礼的な挨拶のみが、唯一の接触であったのだ。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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