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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第19章 故国
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第391話 いったん、戻って……

 結局、定番コースという訳では無いが、電車で箱根に一泊旅行に行くことになった。池袋のマンションから新宿に出て、小田急のロマンスカーで箱根湯本へ。

 箱根登山電車に乗り換え、途中で彫刻の森美術館を見学した後、強羅まで。

 強羅のけっこうお高めの温泉旅館で宿泊した後、2日めはケーブルカーで大涌谷まで行って何故かカレーライスを食べて(ルイーザがすっかりカレーにハマっていた)、火口を見学した後は、桃源台まで下りて、お昼。芦ノ湖を海賊船で渡り、元箱根港で箱根神社を参拝すると、バスで箱根湯本に戻って……という定番ルートだった。

 

 マジックレディス一行に、フロリアが偶には一緒に遊ぼうと誘ってトパーズをアシュレイの姿で外に出して、総勢6人で行動したのだった。


 自然の風景というと、あちらの世界であちこち旅している彼女達にとっては、特別に物珍しいものではない。

 それで、彼女たちでも見たことのない火口の光景をセバスチャンが探してきたのだった。フロリアにとっても、以前の人生のときにお父さんが家族旅行を計画したのだが、大涌谷に規制が入っていて出来なかった記憶があるので、過去の無念(というほどでも無い)を晴らす機会であった。

 それに、様々な乗り物に乗れるというのも、マジックレディスにとっては新奇で刺激的であった。

 

 セバスチャンは、マジックレディスが体験したことがない乗り物という意味で飛行機にのって関西旅行も提案したのだったが、関西ではねずみ型ロボットの配置が甘くて、まだ現地の情報が収集しきれていないということで箱根になったのだった。


 箱根は、フロリアが以前より、ベルクヴェルク基地での過ごし方をみるとけっこうな温泉好き、というか温泉旅館好きであることを観察したセバスチャンが、日本にアクセス出来るようになってから東京近郊の代表的な温泉地の情報収集を早めに行っていたから、十分な情報が集まっていたのであった。


 ちなみに、露天風呂には絶景が必須、という情報を日本で入手したセバスチャンは、密かにベルクヴェルク基地の温泉施設(人工温泉だが)を改築中であった。

 一年中、雪が溶けない高山のことなので、露天ではなくはめ殺しの強化ガラスを通してだが外の風景が見える疑似露天風呂を作成していたのだが、そのガラスの設置場所を竜の巣がよく見える処を選んでいた。

 しばらく後に、フロリア達は巨大な飛龍が何頭も飛び交い、小龍が巣に埋もれ雪をかぶっている光景が遥か雲海を背景に眺めながら温泉に浸かるという体験をすることになる。

 もっとも、モルガーナは素直に大喜びしたが、ルイーザは「どちらかと言うと絶景だけで十分で、ドラゴンはちょっと余計かな」と言っていたのだったが。


 こうして、日本でのバカンスは10日めになった。最初の5日で費用が1千万を超えたので、どうなることかと密かに恐れていたフロリアだったが、10日目にセバスチャンに聞くと、総計1200万であった。

 5日で200万を使うというのはけっこうな豪遊であるが、それでも前の5日間に比べると大人しく思えてくる。

 もっとも、一通り買うものを買ったので落ち着いたというだけであって、彼女たちは遠慮をしたわけではない。そのうち、もっと詳しく現代日本のことが判って、他に欲しいものが出てきたら、またとんでもない費用が掛かることだろう。


「でも、使った分はちゃんと冒険者稼業で稼いだ分からフィオちゃんに返すさ。セバスちゃんは気にしなくても良いって言ってるけど、その辺はけじめだからね」


とモルガーナ。

 

 彼女をはじめマジックレディスの皆はたしかにお金踏み倒すような行動は取らない。

その点はフロリアも安心しているのだったが。


 10日間経ったところで、いっぺんフライハイトブルクに戻ろうか、という話になった。

 いや、元来そのぐらいで戻る積りだったのだが。


「また、その気になれば遊びに来れるんだしね。ていうか、もっと頻繁に来ようよ。買ったけど着てない服がまだあるんだよね」


 セバスチャンも「それでは、今回のような民泊の施設を借りるのではなく、もっとしっかりとした拠点をご準備致します」と提案し、それは皆の賛同を得たのだった。

 いくら亜空間が快適とは言え、フロリアと行動を共にしていないと、不便なことも多い。

 せっかく日本にいるのに、ちょっとコンビニに買い物に行くという経験をしようと思ったら、亜空間に入らずに狭いワンルームの方に居なければならないのだから(前回の日本滞在の時に、亜空間の扉をほんの少しだけ開けっ放しで自分が離れたことがあるフロリアだが、あれは緊急事態でやむを得ずやったことで、普段からそれをするつもりは全く無かった。たとえ、モルガーナにねだられても)。


***


 フライハイトブルクへは、ベルクヴェルク基地経由で転移魔法を2回繰り返すだけなので、あっけないと言えばあっけない。

 町の近郊にあるアドリアの別荘に戻った一行は、管理人のおじさん(近くに住んでる)にお忍びの旅行から戻ってきた旨を伝えて、留守の間のことを聞いたが特に町から連絡は無かったという返事だった。

 それは、町に配備し常駐しているねずみ型ロボットの報告で判っていることであるが、流石に聞かないと不自然である。


 そして、別荘からそろそろ町のパーティホームに戻ろうかというところで、ねずみ型ロボットからの報告で、ホームにギルドから使いが来て、アドリアとフロリアに連絡を取りたいという内容のメッセージをパメラおばさんに伝えたことが知らされた。

 パメラおばさんはすぐに、別荘までの使いを出す。

 

 別荘も管理人が定期的に掃除しているとは言え、行き届いていない部分もあるので、それを皆で掃除して待っているうちに使いが到着する。

 パメラおばさんの手紙を開いて見ると、冒険者ギルドのマルセロからの呼び出しとのこと。

 

「また、なんかの討伐依頼かな?」


「それにしては私とフロリアの呼び出しってのが気になるね」


とモルガーナの質問に答えるアドリア。


 フロリアは一応はまだ未成年である。しれっと討伐に参加してしまっているケースもあるのだが、あくまでアドリアは飛行が必要なケースで大鷲を使うのに同乗したり、というだけであって、魔物との直接的な戦闘はできるだけフロリアは後ろで見学させるようにしている。

 

「あんたは、1人きりの頃に随分と闘ってたみたいだし、今更……って気もするんだけど、ま、一応ね」


 アドリアはそう言っている。


 マルセロも、そうしたアドリアのこだわりは判っていて、フロリアには実際の戦闘を依頼するようなことはない。というかそもそも未成年は魔物狩りをしてはいけないというルールは冒険者ギルドが定めたものなのだから、ギルドのトップとしては当たり前なのだが。


 それがこうしてフロリアが呼び出されるというのがちょっとした不思議ではある。


「あ、ひょっとしたら、フィオちゃんが何かしでかしたのが、マルセロ婆さんにバレて怒られるのかもよ」


「わ、私は別に悪いことなんか……全然、してないとは言いませんけど……」


 でも、前回呼び出された後は、悪いことはしてない。日本ではフロリアを主人と仰ぐセバスチャンが法に触れることをヤりまくっている気がするけど、それはマルセロにバレることは無いだろう。


 ともかく、一旦パーティホームに戻ると、割りと遅い時間になったので、アドリアはギルドに明日伺うという使いを出した。


 その日は、夕食のときでももうギルドの話は出ない。

 今の段階で議論しても結論が出る訳じゃなし、話をしても無駄、どうせ明日になれば判るのだから。それよりも、楽しい話をしている方がずっと良い。

 流石に使用人もいるし、その子どももいるので日本の話は出来ないのだが……。


 いつの間に準備したのか、モルガーナは子どもたちにお土産をしっかりと買っていた。お菓子であった。とは言え、日本のキレイに印刷されたパッケージに入っているような製品は流石に買えない。

 モルガーナがもったいぶって収納から取り出したのは一斗缶入の割れせんべいであった。

 この世界でも和食の鋼人が日本料理と食材を広めたおかげで、日本のお菓子もある程度は一般的になっていた。

 ただ、和食が高級料理になっているということもあり、和菓子もけっこうな高級品であった。

 その中ではせんべいは割りと値ごろ感があって、庶民でも多少懐に余裕のある層にとってちょっとした贅沢で食べられている。


「へぇ。面白い入れもんに入ってるね。それにこんなにしっかり醤油を使ったせんべいなんてなかなかお目にかかれないよ」


 パメラおばさんも少々驚いていた。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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